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No. 00143
DATE: 1999/03/29 22:55:30
NAME: ラザラス
SUBJECT: 家督争い(4)−イベント−
登場PC:アレス
その他:NPC
【野営】
砦まであとどのくらいあるのだろうか? 日はとうに暮れ、辺りは闇の帳が降りていた。クライモン領に入ってから半日、読みを誤ったのか道を間違えているのか目的地には着かない。しかも、同業者らしき姿も見あたらない。
レザーアーマーにブロードソード、どちらも使い込まれた様子はない。背負い袋に毛布。それなりの旅装束ではあるが、どことなく頼りない感じを受けるのは彼が疲れているためだけではないだろう。
「どこか適当なところで休もう」
男は声にならないつぶやきを洩らし、視界に入る大きな木へ行けば、その根本辺りで寝られるだろうと思い、重い足を動かす。
「こんなことなら干し肉の一つでも買っておくんだったな」
男は荷物を下ろし、野営の準備に入った。野営と言っても、ただ毛布にくるまって寝るだけだ。火を起こす道具もなにもない。
風だけでも防げればと風下の根本にうずくまるが、風が巻き込んでくるため、寒さも防げない。頬を撫でる風がシルフの手のように思え、男はさらに毛布にくるまる。
足音と、声が聞こえ、男は起きあがる。たいまつの灯りがこちらに近づいてくる。
「あ、こんなとこに寝ている人がいる〜」
子供の、しかも女の子の声であった。
その子供たちと、ありきたりな問答をしたあと、男は誘われるままついていった。
男は驚いた。子供たちのねぐらは男が寝ていた木の根本とは違い、風も吹き込まず、雨も防げそうであった。
そこは丘の下にあり、むき出しになった大きな岩が屋根のように突き出しており、周りには畑で出たと思われる小石がそれこそ山というほど積まれている。それに不要になった藁の置き場になっているようで、こちらも山積みになっていた。
(これだけのものが揃っているところを見つければそりゃ寝心地いいだろうな)
男は気がついていなかった。この場所を見つける努力をしているかどうか、見つけるための行動を起こしているかどうかに。子供たちの方がはるかに野営に長けていることに気がつかなかった。
鍋にスープ、一切れではあったがパンのごちそうまで受け男はたくましい子供たちに頭を下げるばかりであった。
リーダーとおぼしき少女はディジーと名乗り、男はアレスと名乗った。
10歳も満たない子供たちが野営をしているのを見て、その生い立ちを気にせずにいられるほどアレスは無感情でもなく、また悟れるほどでもなかった。
子供たちはオランで孤児院に拾われたことを語る。そこでファラリスの教えを学んだことも、とても楽しい日々を暮らしたことも語った。ただそれは恒久なものでなく、やがて孤児院は焼失し、神殿の孤児院に預けられた。そこは厳しい規制に縛られた世界であった。ディジーたちは他の子以上に叱られ、罰を受けた。それがどうして叱られるのか、目の敵のようにされるのか理解できなかった。
それで逃げ出した。逃げ出した今の生活はとても快適で楽しい。と、少女は嬉しそうに微笑んだ。
アレスは驚いた。目の前にいる子供たちはファラリスを信仰しているのだ。彼女らが叱られた理由は大方検討がつく。自分の欲望に忠実な世界で生きてたところから、制約のある他者を思いやる世界に押し込められては不和も起きるだろう。彼女たちをまっとうな世界に連れ戻すには並大抵な努力では足りないのでは……。しかし、今微笑んだ表情からはとてもファラリスを信仰しているとは思えない。神殿で聞かされていた引き合いに出されるファラリスの話はもっと恐ろしく、おぞましいものであったはずだ。
戸惑っているアレスをよそに、子供たちは今度はアレスの身の上話を聞きたがった。
たき火の炎に輝く笑顔を見て、アレスは我を取り戻し、微笑み返した。そしてゆっくり語り出す……。
つづく>>宿帳へ
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