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No. 00148
DATE: 1999/04/12 05:13:39
NAME: ラザラス
SUBJECT: 家督争い(6)−イベント−
登場PC:ファウスト、セイル、エメラルド、ナギ、アイオリラロス
登場NPC:その他
ラドモス卿の砦に一人のドワーフが訪れる。領地の外れに位置する村の者であった。
「ラドモス卿に話がある」
ドワーフは重厚な面もちで門兵にそれだけを伝え、微動だにせず待っていた。
連絡を受けたラドモス卿とファウストはドワーフを招き入れ話を伺う。
話は馬車を貸してほしいというものであった。
「何に使うのか?」という問いにドワーフは「仲間を助けるために」と短く答えた。
リーン領に属する鉱山の村ではモンスターが荒らし回っていると聞く、その応援に行くとドワーフは言うのだ。
(兵を貸してほしいと言わない辺りがいかにもドワーフらしいですな。これを機に、彼らの力を借りることも……)
ファウストは思案した。兵を出し、ドワーフと共に鉱山のモンスターを退治しに出かければ彼らは我々に力を貸してくれるだろう……。しかし、兵を動かす先はリーン領である。自分の領地に隣の領地の兵が我が物顔でモンスター退治に現れたらなんと言われるか……。それに今は戦時中である、兵が足りないというのに、他に回すことなどできるはずもない。
そうこうしている間に、外が騒がしくなった。
「勝手に持ち場を離れるな」「誰だ、馬を持ち出しているのは」
そうした声がファウストの耳にも届き、何事かと外へ出る。
傭兵たちが馬車を出し、乗り込んでいるのが目に付く。
「何をしているのですか!」
「見て分かるだろう、怪物退治に出かけるんだよ」
ファウストの問いにぶっきらぼうに答えたのはセイルという女戦士であった。褐色の肌に無造作に切った金髪が篝火に揺らぐ。グレートソードを背負い、引いてきた馬を繋いでいる。
他の傭兵たちも、馬車に食料や武器を積み込んでいる。
騎士たちがそれを押さえようとするが、一向に静まる気配はなく、無秩序に動いているはずの傭兵たちは着々と準備を進めていた。「決戦まで、時間があるのでしょ?」
唖然としているファウストに声をかけてきたのは、後ろ髪を三つ編みに一本でまとめたエメラルドという女性であった。
「それまでには戻ってくるわ。ちょっとした小遣い稼ぎよ。ここにいても報酬は増えないのでしょ?」
愛らしく笑うと、彼女も馬車へと乗り込む。
エメラルドの情報収集で、リーン領の鉱山に出たモンスターに賞金がかけられたことをいち早く知ったナギは一つの案を提示した。
目深にフードをかぶり、他人には一切肌をさらさないようにしていたナギは、夜になるとそのフードのみ外した。
人目をはばかるというより、太陽光から肌を守っているようだった。それもそのはず、彼女の肌には色素がなかった。青白いとも呼べる肌を持ち、白い髪、赤い瞳を有していた。それでいて長い耳を持つエルフであった。
「これだけの傭兵が集まっていれば、うちらがその報酬にありつけそうだね」
ナギは嬉しそうにそう口にする。
彼女が提示したものは、ここの傭兵をまとめ、戦力としてモンスター退治に出かけ、速攻で解決して帰ってくることであった。幸い、オランよりこちらの方が距離的にも近く、先を越されることも少ない。第一にモンスターであるトロールが数体いるというから、並な戦力じゃとうてい太刀打ちなどできやしいない。ここにいる傭兵の集団は恰好な戦力だったのだ。
この呼びかけに退屈していた傭兵たちは呼応し、騒動となった。
「それじゃあな、すぐに戻ってくるさ」
セイルの声に、ファウストは見送るしかなかった。
貴族の家督を相続する争いは総力戦としていた。戦術よりも戦略こそ重要なのである。互いに味方でもあるため、下手に戦局を長引かせては益にならないため随分昔に決められたことである。そのため、「時」が来るまで強襲を受ける危険性は低いとされていた。とは言っても、出かけたのは傭兵ばかりで正規の騎士たちは残っているので強襲を受けても対処はできる。
そもそも家督となる印章は長男の兄が持っており、弟の側こそ強襲する価値があるものの、兄がそれを仕掛ける道理はなかった。そのため、傭兵たちの勝手な行動を押しとどめる命令に徹底さを欠いたのである。
「馬車を用意しろ!」
ファウストは傭兵たちを見送った後、ただちにそう命令した。
傭兵の兵力とドワーフの戦力が加わればより確かにモンスターを退治できるだろう。一日も早く戻ってきてもらうためにもドワーフ族に協力するのは自然なことである。
こうして、ファウストの指示の元、ドワーフに馬車を与え、傭兵たちが疲弊せずに戻ってくることを祈った。リーン領が自分たちの兵で対処しなかった理由は気になるところではあったが、そこまで詮索している余裕がなかった。
「久しぶりです」
ファウストはアイオリラロスに頭を下げた。
「よー、先生。突然お声がかかって驚いたよ。あー、堅いことはなしでいこうぜ」
気軽に声をかけたのは武器を中心に扱っている商人であった。以前非常勤講師としてファウストから学んだことがある関係である。
「で、なんだい? ここまで呼び出したのは、武器を買い付けてくれるだけってわけじゃなんいだろ?」
さすがは商人というべきか、ファウストの性格を心得ている。それならと、ファウストは単刀直入で本題に入った。
「なるほどね、資金援助と食糧確保かい……、食料はもういくばかも残ってないってか、急を要するわけね」
通常なら貴族が商人に頭を下げることなどありはしないが、そうも言っていられない状況であり、貴族でないファウストだからこそ思いついた案でもある。
「で、勝算はあるんだろうな。いくらあんたが著名な軍師といってもな、勝つ保証にはならんだろう」
もっともな意見である。著名な軍師なんて肩書きは傭兵を集める餌であることは見る人が見れば判ることである。
ファウストは、ついこの間まで出せなかった勝算を語りはじめた。
「……なるほどな、それがうまくいけば勝てるかもな。もう一押し、一案ほしいところだが……、ま、なんとか持ちかけてみるさ。ここの領の権利が得られるなら損な投資じゃあるまい。うちらの方からも傭兵が集まるように噂を広めておくよ」
アイオリラロスは商人同士のつながりを利用して、クライモン領の利権を餌に投資をしないかと呼びかけることとなった。
新たな利権を得るには前にいる商人を出し抜かなければならない。そうはさせじと、商人は貴族と癒着を計り、利権を奪われないようにする。そのため、商人が新たな利権を開拓するのは極めて困難であり、他国と貿易ならともかく国内での利権は動きはないと言えた。
アイオリラロスが持ちかけた投資の情報は伸び盛りな商人たちの気持ちを大きく揺さぶった。
貴族間で資金、援助のやりとりがあるのがいままでの戦い方であったのに対して、商人の財力を頼ることは極めて希なことであり、大都市を抱えるオランならではの戦略であった。
貴族戦争に肩入れできるほどの財力を持つ商人は200万人を抱えるオラン国だからいたのである。
ファウストはさらに勝利を確定するために動く……。
<つづく>
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