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No. 00112
DATE: 1999/02/23 02:30:58
NAME: レドウイック・アウグスト
SUBJECT: ある夏の終わり(後編)
ある晴れた夏の終わり。
澄み渡る青空の下。
大陸で一番大きな街の、一番高い3つの塔の中で。
六人の魔術師が話し合っていた。
「自由にさせすぎたようじゃの。」
最初に口を開いたのは、頭の禿げ上がった、白い髭の老魔導師。
・・・どうやら六人の中では一番偉いらしく、
70代くらい・・だろうか。
「ライナスのギルドからと言うことで、余り干渉しない様にしたのが裏目でしたな。」
「まさか、魔獣創造とはな・・。」
「研究費の多さに気づかなければ、危ういところでしたな。」
「まったくですな。ところで処分の方はどうしますかな?。」
すると、その言葉を待っていたかの様に一番若い男が話し出した。
「その件ですが、私に任せていただけないでしょうか?。」
(今更気づきやがって)
「ザナルファー、か。」
そう一番若い男の名前を呼んだ後、のこる五人は相談し始めた。
ザナルファーと呼ばれた男は、心の内で呟いていた。
(ジジィ共め!、どうせ愚にもつかない研究で忙しいんだろ?。)
(どうせ自分でなんか何もしないくせに、えらぶりやがって!。)
しばらくして、話が付いたらしく。
「・・・じゃあ、宜しく頼んだよ?、ザナルファー導師。」
と老人が言った。
「はい、必ず納得のいく結果にしますのでご安心を。」
そう返事をし、全員が出ていった後。
再び席に着き、暫く目を閉じて居たのだが。
不意に宙に向かって話し出した。
「レドウィック・・、居るんだろう?。出てこいよ。」
すると、不意に暗闇の中から、真紅の布に包まれた男が現れる。
「何故・・・、解った?。」
そのフードを払いのけると、白い肌の上に癖のかかった金色の髪がこぼれる。
相変わらず心とは裏腹に美しい顔だな、と思いつつ、ザナルファーは聞いてみる。
「私が、君の過去を少し知っているからさ。・・・また、もどるつもりかい?。」
目を細めるレドウィック。
「何を知っている・・・。」
一歩、間を取り。
「ライナスの暗殺組織、『紅闇』の幹部・・・。」
ザナルファーは間合いを取ったにも関わらず、
瞬間的にレドウイックからあふれ出した冷たい殺意に冷や汗が止まらなかった。
「ま、まて。もう、組織は無くなったのだろう?、・・・それとも。」
目を見開くと、レドウイックは。
「そうか・・、精霊使いか。・・・心を読まれたな。」
悟られたか・・・・ならば、殺すしかない、か。
風のないはずの部屋の中で、ふわりと紅い外套が揺れ動き始める。
「い、一緒に、その研究を売らないか?。そう、そう言いたかったんだ。」
焦り始めるザナルファー。足は扉の方へと向かっている・・。
「無駄だ、欲をかいたばかりに失敗したな。お前は知りすぎた・・・。」
衣の裾から、その中で充満していた毒の粉が流れ出す。
空気に乗ったその黒い粉は、
吸い込むと激しい痛みを伴う物らしく、
古代語呪文を唱えるには、かなりのリスクを覚悟せねばならない。
・・・逃げなければ、逃げなければ、と思いながらも足が思うように動かない。ザナルファーは実戦を経験したことがなかった・・・。
レドウイックは背中から小さいブロードソードを引き抜く。
その色は、血のように紅い輝きを放っていた・・・。
「それだけ知っていれば・・・、私が魔術師専門の暗殺者だという事は知っているのだろう?。」
笑みを漏らしながら、レドウイックは小さく何事か呟き、外套の魔力を解放する。
紅く、にじむような光を外套が発すると共に、レドウイックの身体が2つになる。そう、・・・少なくともザナルファーの目にはそう映っていた。
「レドウィックがふたり・・・。」
それが、ザナルファーの最後の言葉になった。
背後にいる3人目のレドウィックに、こめかみを叩き割られたからだ・・・。
「・・・ここにはもう居られんな。」
日暮れ頃。
ザナルファーの報告を待っていた老魔導師は、二人の不在と、会議室の血痕に気づく。
急いでザナルファーとレドウイックの部屋をそれぞれ調べると。
きれいに始末されたレドウイックの部屋にはすでに何もなかったが。
荒らされたザナルファーの部屋には何枚かのレドウイックに関する書類があった。1、ライナス生まれ。
2、孤児、ただし兄一人あり。
3、ある貴族(名前伏せ字)に兄弟で引き取られる。
4、魔術と暗殺術を学ぶ。(暗殺者時代)
5、仕事中に兄死亡。
6、フリーの魔術師暗殺業として禁呪を集める。
7、ライナスのギルドに追われる。
8、とある大貴族に拾われる(助けられる)。
9、オランに一時追放と言うことで留学。
そして、現在にいたる。
老魔導師は呟いた、「暗殺者・・・か。」
「しかし、あの呪文書を野放しにはできんしな。」
・・・追っ手をだすか。
3日後。
レドウイックの賞金18000ガメルが告知された。
内容は、
この男。ギルドより禁断の魔法を持ち出したので捕獲して貰いたい。
なお、死体の場合は当該魔術書及び呪文書を持ってくること。
終
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