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No. 00130
DATE: 1999/03/11 11:19:03
NAME: デリン
SUBJECT: がんばれ冒険者!/迷子の理由編
オランまであとちょっと、の森の中。
「誰だよ、近道しようって言ったヤツっ?!」
「こっちを指差すな! ……悪かったよ、オレが悪かったよっ!」
「あのさ、いいから敵倒したら?」
俺達は戦っていた。相手はゴブリン。はっきり言ってザコ中のザコだ。
が、しかし。こちらも英雄の冒険譚なら、村人Aとかですまされそうな弱いメンバー揃いなので、はっきり言ってかーなーり良い勝負をしている。
……情けねーな、オイ。
カードのおっさんが、近道できると森を突っ切ろうとしたのが運のつき。こんなところでチャンチャンバラバラしてるワケだ。
「やぁ!」
ライの槍がぶんと唸って、ゴブリンを一匹屠った。
負けてられるか。マイリーよ、お力を。
「たぁっ!」
ブン!
ひょい。
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ」
……笑うなぁ! ゴブリンの分際でぇ!!
「デリンちゃん、またかわされてるのぉ♪」
解説ありがとよ、セイラ。で、お前は何やってんだ?
「セイラねぇ、面白いもの探してるぅ〜」
「戦ええええええええっ!」
怒号と共に、おっさんが拳骨をセイラの後頭部に叩き込んだ。気持ちはわかる、でもな、はたから見てるとただの幼児虐待だぞ。
「うっわー最低、女の子殴ってる」
やはり傍観組のアールグレイが、抗議の声をあげた。エルフらしく精霊魔法で援護してくれてたんだが、「もう疲れたからヤんない」と"見〜て〜る〜だ〜け〜モード"に入っている。
そのアールグレイに、セイラが泣きついた。
「アールちゃぁん、おっちゃん、ひどいのぉ〜」
「誰がおっちゃんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「だから結婚できないんだよ、キミ」
「やかましいっ!」
「オレ本当の事しか言ってないもん」
「カードのおっちゃん、怒りっぽいの。小魚食べないとね」
「おっちゃんゆうなぁぁぁぁぁあああっ!!」
「お前ら戦闘中に何やってんだーーーーーーーーっ!」
とうとうライが爆発した。
だからって、誰も改めやしねぇ。
故郷の村を出てから、ずっとこんな感じで俺達は旅してる。
今さらだけどさ…だいじょーぶか、この先?
……結局、俺の剣は一回もゴブリンに当たらなかった。
戦い済んで、日が暮れて……。
「あーあ、やっとオランだねぇ」
「やっぱガルガライスよりは寒いな」
「おいデリン、傷治してくれー」
「あいよ」
ライの腕は、ぱっくり裂けていた。俺は静かに、マイリー神に祈りを捧げる。
…………。
……………………。
あれ?
「おーい…治ってねぇぞ」
「わりぃ、もっかい」
もう一度奇跡を願うと、今度こそ傷は塞がった。
「何、<キュアーウーンズ>に失敗したの?」
……アールグレイ、聞くんじゃねえ。
「マイリーと相性悪いんじゃねえか?」
……おっさん黙れ。
「デリンちゃんのおうち、マーファ神殿なのにどーしてデリンちゃんはマイリーなのぉ?」
セイラ、『マイリー信者』って言え。俺が「とんでもない、あたしゃあ神様だよ」とか言わなきゃなんねーかと一瞬思っちまうだろーが。
「ま、性格がな」
ライ、二度と傷治してやんねぇ……。
そこまではいつもの会話だった。が、この日、カードのおっさんがうかつにも「つるっ」と口を滑らせやがった。
「乱暴者のマーファ神官なんて、普通じゃねぇしな。どうせハーフエルフではみだし者なんだし、別にマーファ神官の家からマイリー信者が出たって今更だろ。それにしても、お前の攻撃当たらねーなぁ。マイリーの加護、低いと見た」
………………………………。
ぷっ…………
確かに俺は弱っちい。村には武術の師匠なんかいないから、ほとんど自己流で剣を学んだ。しっかり技を外で習ったライとかおっさんには、どうしたってかなわねぇ。
オマケに鍛えても筋肉つかない。これはエルフの血が混じってるからだと納得して、もう気にしない事にした。
マーファの教義がどーーーーーーーーしても性に合わなくて、マイリーに宗旨変えしたのも、そりゃー俺のせい(?)だよ。信仰が足りなくて、奇跡が通じない時もそりゃーあるさ。
でもな、別にハーフエルフではみ出したのは俺の意志とはカンケーねぇだろ?!
そう、これは親の因果が子に報いただけだ。俺は悪くない。ふらっと村を訪れて、恋に落ちて俺の母ちゃんに手を出した、腐れヘンタイ馬鹿エルフの冒険者が悪い。だいたいそのエルフはほとんど家に顔も出しやがらねえし、たまに来ても、俺には良い思い出がぱっきりまるっきり残ったためしが無い。
……自分の存在意義に悩んだ子供時代、「お母さんはお父さんをどこを好きになったの?」と聞いた事がある。
母ちゃんは料理してた手を止めて、夢見るような表情で瞳をキラキラさせ、乙女チックに組んだ両手を紅潮した頬に当てて、うっとりと言った。
「顔」
……本気で俺の中に流れる血を呪った、十歳の夏。
なんか、あれから俺の言葉づかいが悪くなったような気がする。
…………話がそれた。
とにかく、だから、こういう場面で俺がハーフエルフであると口にされるのはムカツク!!
…………っつん。
俺はおっさんに<フォース>を三発立て続けにぶちかまし、さらに蹴りを五発叩き込んだ。もちろん手加減ナシ。
そして、他のヤツが声をかけるのも無視して、さっさとオランに入った。
だいたいカードのおっさんは、思慮が足らねーんだよ。盗賊が短気で考えナシでどーすんだ。
うちのパーティー、ロクなヤツがいやがらねえ。
アールグレイは美人だけど、キツいし、自分の事「オレ」とか言うし。
唯一の魔術師は「セイラねぇ〜、うさちゃん好きなのぉ〜」とか言ってるだけで、何をするでなし。
ライは一見マトモそうだけど、いまいち何考えてるかわかんねーし、貧乏だし。
俺は戦士のくせに攻撃あたんねーし、<キュアーウーンズ>失敗するし。
って何で自分の悪口まで言うかね俺は……。アホか。
何てこと考えながら歩いていた俺は、ある重大な事に気付いて足を止めた。
オラン。
それは大都市、人口なんと十万人。俺らの村のおよそ千倍。
…………ここはどこ? 私はデリン。
ぼけてる場合か。
とんでもなくデカい建物が立ち並び、顔なんか覚えきれないほどの量の、人間やデミヒューマンが行き交い、道は果てしなく続いて、なんと消失点がある。
俺は、今どこにいるんだ……? どこをどう歩いたら、どこに行けるんだ???
人、すなわちソレを迷子とゆー……。
……マジ?
俺は雑踏の中で、真っ白になったまま立ちすくんだ……。
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