 |
No. 00132
DATE: 1999/03/11 17:53:46
NAME: パーン&スフィリア
SUBJECT: あ・し・ど・り♪(その後:中)
「くそったれ、なんでこうもウジャウジャ出てくんだよ」
広いとも狭いとも言えない通路で剣を振り回しながら戦士は毒づいた。
左腕をやられ、右腕一本で剣を支えている。
「ほとんどが非戦闘員だ。ディーサスの連中にこれほどの数の戦士はいない」
迫る敵に槍を突き出して砂漠の民が答える。振り回すのではなく、突き刺す武器である槍はこういった屋内でも比較的扱いやすい。
彼は腿に突き刺さった短剣を抜けずにいた。
「そう聞くとあんまし気分よくねぇな」
「非戦闘員を斬る事がか?」
「いんや。戦士じゃねえ奴戦わせる連中の考え方がさ」
実際、主だった戦士や間者はエストン山脈での戦いで命を落としており、ろくな戦力がいないのだ。
「気を抜かれるな、パーン殿。暗殺長ハンブルド・ディーサスの生死は不明であるし、戦士長クレイディス・ディーサスも未だ出てきていない」
「そいつぁ心強いこと聞いたな」
とりあえず軽口を叩けるだけの余力は残っている。
だが、ジリ貧であることには変わりない。
と、通路の先の影を見とめて、砂漠の民が舌打ちした。
「ちっ、言うのではなかった。パーン殿、クレイディスだ!!」
「噂をすれば影ってか!!」
やけくそ気味に剣を叩き付けて一人を屠る。吹き飛んだ闇エルフは、まだ子供だった。
できるだけこちらを消耗させてから大御所は御出馬のようだ。
胸クソ悪い。
「パーン殿、少し頼む!!」
砂漠の民がすっと一歩引く。
「おおよ!!」
《王の守護者、戦士の導き手、猛き心の乙女よ。其が投槍を我に与えよ!!》
砂漠の民の掌から光る軌跡を描いて戦乙女の槍が飛び出した。それは違える事なくディーサス族の戦士長に突き刺さったが、致命傷にはならなかった。
それに、周囲にいた闇エルフが暗黒神に祈ってすぐに傷を塞ぐ。
「ディーサスの!!」
殺意を剥き出しにしたスフィリアの叫びが空気を震わす。ラフティにしろこのスフィリアにしろ、ディーサス族に対する敵対心と殺意は相当のものだ。よほどの確執があるのだろう。
「落ち着け旦那!!」
遥かかなたの敵より、目の前の刃をどうするかが先決だ。
もっとも、砂漠の民もそれは分かっているらしい。
「くそっ、どけよ!!」
パーンが剣を振り回すたびに肉片が飛び、血飛沫が舞い上がる。
お世辞にも気持ちいいものではない。
左の敵を薙ぎ殺した瞬間、右から顔面目掛けて刃が迫った。
「しまっ・・・・・・」
避けきれない!!
目は閉じなかった。死ぬか、気を失うかまでの一瞬の間にもこいつを倒す!!
果たして、その刃がパーンの顔に届くことはなかった。
淡い光の幕が剣を押し留めている。
闇エルフの表情が狂喜と自信から、驚愕と恐怖に摩り替わる。
返す刀でそいつを屠ってから、パーンは振り返った。
パーンを援護したのは古代語魔法の《プロテクション》だ。コモン・ルーンを持たない彼らにそれは使えない。
天井に開いた四角い穴から小柄な人影が飛び降りる。
「なんで貴方がここにいるの?」
彼女の第一声はこれだった。
「ラフティ!!」
「バルトーク様!!」
《光り輝きしものよ!!》
振り向いた彼らに襲いかかろうとした闇エルフに光の精霊をぶつける。
「今はよそ見しない!!」
黒ずんだ血痕と埃で汚れた彼女は、最後に見た時よりもかなり痩せたように見えた。
最大の心配事が失せた砂漠の民は、疲れすらも消えたかのように動きが良くなった。
負けじとパーンの技も冴えを見せる。
《風よ・・・光よ・・・我が内なるマナを源とし・・・》
上位古代語の呪文を一旦区切り、二人の戦士に叫ぶ。
「さがって!!」
その声に二人は目の前の敵を蹴倒すか殴り倒すかして後ろに下がった。
《・・・雷を導け!!》
人影蠢く通路に光の奔流が溢れる。
様々なトーンの絶叫が不協和音を奏でた。
全てが納まったあとに残ったのは文字どおりの地獄絵図だった。
いかに闇エルフが魔法への耐性という暗黒神の加護を受けていようとも、もとより脆弱な身体であり、しかもほとんどなんの訓練も受けていない非戦闘員にこの雷が耐えらりょうはずもなかった。
ディーサスの戦士長の周りを固めていた戦士たちが同胞の屍を踏み越えて迫ってくる。
「いくぞ」
スフィリアも床の死体や死にかけの者達が目に入らないかのように踏みつけながら前に出た。
「おい」
それを見てパーンが顔を顰める。死者に鞭打つとは言うが、まるで落ち葉かゴミかのように踏んでいく砂漠の民の神経が信じられなかった。
気にしてたらキリがないのだろう。しかし・・・・・・。
「それほどまでに私たちの因縁は深いという事です。この怨念は末代までも継がれることでしょう」
パーンの考えを読んだかのようにラフティが囁いた。
「それにしても・・・」
パーンの傷を癒しながらラフティが呟いた。スフィリアの傷は、彼自身が癒していた。
「あん?」
「彼のあの槍は?」
「・・・・・・あぁ、あれか。こっち来るための魔晶石に替えちまったんだとよ」
「先祖の秘宝を・・・・・・」
「それほどあんたが大事だってことさ。さて、俺も行くかね」
再び両手で剣を構えて、出来るだけ死体を踏まない様にパーンもまた前に出ていった。
〜続劇〜
 |