No. 00172
DATE: 1999/05/11 12:21:25
NAME: フルゴール
SUBJECT: 家族の肖像(3)夢の終わり
シアンと呼ばれる少年がいた。
冷たい瞳をした幼い子供である。
ある日、ふらりとやってきて肩の傷を見せながら、これを治して欲しいと言った。
ひどい傷だった。肩の付け根あたりに杖かなにかを力いっぱい押し付けられた後がある。
この町では、殺しも珍しい事でない。
だが、4歳か5歳の少年にするにはそれはあまりにもひどく思えた。
おそらく、一般人の仕業ではないだろう。
私は悩んだ。もしこれを直した所で、やっと平和になった我が家にまた問題を抱える事になるのではないだろうか?
軽い靴音がして振り替えると、そこにいたのは末の娘だった。
「なにそいつ?新しい子?」
銀色の髪を揺らしながら覗き込んだ彼女の顔を、少年がはたいたのはその時だった。
娘は、驚いたように彼を見返し、ふふんと鼻で笑った。
「そんな風にしてたら処分されちゃうんだから」
ああそうなのだ、と私は思った。
この子ははじめてあったころの娘に似ている。
盗賊として育てられながらも、それになりきれず、暗い目をしていた彼女と・・・・。
彼女はそれを悟ったのだろう。
その後も二人は何度か合っているようだった。
ある晩、娘が金切り声をあげて部屋に飛び込んできた。
ついていくとしきりに下水道の方へ促す。
町の外れにあるこの家の下を通る下水道には、様々なものが流れ着いた。
大方、ねずみでも見つけたのだろうと思った私の期待は裏切られた。
そこには数年前に私を尋ねてきた少年が浮いていた。
右の首の付け根から肩にかけて、かなり深い傷がついている。
致命傷だった。おそらく殺すつもりで下水道に投げ込んだのだろう。
少年を保護してから、私たちの家族は町を出る事を余儀なくされた。
旅芸人に混ざって夜半に町を抜け、次の町を目指した。
追手はいないようだった。
代わりのいくらでもいる中で、落ちこぼれたものの事など対した事なかったのかもしれない。
彼らは何も知らされず、ただ使い捨てられるだけなのだ。
意識が回復し、徐々に体調を回復した少年に尋ねた事がある。
「一体どうしてギルドなどに入ったのか?」
少年は何も言わず、顔を背けた。
私があきらめて部屋を出ようとした時に嗚咽が聞こえた。
10歳にも満たないその子供は、大声を上げて泣く事すら知らなかった。
ただ強くなりたかったのだといった。