 |
No. 00119
DATE: 1999/02/25 17:49:33
NAME: スフィリア&パーン
SUBJECT: あ・し・ど・り♪(その後:上)
「ここか」
全体的にゆったりとした、締め付けの少ない砂漠の民独特の装束を身に纏った細身の男がくぐもった声で呟いた。声が篭るのは、顔の半分以上を覆う布の所為だ。
「あぁ。死体は俺達が片付けた。血の跡まで掃除しようって奴はいなかったから汚いまんまだけどな」
その男の横に、金属鎧に身を固めた長身の偉丈夫が立っていた。
戦士の名はパーン。
砂漠の民の名はスフィリア・フィルド。本名かどうかは定かではない。彼らは半球型をした玄室の中に立っていた。
床には夥しい量の血の跡が黒く変色してこびり付いている。その血の跡に隠れるかのように魔法陣が描かれているのが見て取れた。
「パーン殿。最後にもう一度だけ伺っておく。何処へ飛ばされるとも分からぬこの旅路。本当に構わぬのか?」
砂漠の民の問いかけに、戦士は笑って答えた。
「くどいね、あんたも。さぁほら、俺の決心が鈍らんうちにさっさと頼むぜ」
砂漠の民は一つ肯いてから、懐の隠しから皮袋を取り出すと、その中の魔晶石を順番に魔法陣の周囲に設けられた窪みに納めていった。
『今こそ開け、砂の扉、緑の門』
いつもとまったく変わらない淡々とした口調で言ったものだから、パーンがそれがかつて少女が叫んだ呪言と同じものだと気付いたのは白光に包まれ、それが消えた後だった。
二人の男は半球型の玄室の中央に描かれた魔法陣の中央に立っていた。
「あれ?」
周囲の様子がほとんど変わっていない。
「魔力が足りんかったのか?」
「いや、成功した」
「なに?」
「血痕がない」
「?」
言われて辺りを改めて見回してみると、あれほど魔法陣を汚していた血痕がきれいになくなっている。
「テレポートしたのか・・・」
目眩も浮遊感もなかったので、いまいち実感が湧かない。
「パーン殿。ここはすでに敵地。気を緩めぬ方がよかろう」
「あ、あぁ。すまねぇ」
腰の鞘から愛用の魔剣を抜き、鞘は動くのに邪魔なので背嚢に括り付けた。
スフィリアは真新しい長槍を手に、静かに扉へと近づいていった。彼は先祖伝来の魔法の武具を売り払い、『移送の扉』を作動させるための魔晶石と替えてしまったのだ。
パーンが動く前に扉を引き開け、間髪入れずに槍を突き出す。
「がっ」
刃は扉の前に立っていた闇エルフの喉に深々と突き刺さっていた。いる事が分かっていたのだ。
パーンも一拍遅れて駆け出し、もう一人の歩哨に剣を叩き付けた。頭蓋を叩き割られた闇エルフはその一撃で絶命していた。
「ほう」
砂漠の民が感心したように言った。
「なかなかやるな」
「まぁな」
にやりと笑って返す。そこでふと鼻をひくつかせて、
「おい旦那、風が匂わねぇか?」
砂漠の民も少し顔を上げて風の香りを嗅いだ。わずかにだが、懐かしい香りがする。
「砂の匂いだ」
「すなぁ?」
「少なくともここは砂漠か、砂丘か、それに準ずる場所なのだろう。潮の香りがしないから海岸ではないな」
頓狂な表情を崩してパーンが鼻から息を抜いた。
「外に出てみりゃ嫌でもわかるか」
そして左右に伸びる廊下を見て、
「さて、どっちに行こうかね?」
「どっちでも変わらん。自分もパーン殿も優秀な戦士だが、優秀な斥候ではない。こっそりとバルトーク様の居場所だけ探すという小器用なことはできまい」
「ふむふむ、そりゃそうだ。この鎧じゃあな。で、どうするんだよ?よっぽど無謀な案じゃない限り従うぜ」
砂漠の民は少しパーンを見た。覆面に覆われたその顔から表情を読み取る事は難しい。ただ、隙間から覗く眼は笑っているようにも見えた。
「しらみつぶしに当たるしかなかろう。邪魔する奴は片っ端から切り伏せてな」
スフィリアの無謀な提案にパーンは笑った。
「そいつぁ簡単でいいな。ヘタに考えなくていい」
「自分の命の数だけは数えておいた方がいいぞ」
珍しい砂漠の民の軽口にパーンは再び笑った。
「しかしなんだ、囚われのお姫様救出作戦か。三流詩人の歌よりひどいな」
「おしゃべりはお仕舞いだ。来たぞ」
廊下の向こうに見える闇エルフのために光の精霊を呼び出したスフィリアの横で、パーンはゆっくりと血塗れの剣を構え直した。
「なんでさ、ここは、こんなに敵さんのさ、数が多いんだろうな?」
肩で息をしながらパーンはぼやいた。
何人もの闇エルフを斬り、いくつもの玄室を見て回ったが未だラフティは見つけられずじまいだ。
戦闘の合間合間にとる休憩の時間が少しずつ長くなってきている。
「そうだな」
顔色こそうかがえないものの、さすがの砂漠の民もその言動に表れる疲労の色は隠せない。
「バルトーク様を人質にとっているからか」
スフィリアの結論に、パーンは首を傾げた。
「じゃ、その部屋の前だけを厳重にすりゃいいんじゃないか?」
「・・・・・・それもそうだな」
「察するに、姫さんはこっちに来ての約一月、捕まらずに逃げおおせているんじゃないのか?」
「その捜索のためのこの人員か」
「そうとも考えられるってだけさ。もしかしたらただの罠かも知んねぇしな」
最後まで分かんねぇもんさ、とパーンは話を区切った。
「ならば派手に暴れよう。さすればバルトーク様の御耳に入るやも知れぬ」
〜続劇〜
 |