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No. 00141
DATE: 1999/03/26 11:28:09
NAME: ラザラス
SUBJECT: 家督争い(2)−イベント−
登場PC:ファウスト
その他:NPC
【領主として】
一日にして著名な軍師に祭り上げられたファウストは、大方予想していたこととして冷静に受け止めていた。
クライモン領の元よりいる参謀や軍師としての役割を果たす人物は兄側についており、ファウストはかなり込み入ったことまで口出しできる立場に立つことができた。
ふたを開けてみると、予想以上に兵力、食料、資金、志気においてまで、厳しい状況に置かれていた。集めた傭兵たちにも勝てる見込みを見せないことには逃げられてしまう。早急に手を打たないことにはいけない。
「擁立させられた弟も、そのままではいけない。傍目からはとてもやる気のあるようには見えない。上に立つものがあれでは勝てるものも勝てなくなる。今はただでさえ負けてしまうとい状況なのに……、まったく先が思いやられますね」
ファウストは仕事の合間を縫って、ラドモス(弟)卿と接触を試みた。
庭でバラの手入れをしているラドモスを見つけ、ファウストは声をかけようとした。だが、先に口を開いたのはラドモス卿であった。
「なぜ、そっとしておいてくれないのでしょうか。兄がどのように振る舞おうといいじゃないですか……」
それは家臣には言えぬ言葉であった。心優しき弟は、兄を敬愛していた。力強く、いつも弟の自分を見ていてくれていた兄を好きでいた。それというのも前領主、父親があまりの多忙にラドモスをかまってやれなかったこともある。兄はそのことを知っており、父親代わりとなって弟の面倒を見ていた。領主などなっては自分の息子とすら満足に話し合う時間すら得られない。そんな父親と同じような道を歩みたくない。と、ラドモスは語った。
いつしか場所は、庭園から屋敷の外の小さな丘まで歩いてきていた。
「私も平民として暮らしたかった……」
貴族でしか口にできない言葉、平民が聴けばなんと思われるだろうか? 彼の平民への優しさは、平民に憧れているものから来ていたものであった。
「この間のおじさんじゃん」
突然声をかけてきたのは、先日窃盗を働いた少女ディジーであった。後ろに4人子供を連れている。歳は6〜10歳だろうか。
「なぜ、このような所に?」とファウストの問いかけに少女は「ねぐら探し」と明るく答えた。
「親たちはどうした?」
ラドモス卿の声に「死んだよ。働き過ぎでね」と冷たく答える。明らかに貴族に向けての敵意が感じられる。
しかし、ラドモス卿はそんな含みを感じないのか、少女たちの身の上話を聴こうとしていた。
ディジーは嫌な顔を一瞬見せたが、この変わった貴族に対して、自分の身の上話を語りだした。
彼女は農村の出であり、普通に暮らしていた。戦も起きず、際だった凶作も起きてないため生活は悪くはなかった。それがある年の収穫時期に麦畑が全焼するという事件が起きてしまった。通常ならば税の免除などの対処が取られるはずだったのだが、どういう訳か税は例年通り納めるように命じられ、民たちは窮地に立たされた。蓄えていた財産をなげうって税を納め、苦しい日々が到来する。子供たちに苦労かけまいと、親たちは働きに働いた。だが、過労がたたり、翌年にはディジーの親はこの世を去ることになる。親が亡くなると同時に土地は領主へ没収され、他の平民たちに分配させられた。残されたディジーは身よりもなく、世間に放り出させることに。田舎では食うこともままならないため、都会へと出かけたものの、いろいろあってまたこうして戻ってきたのだと語った。
ラドモスは震えていた。麦畑全焼事件はよく覚えている。忘れることなどできない。あれは自分たちが犯してしまった過ちなのだから……。
当時、共通語魔法の品、ティンダーの呪文が使える指輪を持ち出した兄弟は、それを使ってみたくてしょうがなかった。なにも麦畑に引火させようとしたのではない。麦畑からも十分離れてもいた。たき火をしようと枯れ草や小枝をいっぱい集めたところで、キーワードを唱える。呪文は効力を示し、枯れ草などに引火した。だが、そのとき不幸にも突風が吹き、枯れ草を散らし火を消してしまった。兄弟はそう見えた。しかし、目の前の枯れ草は消えていたが、風で飛ばされた枯れ草には火種が残っていたのだった。火種はずいぶんとくすぶり続け、兄弟がその場を離れてから燃え始めた。
気がついたときは手遅れだった。燃えさかる麦畑を見て、父親になんと叱られるのか、それだけが怖かった。
しかし、父は叱らなかった。叱っている暇などなかったというのが正確なところである。王都に異変が起き、領主はオランと自分の領地を往復する日が続いた。そのため、この焼失事件に対する調査も税に対する配慮も対処しきれず、そのままにしたというのが事実である。
領主が事態に気がついたときは既に遅く、焼失した土地を所有していた者の2割もの人が過労や餓死などで倒れていた。
平和なときの平民は暖かな家庭を築き上げることができるが、一度事が起きればそれはもろく潰れてしまう生活であった。全ては領主の掌で営む生活なのだ。ラドモスはその事に気がついた。
ラドモス卿は子供たちを招こうとしたが、彼女らはそれを拒否した。
「同情はいらん。あんたらなんかに世話にはならんよ」
止めようとするファウストの声にも耳を貸さず、子供たちは行ってしまった。
「ファウストさん、私は甘えていたようですね」
兄、ロードベルが領民を苦しめることが予想されているため、それを阻止するべく、弟が立ち上がる。
「噂ほど、しっかりした人物ではありませんでしたが、兄と対抗する気を起こしてくれてなによりです。しかし、まだまだやるべき事が残ってますね」
つづく
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