No. 00137
DATE: 1999/03/17 02:15:02
NAME: レスダル
SUBJECT: 新王国歴511年3の月、ビストラン邸にて
「そう・・・駄目、だったのね」
レスダルの第一声。
事情を考えるとあまりにも素っ気ない。
横に立つ助手・・・いや、「彼」の弟子に何事か告げ、客を地下へと案内する。
客・・・エストン山脈沿いの村から来た元ギルド魔術師・ガダックは彼女のあとをついて地下へと降りる。
そこはワインセラーを改造した研究室。
壁には古代語で書かれた本やスクロールが積まれ、机には羊皮紙のメモと水晶球。
ガダックは手近な本の背表紙を見る。
「探索魔術か・・・専門ではなかろうに」
「できることと言ったらこれくらいしかなかったから・・・無駄になっちゃたわね」
このために将来が嘱望されていた道を捨てた。
情報が欲しくて図書館や自宅での調査の他にもあちこちの冒険者の店に張り紙を出し、自分でも赴いた。
部屋の隅から椅子を出し、客に勧める。茶を入れてくる、という助手を留める。
「見てきたんでしょう?リンを起こしてくる?」
「いや、あの子には見せない方がいい」
「そう・・・わかった」
ガダックは呪文をつぶやき、印を組む。
目の前の空間に一つの絵が浮かび上がる。
真っ白な雪が降り積もる白っぽい煉瓦の床、白の中に見えるのは・・・
「やっと・・・見つけた・・・」
真冬のエストン山脈。狩人達の道とは外れた道へ、遺跡の調査。
考えずとも、わかっていた結果。
しかしどうしても手放せなかった「彼」の蔵書。「彼」の財産。
「彼」の家も、「彼」の家に住む弟子達も手放しはしなかったし、離れなかった。
自分だって、離れることが出来たのだ。でもそうするつもりは全くなかった。
だから自分の魔術師への道を捨ててまでもすべてを守った。
「彼」・・・夫のために。
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その翌日、ハザード城の王立研究室に一枚の報告書が提出された。
それによって新王国歴6年2の月にエストン山脈にて行方不明となった王立研究室調査隊の消息が明らかとなった。
調査隊7名、全員死亡とのことである。
報告書は当時の調査隊メンバーの一人、オースティン・ビストランの妻、レスダルによるものであった。