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No. 00156
DATE: 1999/04/29 03:32:37
NAME: コロム
SUBJECT: 二年前の始まりと終わり
あの男が。
あの男が。
自分のすぐ横を通っていく。
『なんで・・・なんでアイツが・・・』
カレンが無理矢理手を引っぱって隅の方へと歩いていく。
『・・・・いや・・・・いや・・・・いやぁーーーーー!!!!』
恐怖と悲しみと、そして憎しみが頭の中ではじけた。
「えっ、ゴブリン退治?・・・はぁっ?それで引き受けちゃったの?」
私の目の前にいる幼なじみのクレルト(♂)は、それを聞いて大きくうなずく。
「・・・・バカ?」
「なんでそうなるんだよ。ゴブリンが畑とかを荒らしているから退治してくれって言われたら、引き受けるしかないだろうが。」
頭を抱える私を不思議そうに見るクレルト。
そう。彼はファリスの神官。しかも村一番熱心な信者でもあったのだ。そして、融通の効かない頑固ものでもある。
根はいいやつなんだけどさ。
「ここから半日ぐらいの所にねぐらとしている洞窟があるらしいんだ。案内してくれるっていうから、行こう。」
「あのさ・・・」
「何んだよ?」
置かれていたコップの中の水を一気に飲み干すと
「今日・・・さっき、この村についたんだよね。」
「ああ。」
「で、今から行くわけ?」
「そうだ。それがどうした。」
立ち上がった拍子に椅子が倒れる。
「アンタねぇ!もっと計画的に考えなさいよ!!」
その後、私自身は何を言ったのかはよく覚えていない。
だが、よくわからないうちに魔法が使えるという人(女性♪)と一緒にゴブリン退治に行く事になった。
メルトというその人は、私達よりも年上ですごくいい人。なによりも、あのあこがれの黒くて長い綺麗な髪・・・
正気に戻った後、しばらくは見とれてしまったほど。
あーゆー人になりたいな・・・・
次の日の早朝。
私とクレルトとメルト姉さまは、案内してくれる村人と共に村を出た。
なんで出発が次の日の朝になったかというと、メルト姉さまがこう言ったからである。
「ゴブリンは夜行性だよ。」
メルト姉さま曰く、常識・・・・らしい。
ううう。私とクレルトはそれを知らなかったからなぁ。
もし、今出て行ったら夕方頃についてたわけだから・・・うう。あんま考えたくはない。
その後いろいろとメルト姉さまの冒険の話を聞いているうちに、夜になってしまったというわけなんだ。
ちなみにクレルトに、メルト姉さまのことをどう思っているか聞いてみたら。
「うん。どこかの誰かさんとは違って、とても素敵な人だな。誰かさんもあーゆー風になっ・・・なんでたたくんだよ。」
聞いた私が間抜けだった。
そうこうしているうちに、目的の場所についた。
案内してくれた村の人は、私たちの無事を願ってくれた。
「見張りがいる・・・」
「大半の連中は寝ているんだ。あのくらい問題無い。」
行こうとするクレルトの首根っこを反射的につかみ、引き止める。が、クレルトの方が私よりも力がある。あっさりと振り払われてしまい、一人でいってしまった。
「・・・・」
絶句しているメルト姉さまに
「早く行かないと、止まらなくなるよ。」
とだけ言って走り出す。
意外とあっさりカタがついた。
というか、ワラワラ出てきたところをメルト姉さまの魔法が襲い、ゴブリン達は次々と倒れていった。
倒れたゴブリンは寝ているだけという事で、私とメルト姉さまがとどめを刺す役。クレルトが起きているゴブリンを倒す役。
最後のゴブリンにとどめをさした私が顔をあげた時、洞窟の奥からいきなり男が出てきた。
何を考えているのか、その男は片手にコップを持っていた。
そして私たちが倒したゴブリン達をみてこう言った。
「せっかくの手駒になんてことをしてくれるんだ。」
「えっ・・・・」
何を言っているだろうか、この人は。
「貴様・・・黒幕か!」
「あなたが、あの厄介なファラリス神官ね。」
メルト姉さまの言葉を聞いたクレルトは、今まで見たこともない程の怒りを、殺気をあらわにする。
出て来た男は『にたり』と笑った。
「だとしたら、どうする。」
メルト姉さまは、当然の事のように魔法の詠唱を始めた。
何も答えずに男に愛用のバスターソードで切りかかるクレルト。
だが、あっさりとかわされ、彼が体勢をくずした一瞬。
ぼと。
足元までとんできたそれは・・・・・クレルトの首。
「あぁぁぁああああ」
メルト姉さまの声がとまる。
だけどそんな事問題じゃない。クレルトが、クレルトが・・・・
クレルトの首を抱えて泣きじゃくる。
ふと影が目に入り、顔をあげると。
そこには・・・・・・あの、男がいた。
なにもできなかった・・・・
メルト姉さまが、生け贄として目の前で、あの男に、あの男に切り刻まれていくのに。
それを、よく見える所に縛り付けられてみている。それしか出来ない。
血が。
骨が。
肉が。
なにもかもが壊れていく。白い肌に赤い血があふれ、流れ落ちていく。
なにもできない。
なにもできない。
・・・・悔しい。憎い。悔しい・・・・
『それ』が終わってしばらくしたあと
「さて。こっちの女はどうしてくれようか。」
にやついた、気味の悪い笑い顔。その男の手が私のあごを持ち上げ、顔を上に向かせた。
「ん?・・・・・いい目をしているな。ふふふふふふふふ」
首を振り、その手から逃れようとする様子をじっと見て笑う。
急に手が離れる。が、反対の手が首をつかむ。
何かぼそぼそとつぶやいたようだか、私には聞こえなかった。聞きたくもなかった。
そしてその手も離れると、男は含んだ笑いをしながら私の肩に手を置き
気がつくと、ゴブリンが横にいた。
驚いて、慌てて逃げようとするけどうまくいかない。
両手が後ろで縛られているのに、横にいるゴブリンが死んでいるのに気がついたのは同時だった。
冷静になって辺りを見回してみると、たくさんのゴブリンの死体から少し離れた場所に首のない人間の死体もあった。
「・・・・夢じゃ・・・・ない・・・」
涙があふれる。
視線を下に向けたとき、紙切れが落ちている事に気がつく。
『汝に苦しみを与え、その苦しみを我が神に捧げよ』
「・・・なにが・・・捧げろだ・・・・絶対、絶対。ゆるさない・・・」
一番大切な事を、ものを奪ったんだから。
遠くから、泣き声のような、叫び声のような音が聞こえる。
歩いていた足を止める。
「クックックッ・・・・」
肩を震わせながら笑うその男の顔には、三本の線のような傷があった。
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