No. 00155
DATE: 1999/04/25 01:16:02
NAME: シタール、ライカガウヌ
SUBJECT: 奈落へ通ず小さき門(1)
オランのスラム街−通称常闇通り−の狭く入り組んだ路地を3人の冒険者が歩いていた。
「ッたく、何でこの手の所はじめじめして、息苦しいのかね。」
3人の中で一番の大柄見るからに戦士風の男−シタール−がそうぼやいた。
「…」
「…同感です、人間の世界に出て随分経ちますがこの手の場所はどうも…とくのこの匂いが我慢できません。」
エルフの精霊使いで盗賊でもガウヌもシタールの意見に同調した。
「……」
森の民であるエルフにとって人間の街というものはただでさせ住み難いものだ。
なら、スラム街など本当なら近づきたくもないはずだ。
エルフの嗅覚は人間よりも数段優れている故にスラム特有の据えた匂いは半ば拷問に近いだろう。
…まあ、今回は仕事であるために止むおえず来たが…。
「ホント、早くここ出て風呂にでも入ってゆっくりしてえよな。」
「………」
「まったくです。」
「ぶちっ……」
「ああ!!もううっさいわね。ここまで来てグジグジ言わないの!!ハラくくんなさい!!アンタ達男でしょ!?」
紅一点ハーフエルフの魔術師のライカが吠えた。一瞬、二人はぴたりと黙ってしまった。
「大体さっきからぶちぶちぶちぶち愚痴ばっか言って仕事なんだから我慢しなさいよ!!大体、シタール。これアンタが見つけてきた仕事でしょ?だったら文句言わない!!」
「……う!まあ、そうだけどよ…」
「…なによ?」
「……いえ、なんでもありません。」
「なら、よし♪」
ここら辺で事情がよくわからない人のために解説をしておく。
シタールとライカはロマールの方から流れてきた冒険者だ、何故ここまで流れてきたかは本編とまったく関係ないためにはしょる。
しばらくは二人とも前の仕事の報酬で食ってはいたが、所持金も底が見え始めたので仕事を探していた。
ちょうどその時シタールが副業で行く酒場(彼の副業は吟遊詩人。まったく見かけとは離れたいるものである。)でなじみの故買屋が彼に仕事を持ってきたのである。
「とある貴族が壺を盗まれた。それを見つけだして欲しい。」
その貴族は古代王国期の壺を収集するのが趣味らしくその壺は最近手に入れた壺の中でも一番のお気に入りだったそうだ。
なんでも大量に壺を購入したために彼は万が一呪われた壺などが混じっていないように学院の方に鑑定を依頼したそうだ。
その結果この中には特に怪しい壺はないという結果が出た…勿論そのお気に入りの壺も安全と保障された…それから3日後にその壺はなくなった。
その貴族は最初衛視に頼ったが、捜査は一向に進まず、業を煮やした貴族は独自で捜査しようと思いついたのだ。
そこで彼は贔屓にしている故買屋に冒険者を雇ってくれるよう頼んだのだ。
そして…捜査の結果今に至るのである。
結局犯人はその鑑定した魔術師。名前はフィース。
彼はその壺を鑑定し、その結果その壺をどうしても欲し、盗賊を雇い貴族の壺を家から盗んだ…らしい。
「まあ、おふざけはそのぐらいにしてそろそろ行きましょう。相手は目的のためにはなんでもするような輩ですから。」
ガウヌが冷静な顔でそう言った。
そう、相手は目的のためには手段選ばないようなヤツなのだ。
何せ盗賊に壺を盗ませた後は用済みとばかりにその盗賊を消しているのである。
「わかっちゃいるよ。油断はしてねえよ。」
そう言うとシタールは肩から下げていた愛用のバトルアックスと円形のラージシールドを構えた。
「あらかじめに言っとくけど、あくまで目的は壺の奪還と犯人を捕まえるコトよ。その辺勘違いしないでね。」
「わぁーってるって♪」
そう言いつつもすでに彼は目の前の敵に対して目を向けている。
貧弱な魔術師と斬り合ってもつまらないがおそらく護衛のために傭兵に一人や二人は雇っているだろう。そいつらを相手にすれば鍛錬になる。
それぐらいのことしか考えてない…根っからのケンカ好きである。
そのシタール姿を見て、溜息をつくライカ。
「まあ、こういう時のこいつに何言っても無駄なのはわかっちゃいるけどね…」
そう思いつつも言わざるおえないのが哀しいものである。
「ガウヌも援護頼むわね。一応は剣の心得あるんでしょ?」
「ええ…たしなむ程度はありますが。なるべくなら使いたくはありませんが…そうも言っていられませんし。」
「じゃあ、お願いするわ。私は後方から魔法で支援するから。…それじゃあ行くわよ。」
「おーい、これで終わりかよ?思ったよりつまんねーぞ。」
シタールはまったく息切れもせず、物騒なことをさらりと言ってのけた。
ある程度鍛練を積んだ戦士とそこら辺で雇ってきたチンピラ達では格段の腕の違いが出るのは明白だ。
シタールが斧で、ライカが魔法で護衛に雇ったチンピラをノシている間にガウヌがフィースに近づき持っていた杖を落としたのだ。
傭兵など雇っていなかったことが幸いしこちらはなんの苦労もなく、敵をねじ伏せることが出来たのだ。
だが、それがシタールにとっては不服だったのだ、「自分を鍛える」それが出来なかったことによってフラストレーションはさらに溜まった。
「まあ、いいじゃないですか。怪我人も出ずに解決できそうですし。」
「そうそう、まあまた機会があるわよ…拗ねないでさっさとこっち来なさい。」
二人に説得され仕方なくと言う感じで二人の元へ戻ってくるシタール。しかしまだ全てが終わったわけではなかった。
「さてと…」
そう言うとライカは壺を抱えたままこちらを睨み続けているフィースと向かい合った。
「返して貰えますか、ついでに詰め所まで一緒にいてくれると大いに助かるんですけど。」
なるべくフィースを刺激しないよう言葉を選んでライカは説得を始めた。
「…これは渡さなん…私のものだ。」
低く、唸るような声で返答が返ってきた。
「おいおい、それはオレらを雇ったヤツのモンだ。だから返せって、他にも似たような壺を自分で探せや。ま、牢獄から出て来れたらの話だけだよ。」
そう言って、悠然と近づくシタール。杖を持ってない魔術師などおそるるに足らず、そう判断しての行動だ。
「…これは私が持ってる方が役に立つんだ。」
「ほう…じゃあ、どう役に立つかオレに教えてくれよ。」
ずかずかと近づきフィースの目の前にたったシタール。
ニヤリ笑うとフィースは壺を両手で持ち上に掲げた。
「…奈落へ通ず小さき門よ。我が願い聞き…奈落より獣を」
そして下位古代語でそう唱えた…壺が光り当たりは光に包まれ3人あまりのことに一瞬視界を奪われた。
「…がふ!!」
視界が戻るか戻らないかという時にシタールがいた辺りからそんな声が聞こえた…勿論その声の主はシタール。
数瞬後に今度はシタールが吹っ飛ばされたと思われる大きな音がした。
「シタール!?」
まだ目が見えないために状況が全くと言っていいほどにわからないライカ…恐怖はさらにかき立てられてしまう。
シタールほどは近づいてはいなかったが、かなり光り中心のほうにいたためライカの視力はまだ回復していなかった。
「ライカさん前!!」
ガウヌの方はどうやら視力が回復したらしく目の前のいる新しい獣に気が付いたようだ。
…果たして獣と呼んでいいのだろうか?
…狼の頭に猿の身体、牙から常に涎と思われる液体を垂らし続けている。
このような生き物は自然界にはいない…そう物質界の自然界では…
「…何これ?」
ようやく視力を取り戻したライカがそう呟いた…
「…わかりません。ただ、とても友好的な生き物とは思えませんね。」
「…のようね。…倒すしかないみただけど…」
ちらりと視線を向けた先には床から何とか起きあがろうとするシタールを見た。
不意打ちでかなり手痛いダメージ食らったらしくシタールの立ち上がる動作はおぼつかない。おそらく目もまだはっきりと見えていないだろう…明らかに戦況はこちらに不利だ。
「こいつらを殺れ。」
フィースはそう『獣』に命ずると裏口からさっと逃げ出した。
「待て!!」
そう言って咄嗟に追いかけようとするライカ、だが。
「きゃっ!!」
「ライカさん!?」
追いかけようとしたライカに向かい『獣』が口の中から何か吹きかけたのだ。
顔にかかりそうになり咄嗟に腕払った瞬間手に焼き付くような痛み覚えた…酸だ。
あまりの苦痛に思わず涙が出てくる手から煙が吹き上げ、皮膚が焼ける嫌な匂いと酸の匂いが辺りに漂う。
「ライカ?」
ようやく視力を取り戻したシタールが見た風景はこの悲惨なものだった。
「……うぉおおーーー!!」
獣ような咆吼をあげシタールは『獣』へと向かった。
怒りに燃えたシタールの前に勝てるほど『獣』は強くなかった。
ライカをチャ・ザ神殿へと運び。腕に癒しかけて貰った後にガウヌとシタールは二人神殿の廊下で話し合っていた。
「…オレは絶対にヤツを捕まえる。」
そう言うシタールの拳は強く、堅く握りしめられている。
「そうですか…私はもうしばらく考えさせて下さい。依頼主の貴族の方も壺はもう戻ってこなくてもいいと言っています。」
ガウヌはそこまで言うと一息ついた。
「今回の件は手を引きましょう。ライカさんも無事だったんですからいいじゃありませんか。命あってのもの種と人間のみなさんは言うじゃありませんか?」
だから手を引こう…そうガウヌは言葉を続けた。
「オレだってそれぐらい頭ではわかってるぜ。…でもなオレはヤツを捕まえる。」
きっぱりと真顔でそう言い返すシタール。
「惚れた女があそこまでされたんだ。やりかえさねえと男が廃る。」
「…あなたらしいですね。」
ふっと笑い、ガウヌはそう言い返した。
「わかりました。そこまで言うなら止めません。ただし、私もお手伝いします。」
「…すまん。」
「いいんですよ。好きでやってることですし。」
とりあえず、今日は休みましょう・・そう言うとガウヌは去っていった。
「オレも宿に戻るか…」
シタールは夜道を歩ききままに亭へと戻った。
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