No. 00147
DATE: 1999/04/11 13:47:34
NAME: アンブロゥシャ
SUBJECT: 路地裏に響く光の賛歌
ああ、いやだ、血が止まらない。止めようと腹に力を入れると、ずるりと内臓があふれる。
なにがあったのでしょう・・・。そう。今日はたくさんの不思議な事に出会いました。
確かカリーノとおっしゃる、年老いた方(彼は35歳とかいってましたが)が、先日御会いしましたご友人、ディアード様の事を口にされたとたんに、酷く苦しみなされました。なんでも、ご友情を反故にするような事があればそうなる、悪しきまじないをかけられたそうです。
そうするうちに当のディアード様が現れなさって、ええ、御貴族さまであらせられますのに、わたしを友人だとおっしゃってくださいました。ディアード様はご自分を異世界からきた悪魔とおっしゃいました。ええ、御伽噺のあの悪魔! そのディアード様に比し、吟遊詩人さまは、ご自分を五大神の僕とか、失われた民であるとかおっしゃいましたね。両方のおっしゃる事は、学の無いわたしにはよく意味が分かりませなんだが。その吟遊詩人様は、ディアード様のおっしゃる事にいちいち腹を立てておいででした。
ですが、いくらきれいなことを、上の方々がおっしゃっても、結局富のあるべきところに金が集まり、貧しき者は余計に搾取の憂き目にあうだけ。・・・社会が間違っている、と、そう嘆いて泣き寝入りするだけ。社会がひっくり返ることがあるならば、春を散らしたその日から夜な夜な足かせをはめられて男を相手にし、性病を得てベッドで涎を垂らして死を待つだけの少女や、物乞いの哀れみをかうために、己の子の手足を切断して、それを胸に抱いてみせびらかしながら、手を差し出す母親・・・そういった醜き者がまた、増えなくともすむ・・・。そう思ったわたしに、混沌(これもまた聴きなれぬ概念)をもたらすといったディアード様のことばは、とても心地よく感じられました。
神やら天使やら精霊やらがいるのと同じに、悪魔がいる。わたしのもとにも、父のもとにも神の声は降りかからなかった。精霊の声も聞こえなかった。しかし、悪魔が、声をかけてくださった...。
しかし吟遊詩人のレイシャルム様は、奇妙な詠唱を唱えなさったかとおもいますと(ああ、これもわたしの理解を超えている)光り輝く鎧が吟遊詩人様の体を覆い、剣を抜いて、ディアード様に斬りかかっていきました。
吟遊詩人さまが、素手で彼を殴ると、周囲の壁や机に獣の爪のような後が残りました、ああ、そして、ディアード様を守ろうとしたわたしの腹も、不意に切裂かれてしまったのです!
ディアード様は、背中に翼を生やして、窓から飛び立たれなすったかとおもいますと、お二方とも、赤黒い血を流しながらうめくわたしを省みずに同じように翼を生やして追いかけなさったのです。
ふらふらとわたしは、この饐えた匂いのする裏道までやってきました。
何で、何でこんなことになったのだろう。かみさま。わたしが幾ら呼びかけても決しておえらい司祭様にするように、その声をわたしに与えて下さらなかった、かみさま。わたしはどこへ逝くのだろう。
。
わたしを穀物の種と引き換えに奴隷商人に売った父。年葉のいかない奴隷買いを夜な夜な慰めものにした貴族。そこから逃げ出させてくれた貴族の使用人。逃げ出したも結局乞食となるしかなかったわたしに蔑みの目で銀貨を叩き付けた男たち。娼婦となり(ええ、おなごの乞食が日々の糧を得るために娼婦となるのにどれほどの時間が必要でしょう!)日々寝物語を聞かせてくれたはいいが、研究費をわたしをかうために使い込み、放校になった学者。彼はわたしに素晴らしい事を教えて下さいました。書を読むという方法をです。そして、わたしを娼館からつれだした傭兵。かれはわたしに、人に快楽ではなく死を与える道具、剣の握り方を教えてくれましたね。人に媚びるという以外の生き方をするための、力を与えてやろう、といいながら。
いくつもの男の顔が、ちらつきました。わたしはいつも男により、人生を変えられつづけていたのですね・・・。
わたしはいつも、飢えておりました。美しいものに。自らの内に渦巻くドロドロとした汚いもの。それを覆い隠してくれる美しいものに。
しかし、人のみなもつその美しいものを、どうしようもなく汚いと感じてしまっていたのはなぜでしょう。人の真実の汚き姿、それを目にするたびにわたしはいつも安心するのです。「ああ。わたしだけではなかった」
誰もが極地に立たされたとき・・・ああ、これは、吟遊詩人のサーガにあるような、死地であるとか、麗しき戦いであるとか、ではありません・・・そう、貧困、差別、虐待、陵辱・・・そういったモノを受ける側に立ったとき、おそらく自分のコトしかみえなくなりますまい。自分より荒んだ目にあっているもの。卑下たもの。そういうのを見つけたときは、より良く見ようとします・・・・「自分よりマシだ」そうおもうことによって、人は自分を保つのです。
この卑しき歪んだ考えを改める美しきものには、ついぞ出会えませなんだ。
「自分の中のどろどろしたもの、他に対する黒さは受け入れられるくせに、他人のはムリ…。人間って自分勝手だねぇ。
でも、そのエゴの感情も自然なものだからね…。仕方ないや。あんまり腹にすえかねる奴らは、目のとどかないところにやるのが一番さ…。」
「君にとって、娼婦は天職ではないように思えるよ。なぜって、あんな場所に来る彼ら、薄汚く臭い男たちは、いわゆる癒しを求めてくるんだ。寂しい彼らの、辛さ悔しさを聞いてやれる、彼らの聖母になれる人のみが、あの職にあっているのさ。でも、君は人を不安にさせる。君を抱きながらも、その言葉によって自らがさらに貶められたように感じてしまう。そう、君は僕と同じ場所で、僕と同じような人間と共にいるべき者なんだ…。」
ああ、ディアード様の言葉は、本当に耳に心地よかった。
はじめて自分を受け入れてくれるものに出会えた気がしました。
Human hunger is the result of over taxation.
For this reason, there is hunger.
The common pepple are not govenable of un purity
because of their superoprs' actions.
For this reasen, they are not govenable.
The people make light of death
because of too much emphasis on the quest for life.
For this reason, they make light of death.
Now... only she who acts not for the sake of life
is weser than those value life highly.....
ああ、寒い。目の前が、昏い。
街で、こんな格好で死ぬのは嫌だ。そうだ、化粧をしよう・・・。汗と返り血の染み付いた皮鎧を脱いで、華やかな香りの夜着に着替え直そう。幸い今日のドレスは茶色。血がこべりついて乾いても、あまり目立ちはしまい。
人に死を与える傭兵としてよりは、せめて人に快楽を与える娼婦のままでいたい・・・・・
そして、三つの光が目の前にちらつきました。ああ、わたしの坊や。生まれる前に、手のひらよりも小さいときに、わたしの腹の中からかぎ取られてしまった、かわいそうなわたしの坊や達。ああ、あなたたちのところに、わたしは逝くのですね・・・。
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