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No. 00102
DATE: 1999/02/17 12:02:05
NAME: セリス
SUBJECT: フォルテと買い物
ここはきままに亭。
夕日が差し込む時間にこの場所に居るのはフォルテとセリスだけ。
・・・・・・常連と呼ばれる客達は二人だけの世界を見て他の場所に行ってしまうのだろう。きっとマスターはそんなふたりに苛立ちを見せている・・・かもしれない。
とにかく、夕日の差し込む時間に、フォルテとセリスはきままに亭に居た。
ふと、フォルテがセリスの格好を見て、問う。
「セリス、ドレスとかスカートとかは着ないのですか?」
「持ってないもん」
セリスはあっけらかんと答える。
「持って・・・ない?」
「正確に言えば、一着だけ屋敷にあるよ、ドレスだけど。・・・でもそれって12の時作ったものだから、サイズ合わないと思う。
それ一着しかないのは理由は父さまに『男のように振舞え』って言われてたから」
言うだけ言って、自分の姿に目をやる。
「・・・・・・やっぱ、変?」
自信なさそうにフォルテを見上げる。
フォルテはそんなセリスを見て、微笑む。
「変じゃないですよ」
セリスが安堵の溜息をつく。・・・・二人の世界が広まる。従業員でさえ気恥ずかしくて、店に顔を出さない。
「着たいと思ったことはありますか?」
「・・・・・・・・うん」
躊躇いがちにセリスは正直に答える。
「あ、でもドレスは要らない。動きにくいし苦しかったし」
男装のような格好をしているセリスは、ドレスを着る時に使用するコルセットは常備しない。
・・・慣れてない者がはめると、コルセットは結構苦しいものである。
「では、スカートだけでも買いに行きましょう」
フォルテは微笑んでセリスの手を掴む。
彼女は笑顔を見せることでそれに答える。
そして二人はきままに亭を後にした。
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「ひーん」
人にぶつかるたび、セリスは泣きそうになる。
セリスは他人と接することに慣れていない。だから他人に触れられるとどうしようもない恐怖に襲われる。
ただし、彼女が信頼している人に対しては何ともない。
それを知っているフォルテはセリスをどうにか庇おうとするが、人ごみの中に居る為、どうしても無理である。
セリスはぎゅっとフォルテの服を掴んでいる。その手が震えている。
(困りましたね・・・)
フォルテはその手に触れる。そして周りに視線をさまよわせる。
(あそこに行ってみましょうか)
フォルテの目に、あまり人が入っていなさそうな店が飛びこんだ。
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「いらっしゃいませ」
フォルテが見つけたその店は運がいいことに(?)服屋だった。
奥から店員らしい女性の声が聞こえる。
「・・・・・・大丈夫ですか?」
フォルテはセリスを気遣う。セリスはまだ震えている。が、フォルテを安心させようとなんとか微笑む。
「まぁ、気分が悪くなったんですか? 今椅子をお持ちしますね」
奥から顔を覗かせた店員がまた奥に去って行く。
しばらくして、ようやくセリスの震えが収まった頃、店員は椅子を抱え戻って来た。
「こちらを・・・・・・・」
店員がフォルテとセリスを見て、目を開く。そして一言だけ言葉を発する。
「・・・・・お嬢、さま?」
「え?」
呼ばれ慣れた言葉を聞き、セリスは顔を上げる。そして彼女も驚きを見せる。
「・・・・・・・マリエーン・・・?」
驚きながらセリスは呟く。それを聞いて店員は喜ぶ。
「やっぱりお嬢さまでしたのね。お久し振りです」
「・・・・セリス、この方を知ってるのですか?」
訳が判らないフォルテはセリスに問う。
セリスはそんなフォルテに気がつき、説明する。
「彼女は以前、あたしの屋敷で働いていたことがあったの・・・」
セリスは躊躇う。
「・・・・・・母さまが殺した娘の・・・お姉さんなの」
マリエーンと呼ばれた店員は少しだけ寂しそうに笑む。
「お嬢さま。そのことはけして、お嬢さまの所為ではありませんよ」
「・・・・・・・でも」
セリスはマリエーンを見る。マリエーンは目をつぶる。
「私とミレーヌは、キャリオン家の秘密を知る数少ないメイドのうちの一人・・・。お嬢さまはずっとずっと、孤独だった・・・。不幸だったことを知っている姉妹です。
ですから、いつも申しておりました。『二人で守っていこう』って。でも私・・・結婚したことで屋敷を去ることになってしまって」
本当に残念そうにセリスを見る。
「・・・あの娘は、お嬢さまの幸せだけを願っていました」
マリエーンはフォルテを見上げ、セリスの微笑む。
「お嬢さまが幸せならば、あの娘も喜ぶでしょう」
「マリエーン・・・」
セリスはほんのりと顔を赤くする。そして、涙を流す。
「ごめんね、あたしの所為で・・・っ。ごめん・・・」
「謝らないでくださいな。あなたの所為ではありません。あれは起こるべくして起こった事。
・・・・・・・・・殺されたのがあなたでなくて良かった・・・」
フォルテはマリエーンの表情を見て、笑んだ。
(みんな・・・あなたのことを想っているのですよ・・・)
そんなことを思いながら、フォルテはセリスの頭を撫でた。
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「お嬢さまなら、こちらの色が似合うと思いますけど・・・。どう思われます?」
赤い生地のスカートを見せながら、マリエーンはフォルテに問う。
「どれも似合うと思いますが・・・」
フォルテのそんな言葉を聞き、赤くなるセリス。
「着てみてはいかがですか?」
フォルテが問う。セリスは戸惑い気味に、
「・・・あたしスカート着たことないよ・・・」
と答える。
幸せそうな二人を見て、マリエーンはくすくすと笑う。
「私が教えて差し上げますよ、お嬢さま」
「お嬢さまは止めてって、マリエーン・・・。あたしはもう・・・」
「結婚なされますんでしょ?」
ぼっ。
セリスの頭から湯気がでる。
そんなセリスを見てマリエーンはまた笑う。
「ついでですから、サイズを測っておきましょう。・・・ドレス用に。
いいですわね、フォルテさん?」
「はい、お願いします」
「・・・・・・・!!!」
セリスは二人の会話を聞いて何か言いたそうに口を開ける。
「そうですわ、化粧の仕方などもお教えしておきませんと☆」
「結婚式の時必要ですからね」
くすくすとフォルテが笑う。
ぼしゅう。
セリスの頭が爆発した。
・・・・・こんなことを繰り返しながら、夜はふけて行った・・・
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