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No. 00125
DATE: 1999/03/04 01:08:19
NAME: リスート
SUBJECT: 心温まる物語
「……?」
いつも通りきままに亭から帰ってきたアーディは、自分の部屋の中に見知らぬ荷物があるのに気づき首を傾げた。
ガーディンが運び込んだのか?
疑問を持ちつつ、アーディは荷物を見た。
樽ほどの大きさの木箱には赤い紙が貼ってあった。そして赤い紙にはでかでかと何かしらの文字が書かれている。――アーディには読めなかったが――
「?」
また首を傾げたアーディの横を当然のように人が通り過ぎた。
「……!!」
理不尽な人の登場の仕方に、アーディは剣に手をかけながら振り向いた。
振り向いた先には、組んだ足の上にコーヒーカップを置いて、平然と読書をしている者がいた。
「……」
いぶかしげな表情でその人物を見ているアーディをよそに、その人物――耳がとがっている、エルフだろう、互いに色が違う瞳が印象的だ。――は本を閉じ、コーヒーカップに入っていた飲み物を飲んでから少し溜め息をついてアーディの方を向き、こう言った。
「…君、誰?」
「それはこっちのセリフだ」
エルフの問いにアーディが即答する。
「あの荷物を運び込んだのもお前か!?何なんだよ、アレは。というか、お前は誰なんだ!どうやって入った!」
「いやぁ、あの荷物結構重いんだよ、苦労したんだ」
「質問に答えろ!」
拳を握りしめながらアーディが言う。
「まあまあ、ちょっとお茶でも飲みながら話をしよう。二人の親睦を深めるためにもその方がいいとぼくは思うな」
平然とした表情でエルフが言った。
「てめぇのような訳の分からんヤツと親睦を深めるつもりはねぇ!」
エルフの言葉にいちいち反応するアーディ。
「ただの空き巣ってんなら、まだ見逃してやらんこともねーぞ!」
「いや、まあ待て。ぼくは記憶を無くしてるんだ。そう矢継ぎ早に言われても、分かることと分からないことがある」
「へ?記憶喪失?」
エルフの言葉に、アーディは間の抜けた声を発する。
「そう、分かってることと言えば、ぼくが針金を使ってこの部屋に入ったことくらいだ」
「やっぱり空き巣じゃねーか!」
本気で怒りながらアーディが言う。今にも斬りつけそうな勢いである。
「針金を使ったら犯罪なのか?」
「当たり前だ!」
またも即答するアーディ。
「ぼくは犯罪に関する知識も無くしたらしいな。あ、こんな宿で喧嘩するのは重大なマナー違反だ、そんなことしたらまたリガルトに起こられるぞ、アーディ」
宿の主人の名を口に出すエルフ。
「なぜ俺の名前まで知ってる!?」
「他に分かってることと言えば、自分がハイエルフらしいということくらいか」
顎に手をやり、意識的にアーディから視線を外しながら、(そしてアーディの問いを完全に無視して)エルフが言う。
「ハイエルフぅ?」
「うむ。ぼくが逃げ出してきた牢屋の横にハイエルフと書かれてあった。見せ物にでもされていたのかもしれない。全く記憶はないが…」
「ハイエルフって何だ?」
アーディの問いに気づいていないのか、エルフが続ける。
「ただ逃げるのが何となく癪だったんでその木箱を盗んできたのだが……どうもすぐに逃げ出したのがバレたらしく、追っ手が来たんだ。それで仕方なくこの部屋に入ったんだ」
「だから、ハイエルフってのは何なんだ?」
アーディがしつこく聞く。
「ん?そんなことも知らないのか?無知なヤツめ」
心底バカにした表情でエルフが言う。
「てめぇみてぇな常識のないヤツに言われたくねぇ!!」
アーディは青筋を立てながら拳に力を込めた。腕が震えているようにも見える。
「しょうがないから教えてやろう。ハイエルフとはエルフの上位種族だ。とっても高貴で、繊細な種族で、もう絶滅したと言われている」
誇らしげに語るエルフを見ながら、そろそろ限界がきたようにアーディが言う。
「お前、本当に記憶無くしてんのか!?俺をおちょくってんのか!?こら!!」
この場面に出くわした者なら誰でも言うであろう台詞――それだけに月並みだが――をアーディが口にする。
「何!?人を疑うと言うのか!?ガーディンが泣いてるぞ!」
「何で俺の名前だけでなく弟の名前を知ってるんだ!」
「日記を読ませてもらった」
そう言いながら懐からガーディンの日記を取り出すエルフ。
見るとガーディンの荷物がこれでもか、というほど漁られている。
まあ、それはアーディの荷物も例外ではなかったが。
「人の持ち物を勝手に漁るなあああ!!!!!」
実は弟想いなのかどうかは知らないが、すぐに日記をひったくるアーディ。
「ふ、甘いな。ぼくが手に入れたものがそれだけと思うのか?」
懐から次々と兄弟の持ち物を取り出すエルフ。
「さらに言うと、さっきの日記から、これは、と思われるものはピックアップして書き出してある。その中には君の痴態もあったぞ」
何故か誇らしげにびっしりと文字の書き込まれたメモを取り出したエルフに、アーディはついに殴りかかった。
「そのメモも渡せぇ!!!」
渾身の力をこめて殴りかかるアーディを造作もなく躱すと、エルフは言った。
「そんな腕じゃぼくを倒すことなど出来ないな。正義の味方であるきみが悪の権化であるぼくを止めないともっと犠牲者が増えるぞ。頑張れよ。というわけできみがぼくを倒せるまでぼくを匿ってくれ」
支離滅裂なエルフの言葉にアーディが言える言葉は一言だけだった。
「ふざけるなあああああああ!!!!!!!!!」
(P:このエルフ、というのはリスートのことであり、現在きままに亭に来ているエルフ、というキャラには全く関係がありません。あのエルフが?とか思った方、違います。全然違います。これは性格破綻のリスートとアーディの心温まる物語ですので、そこんとこよろしく)
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