No. 00096
DATE: 1999/02/12 13:23:47
NAME: カール
SUBJECT: 決闘編(1)
オランの西にある高台。
見晴らしもよく初夏などには快適な場所かもしれないが、今のような時期では枯れ草と葉が全て落ちてしまった木しかないような淋しい場所となってしまっている。
そこに一筋の獣道ようなものができあがっている。
何人もの人間がこの先にあるものに頻繁に通ってきているの証拠だろう。そしてこの先にあるものは小さな墓。
墓石には「戦士ルフィス・フォビュートここに眠る」と刻まれている。
その墓前には1人の青年が立っている、長身に肩までの黒髪に黒い瞳。腰には二振りの魔剣が差してある。
カール・クレンツ。チャ=ザの神官戦士にして、墓の主の仲間であった男である。
「・・・よ。また日数空いてしまって悪かったな。」
そう、墓に向かって清掃しながらカールは語りかけた。
「・・・別にカルナさんといちゃついてたわけじゃないよ。ちょっと忙しくて倒れてしまってな。・・・・・・え?もう大丈夫だよ。本当にお前は以外に心配性なんだよな。」
『別にあいつがそのように語りかけてくるわけではないんです。ただ何となくそんな気がするだけで・・・。』
一度、カルナと供にここへ来たときに墓前に語りかけている自分を見て。
「カールさんは何か聞こえるんですか?ルフィス君の・・・『声』みたいなものが・・・」
と聞かれたときにカールは最愛の人に向かってこう答えた。
かさ・・・
誰か近づいている音がする。しかもかなり近くまで来ている。
戦士として培われた勘がとっさに腰の剣へと手を伸ばさせる。
「誰ですか?これ以上何も言わずに近づくなら敵とみなしますよ。」
そう、近づいてくる人間に警告をする。
ここまでひっそりと来たのだとても友好的な人間だとはカールは思わなかったが・・・自分自身が相手から襲ってくる気がないならこちらから手出しが出来るような人間ではないこともわかっているのでこう言うしかなかった。
かさかさ・・・
それでも何も喋らずその気配は近づいてくる。
そしてその気配は草むらか出てきてカールの目の前に現れた。
20代後半ぐらいの旅姿の青年だ。腰には一品物のブロードソードを差し、身なりが汚くてもそれなりの気品という物を感じさせる。上流階級に生まれた証拠だろう。
「どちら様ですか?」
その青年に見覚えのなかったカールはそう問いただした。しかもまだ警戒は解いていない、戦士の勘、いや動物として本能がこの男に対して警戒すべきだと警鐘を鳴らしているのだ。
「お忘れになったのですかカール・クレンツ君?」
青年はそう切り替えしてきた。
「・・・・・・・?」
たしかにこの声どこかで聞いたことがある。そしてこの顔にも見覚えがある。でも、どこの誰かまではわからない。
・・・ただ一つ言えることはこの男とは良い思い出はないと言うことだろう。心身共に完全に警戒している。
身体は既に暖まっており、精神も細く、そして鋭く研ぎ澄まされていっている。いつでも戦える状態だ。
「私だよ。君は私の大事なハニーを奪ったというのに私のことは忘れてしまったというのかね?」
「・・・・・・・・・・・!!」
「思い出してくれたかい・・・カール君。」
「・・・・ジョ、ジョセフ。」
ジョセフ・デュ・ミルディア。
プリシスの名門ミルディア家の嫡子にして、カールの恋人であるカルナ・ヒトラウスの許嫁である男。
眉目秀麗にして、剣の腕も一流。そして、とても個性的な服装と言動をする男・・・それがカールの中でのジョセフのイメージである。
だが、目の前にジョセフは彼が知っている頃のジョセフとは全く違っていた。それは、服装が地味だからとかそう言うものではなく、内面の成長が外見に出てきた・・・そんな感じだ。
「やはりキミも私を見せかけでしか見てなかったようだね。・・・まあ、深く関わってもいないキミにそのようなことを言っても仕方のないことだが。」
そう言って、ジョセフはルフィスの墓の前に立ち小さな声で光の神々に祈りを捧げた。
「・・・何故、ここが?」
「きままに亭で聞いたんだよ。鼻を持ってるのを見たからおそらくここだろうって・・・店員がね。」
「そう、ですか・・・」
そういうとジョセフはカールの方を向きまじめな顔で近づいた。
「私が君の前に来た理由はわかっているよね?」
「ええ」
来るべき時が来た・・・そう感じてはいる。避けられない・・そう思っていた。
「そう、あなたの決闘しに来たのですよ・・・すべて捨て自分のために・・・」
ジョセフは腰の剣をすらりと抜いた。
<続く>
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