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No. 00174
DATE: 1999/05/13 22:22:31
NAME: メーカー
SUBJECT: 鶏になった男(庭先編)
「俺は,人間なのか・・・?。」
呟いた男は自分の手を見つめながら,
なんども閉じたり開いたりを繰り返していた。
まるで,5本の指があるのが不思議であるかの様に・・・。
オランの街の雑踏を歩いている,この男は。
頭髪は綺麗に整えられ,カラダは清潔そうなのだが,
服だけは貧民街の住人のようだった。
そのうちに,急に男は満面に喜色を浮かべ,叫びだした。
「っっぅ・・・やった!,やったぞ!。俺はにんげんだぁぁぁぁ!!!。」
何事かと思い,目を向ける通行人達。
だが,暫くすると眼を背け,再び歩き出す。
・・・あまり関わり合いになりたくない手合いと見られたらしい。
「よっし、さけだ,取りあえず酒いこう・・・。」
自分に向かってそう言い聞かせると,酒場へ歩き出す。
すると、通行人の中から,ちんぴら風の男がひとり顔をだす。
「兄貴?、あにきじゃねぇですか!。」
いぶかしげな顔をしながらではあるが,
そう言って近づいて来た男は,近くに来て確信したらしく・・・。
「この一ヶ月どうしてたんですかい?,ギルドに連絡もなく居なくなるから,
兄貴,死んだんじゃないかって・・・。」
そう、俺はギルドの盗賊なんだ。
俺の名前は・・・メーカー。
第一線で活躍する盗賊,だった・・・。
・・・一ヶ月前までは。
あの日、あの最悪の魔術師の家へ忍び込んだ俺は,
敷地内へ入ったとたん騒ぎ立てる犬,猫,豚,鶏,そして猿。
そいつらに追い回され,気がついたら魔術をかけられ,
意識を失っていた。
目が覚めると,俺は目の前に赤い外套を着た魔術師に見下ろされていた。
「おい、お前。窃盗未遂,家宅侵入で,一ヶ月強制労働な。」
そう言った魔術師は俺の首根っこを掴むと庭に放り投げた。
「?・・・!!!」
俺は,自分の池に写るカラダを見て唖然とした。
白い羽,黄色くて細い足・・・そ、そしてこのくちばしとぉ。
「 と、とさかぁぁぁ?。」
ま、まさか、しかし間違え用のない真実。
俺は,
俺は『にわとり』になっていた・・・。
あれから一ヶ月間。
俺は,この家に入ることを決意した自分を責めながら,
種まきをし続けた。
いまではもう,思い出したくもない思い出だ。
誰にも言えない・・・,鳥の餌を食って生きていたなんて。
「それにしても兄貴、えらい貧乏くさい服着てますねぇ。」
名前も覚えていないチンピラの声で現実に引き戻された俺は,
自分が一ガメルも持っていないことに気づき,この男から酒代を頂くことにした。
「じゃぁ、今度返すからな。」
金を出すのを渋った男を素手で叩きのめしたあげく裏路地に捨て,
意識があるのか知らないが服と金を貰ったのだから一応捨てぜりふを吐いておく。
「さて、酒場に行くか・・・。」
そう言いながら俺は,
心の内でもう二度と好物の手羽先は食えそうにないな,
と思っていた・・・。
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