No. 00114
DATE: 1999/02/23 22:02:39
NAME: カール
SUBJECT: 決闘編(2)
すらりと剣を抜くジョセフとは対照的にカールの中には迷いがあった。
そう、この勝負は絶対に負けるわけには行かない。
しかし、勝つことすなわちジョセフ殺すと言うことでもあるのだ。相手と自分の剣の腕は拮抗している。
手加減などは一切出来ない。
でも殺すことは出来ない・・・それは何があってもできない。
自分の信念に反してしまう。
家を捨て死に場所を求めさすらい、多くの人間を殺してきた。
いつでも死んでも構わないそう思っていた過去の自分。
そしていまは・・・・
だから絶対に斬れない。もう、人など斬りたくない。それが本音だ。
が、しかしジョセフの中にも迷いはあった。
自分が完全にカルナに拒絶されている。
たとえ目の前の男に勝ったとしても自分には振り向いてくれないこともわかっている。
でも、彼女のことを愛しているのだ。
小さな頃病弱でひ弱で誰にも優しくされなかった自分にはじめて優しく接してくれた彼女を。
彼女結ばれるためにあらゆる奇行をした。それによって自分の価値を下げ。
名門家の嫡子の自分と中流貴族の彼女との間に政略結婚にまでこぎ着けたのだから。
が、それは目の前の男によって一瞬にして瓦解してしまったのだ。
カール・クレンツ。
別にこの男が彼女のことをだましているとは思ってはいない。
おそらく彼女のことを心から愛し、彼女もこの男の子とを心から愛しているのだろう。
自分の入れる隙間など、少しもないことには気付いている。
自分のやっていることは嫉妬以外何物でもないのだ。横恋慕なのだ。そんなことは頭では分かってる。
本国からもこの決闘に関しては自重せよとお達しが着ていた。
貴族の嫡子が一介の戦士と決闘するというのだどう考えたって止めるであろう。そのことも理解できる。
なのに自分は貴族という地位まで捨てこの男前にやってきたのだ。
それまでしてもやらずにはいられない程に彼女のことを愛しているから。
単なる男としての惚れた女に対する意地なのだ。
沈黙が辺りを支配した。冷たい冬の北風が枯れた草達の間をすり抜ける音だけが聞こえる。
時間が止まったように思えた。
しばらくして躊躇いつつもカールは愛用の剣を抜いた・・・
互いに騎士の儀礼則り。一度剣を打ち鳴らし間合いを取る。
(もう、お互い騎士ではないのにな・・・)
互いにそんな場違いな意見を持っていた。
そして二つの影が交錯した・・・
「これからはどうするつもりですか?」
夕暮れの空の下カールはいまもまだ地面に倒れているジョセフに向かって訪ねた。
「私も家を捨ててしまったからね。今更プリシスには戻れないさ。」
「では?」
「しばらく各地を転々と旅して見るつもりだよ。キミがやったようにね。」
そういうとジョセフは立ち上がった。
「いつか必ずキミに追いついてみせる。そして彼女を奪ってみせるよ。」
「オレだって負けるつもりませんよ。彼女を奪われるわけには行きませんから。」
そう言ってカール笑い返した。この男とこのように話すようになるとは夢にも思わなかった。
結局勝負はカールがからくも勝った。しかもジョセフを殺さずに・・・
しかしそれはホント運としか言えないものであった。だが、二人の男はその結果に満足しているようだ。
「それまではキミにハニー・・じゃない。カルナを預けておくよ。それにいまはキミの側にいることが彼女にとっても幸せのようだしね。」
そういうとジョセフは一つの手紙を差し出した。
「これは?」
「私から彼女に宛てた手紙だよ。もし、この決闘で死んだときのことを考えてね。」
「・・・遺書ですか?」
「ああ、そのつもりだったが。死ねなかった。いや、死ななくてよかった。」
そこまで行ってひと呼吸するとまた話し始めた。
「いま、ここで少し書き直すから彼女に渡してくれないか。しばらくは会えないだろうからそれに一度けじめをつけておかないと。」
「・・・わかりました。渡しておきますよ。」
一瞬彼女にあって行けと言いそうになった。が、それは言ってはいけないことだった。会いたいに決まっているのに会わずに出ていこうとするジョセフの気持ちを察したのだ。
「・・・・」
何も言わず手紙を書き直すとジョセフは去っていった。いつかカールに勝つために自分を捜すために彼はこの町を出た。
新王国歴511年2の月の出来事である。
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