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No. 00183
DATE: 1999/05/23 00:29:05
NAME: ラーニー・アダルシア
SUBJECT: 今日はお休み(白衣の天使)
私の名前はラーニー・アダルシア。
両親はこのターロンの村に赴任して10年になるマーファ神官。
そう、ゴブリンが街に現れたのは,私の13歳の誕生日だった。
夜。
そう、その晩のことだった,
初めてワインを飲ませて貰った私は,少し酔っていたのかも知れない。
白い寝台の上で枕に顔を押しつけていた私は、急に肩を掴まれ,揺り起こされた。
「ラーニー,起きて。起きなさい。」
少し高いように聞こえた母の声は,緊張していたのだろうか。
眠い目をこすりながら手を突いて上半身を持ち上げると,
肩胛骨の下あたりまで伸びている黒髪が,白い布団の上に広がる。
また、お母様に切ってもらわなくっちゃ・・・。
そう思いながら、いつもの様に寝台の脇にある棚の上から,
額にかけるマーファの聖印を取り上げようと腕を伸ばした。
「急いで!」
母は,のばした私の腕を取ると強い力で私を引っ張って歩き始めた。
「お母様、聖印が・・・。」
少し,心残りでは有ったのだが。
意識のはっきりしていなかった私は,それ以上そのことを考えなかった。
歩きながら急いで突っかけただけのサンダルが脱げないか心配している間に,
中庭に出た。
こんなに急いで,母は何処に行くつもりなんだろう?。
まるで走るように私の手を引く母の背中を見つめながら,
私は酔いと眠気のなかで,夜風の気持ちよさを味わっていた。
急に母が止まった,・・・ここは魔法の部屋。
そう母はいつも呼んでいた,魔法の合言葉でしか開かない扉。
秘密のお部屋。
扉は開いていた,中には古い箪笥,それに揺り籠。
綺麗な透明の器。
・・・入っているのは,剣?。
「ここにいなさい,いいわね?。」
母の顔は真剣だった。
「なにがあったの?お母様。」
ようやく覚めてきた頭が動き始める。
一体何?、何があったというの?。
沈痛な面持ちで母は私を部屋へと入れる。
「妖魔がね,村に責めてきたのよ。」
「戦うの?」
戦う?、まさか、あの優しいお父様が?。
私よりも非力なお母様が?。
「ええ、お父さんも、お母さんもね。」
それを聞いて目の前が真っ暗になった。
母は扉をしめる。
「ダメ!、とおさまもかあさまも一緒じゃなきゃ嫌!。」
私の叫びは聞き入れて貰えなかった。
目の前の扉はまるで鉄のように堅く閉ざされていた。
扉の向こうから母の泣いているような声が聞こえる。
「・・・ごめんね、ごめんなさいね,ラーニー。
本当は戦いたくはないの,でもね、守らなくてはならないのよ。
貴方を,そしてこの村を。
妖魔と戦う事は,
守るために戦うことはマーファもお許しになっているわ。
・・・ラーニー,大地の法を忘れては駄目よ?。
いつもマーファは貴女を見ていらっしゃるわ。」
少したって,扉の向こうから気配が消えた。
「お母様?お母様?。」
いつまで待っても返事は帰ってこなかった・・・。
私は部屋の中で,独り叫んでいた。
「何故?,何故争わなくてはならないの?。」
「妖魔とは殺し合うのが,争うのが自然なの?」
「・・・何故,・・・何故。父と母は死なねばならなかったの?」
「マーファ!!!」
そして,その時初めて聞いたのだった,神の声を。
「全ての者に慈愛の心は等しく注がれる」
それがマーファの答えだった。
それは昔の話。
今から15年前の話。
二週間後に衰弱状態で助けられた私は,
大都市オランに住んでいる,
母の古い知り合いの紹介で,神殿に勤めることになった。
扉の合言葉は「愛する者のために」だった。
今、私は母と同じ歳になった。
いまなら少し,母の気持ちが分かる気がする。
でも、私は母と同じ選択肢は選ばないと思う。
・・・争わず解決する方法があったはずだ。
たとえ,妖魔が相手でも。
まあ、とは言っても私はまだ結婚していない。
・・・あのとき,切ってもらい損ねた髪は,
今でも伸び続けている。
いまでも原型を留めていなかったあの死体が,
母とは信じられない気がして,いつか。
そう、いつか、母が切ってくれるような気がして。
「ラーニー様,ラーニー様ぁ!」
急に現実へ呼び戻される・・・。
あの声は見習いの娘だろう,来週婚礼だとか。
「司祭長様がお呼びですぅ,お急ぎください!」
「ええ、解ったわ」
ふわりと微笑むと,
彼女にそう伝え,白い法衣の裾をひらめかせる。
そう、ラーニー・アダルシア。
今の私の身分はマーファ,オラン神殿司祭。
いつの間にか年齢と共に位も上がっていった。
・・・あっというまの15年だった。
司祭長様の話,どうせ小言だろう。
「ふぅ・・・。」
おもわず溜息が漏れる。
ええ、私だって知っていますとも,
28は・・・,いきおくれだって。
(拳を握りしめる)
だけどねぇ、マーファの司祭にもなると,
簡単には決めらんないのよぉ?(泣き)。
だって、だってよ?。
仮にも結婚を守護するマーファに使える神官が!、
しかも司祭位にある人間が!、失敗できないじゃない!!。
離婚なんてしてごらんなさいよ!、
生きてオランの地は踏めないわ!!(キッパリ!)。
そりゃああ、裏でなんて言われてるかだってしってるわ!。
やれ,遊び好きだとか,女が好きだとか、機能がないだとか!。
好きなこと言ってくれてるじゃない,ババァども!。
この前来た話なんてどうしようかと思ったわよ。
貴族の,それも城付き三男坊!。
でもね、でも、私は!。
大地母神に仕える「白衣の天使」が欲しい奴の「モノ」。
になるなんてまっぴら御免よ!。
あーあ,誰か私と田舎で畑を耕しながら暮らしてくれる人。
いないかなぁ・・・。
さって、今日はお勤めのお休み日。
飲みに行こう,かな。
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