No. 00171
DATE: 1999/05/11 11:48:34
NAME: フルゴール
SUBJECT: 家族の肖像(2)幸福な子供
数年のうちに二人の間には二人の子供が産まれた。
ハーフエルフの男の子と、人間の赤ん坊。
彼らは、自分達を追う者の影を忘れていた。
幸せな日がこのまま続くのではないか、そう夢を見る事すら出来るようになった時、
すべてはあっけなく幕を閉じた。
彼女の父親が、娘を見つけ出したのはまだ肌寒い春の初めだった。
何処からとも無く忍び寄る影に始めに気がついたのは、幼い少年だった。
夜を恐れ、暗闇を恐れ、そして訳のわからぬ胸騒ぎに体をかたくする少年を不思議に
思いながら一家は西に進んだ。
春の終わりの夕方。
急に目の前へ飛び出してきたのは長い黒髪の少女だった。
獣に追われているのだといい、気を失った少年を彼らは住処へと運び込み、手当てを
してやった。
その夜半、不振な気配を感じたのか、あるいは何か聞こえたのか目を覚ました子供の
たものは、空の寝床と表で声高に話す父の姿だった。
母は、妹はと首を巡らす少年の胸に向かって父と向き合っていた黒髪の少女の手から
なにかが投げつけられた。
父は強い冒険者だったのだと、今でも少年は思う。
それでも彼は死んだ。
少年の目の前で、赤い血が散った。
瞳の焦点が合わないまま、少年は目前で起こる事を見ていた。
脇にあった茂みから数人の男が出てきた。
手にはそれぞれ弓を持っている。
父の背中に刺さっているのはそれなのか、そう納得する。
「こいつはどうする?」
「こんながきに何が出来るって言うんだ。ここは人も来ないし、ほっときゃ死ぬさ」
自分の事を言われているのだとは、わからなかった。
ただなにかが抜け落ちたように感じた。
母が叫んだのが遠く聞こえた。