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No. 00149
DATE: 1999/04/14 17:27:20
NAME: アレス
SUBJECT: 家督争い(7)-子供達への語らい-
クライモン領に向かう途中に出会った、身寄りの無い子供達。彼らにご馳走になった、粗末ではあるが暖かい食事は、旅に疲れた私に一時の安らぎを与えてくれた。
食後、たき火を囲みながら聞いた子供達の話に驚いていると、今度は私の話を聞きたがってきた。ディジーという少女の笑顔に促されるようにして、私は自分の過去を語り始めた。
旅に出た理由<家督争い(5)参照>を話していると、思い付いた事を黙っていられないのか、次々と質問をするディジー。時々歳に似合わない質問をされて、村に残してきたリディアの顔が頭に浮かび、不覚にも目が潤んだ。あわてて顔を拭くが、少女は悲しい顔の理由を尋ねてくる。仕方無しに私は故郷の村で病に苦しむリディアの事について喋り始めた。
…山と森に囲まれたウズの村で育った私は、幼い頃からリディアと暮らしていた。物心ついた時から、何をするにもいつも一緒で、兄妹のように仲良く両親の仕事を手伝っていた。
彼女は昔から人には見えないものが見え、よく川や森に向って喋っていた。私には何の事か判らなかったが、元冒険者である両親はそんな彼女の事を理解していたようだ。
リディアには精霊使いの素質がある…そう親に説明された時は驚いたが、それで彼女が変わるわけではなく、その時は気にも止めないでいたし、彼女も廻りが気味悪く思うのを気にして、人前では見せなくなった。
あれから10年近く立つ、今から半年ぐらい前に彼女が行方不明になることがあった。姿を消してから数日後に無事戻ってきたのだが、何処に行っていたのかと訪ねると、彼女は少し前に家を出て森で花を摘んできたという。確かにその手には摘んだばかりの綺麗な花があり、嘘を付いているようには見えない。なんとも奇妙な話だが、無事に帰ってきたこともあり、心配をかけた村人に丁寧に礼を述べて、その場はそれでお開きになった。
その日の晩、彼女は私にだけ今日見た事をを語った。森の中で道に迷ったこと。数分だが、見たこともない景色を見たこと。不思議な生き物にあったこと…等、嬉しそうに教えてくれた。
…次の日から彼女は体調を崩し始めた。私が具合を聞くと、体が思うように動かないと言う。最初は、体に疲れが出たのだろうと軽く考えていた。しかし症状は日増しに悪くなり、何をするにも周りの手伝いがなければ出来無い状態になった。一体彼女の身に何が起きたのだろうか。物事を良く知っていた私の両親はすでに亡く、村にいる者で、彼女の病気に対し結論を下せる者はいなかった…。
そこまで話した時、ディジー達が心配そうに見ているのに気が付いた。どうやら、又涙が出ていたらしい。照れ笑いを浮かべながら涙を拭こうとすると、ディジーは白いハンカチを私に差し出そうとしていた。
少女の行動に恥ずかしくなった私は、自分の荷物へ向かい、小さい宝石の付いたペンダントを取り出した。
「寝る場所や夕飯まで世話になっても、今の僕では何のお礼もする事が出来ない。だから、せめてこのペンダントを受け取って欲しい」
高価な物ではないが、私の両親の形見でもあるそれは、少女の目には綺麗に写ったのだろう。ディジーは「ありがとう」と笑みを浮かべて礼を言い、ペンダントをポケットの中にしまった。他の子供たちは、話に飽きてしまったのか、すこやかな寝息を立てている。私は少女に先に眠るように言い、たき火の炎を見つめながら、今後の事を考え始めた。
<つづく>・・・といいな(笑)
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