No. 00177
DATE: 1999/05/17 06:47:15
NAME: シータ
SUBJECT: 悪意の詰まりし箱
学院の図書室で、論文を書くために机の上に積み重ねてある本の横に置いた金属製の箱を見つめ、ふと、昨日の出来事を思い出す。
きままに亭に、仕事の依頼に来たメーカーさん。
引き受けてくれる冒険者を探していたけれど、きままに亭にいた人たちは他の事で忙しかったみたいだから、思わず私がその仕事を引き受けてしまった。
メーカーさんの「高い物だから」という言葉には少し不安を覚えたが、シェリアルナさんが一緒に行くことになったからほっとした。
私は、冒険者という響きに憧れていたのかもしれない。
とは言っても、メーカーさんの依頼はオランの街中住むある人に箱を届けるだけ、といった簡単なものだから冒険というには遠いけれど・・・・。
ふと、窓に目をやるとすで日が暮れていた。
いけない、シェリアルナさんと夜に箱を届けに行く約束をしてるんだった!
片づけようと急いで本を持ち上げたとき、はずみで箱が机から押し出され、鈍い音を立てて床に落ちてしまった。
大切な預かり物なのに!
胸がぎゅっと苦しくなる。
どうしよう何か壊れ物でも入ってたら・・・・・。
慌てて手を伸ばし、箱を拾い無事かどうか確かめる。見ると、箱は落ちた弾みで留め金が壊れ、蓋がかるく開いていた。
留め金を直そうと指で蓋に触れたその瞬間、指先にちくりとした痛みをおぼえた。
あ、痛い。
そう感じた次に激痛が走る。
「いっ・・・・!」
あまりの痛さに声を出すことも出来ず、身を固め床にうずくまる。
痛みは容赦なく指先から腕へ、そして体中へと広がっていく。
何が起きたの!?
離れたところで本を読んでいた魔術師が異常に気が付き、駆け寄ってくる。
痛みと混乱が私を支配した。
助けて・・・!
痛い!私死ぬの?
もうあの人に会えない・・・・の?
そん・・なの・・・・い・・・や・・・・。
「おい!しっかりしろ!」
魔術師はぐったりした少女に呼びかけるが、反応はなかった。
だが、まだ微かに息をしている。
「一体・・・何が?」
少女の細い指先が、彼の目に入った。中指の先が青黒く変色している。
「まさか、毒?・・・・・解毒剤を!」
彼は少女を抱き上げると、慌てて図書室を出て解毒剤の置いてある研究室に走った。