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No. 00186
DATE: 1999/05/25 23:10:11
NAME: ファズ&フード
SUBJECT: ファズとフードの1日
僕の名前はフード。ファズ・フォビュートという魔術師の使い魔をしている由緒正しいハムスターです。今日は御主人様と僕の1日を紹介したいと思います。
____朝____
日の光が窓から差し込み、朝の到来を僕達に教えてくれている。小鳥達はさえずり夜の終わりを告げ、朝の慌ただしく過ぎ行く時間が流れ始める。僕は隣の(ネズミ用の)ベッドを見て大きく1度溜め息をついた。ラプソディ(ユーティの使い魔のハムスター)がいなくなってもうすぐ1ヶ月が過ぎようとしている。ラプソディはじつに可愛いハムスターだったと思う。御主人様に
「いいか!?絶っ対にラプソディには手ぇ出すんじゃねーぞ!フードとラプソディの子供なんて出来た日にはお前に死ぬまで練りワサビ食わせてやるからな!」
などと言われなかったら多分、僕はラプソディにプロポーズしてたと思う。御主人様いわく、使い魔と術者は視覚ばかりでなく、感覚も共有しているって言ってた。たとえば、僕が怪我をしたら御主人様も怪我をするらしい。つまり、ラプソディが御産を経験したら、術者のユーティまで、御産の苦しみを味わう可能性もあるんだって。ここから先の説明は僕には良く解らなかったんだけど、場合によっては僕が事におよび、もしユーティの身体にも影響があった場合、御主人様が責任をとるという形でユーティと結婚しなければならないという事態があるらしい。世の中というのは不思議なものだとつくづく思う。
それにしても・・・御主人様はこんなにもいい天気で、みんな起きて朝食をとったりしてるというのにまだ、夢の世界で微睡んでいる。どうにもお腹が空いてしょうがない。多分起きないだろうけど、一応起こす努力をしてみようかな?
「ちゅーちゅーちゅーちゅー!!(御主人様!お腹空きました。エサが欲しいですぅ)」
「朝っぱらからうるせーなー・・・静かにしろよ・・・」
バシッ!
・・・叩かれた・・・・・・
こんな理不尽な事は許される事じゃないと僕は思った。・・・でも、御主人様が起きるまで我慢しよう・・・
(それにしても、僕の頭を叩いたという事はひょっとして御主人様も頭、痛かったんじゃ・・・?)
____昼前____
ようやく御主人様が起き出した頃には太陽は空高く上がり、暖かな日射しを投げかけていた。
「ふぁぁぁぁ・・・久々によく寝たな。さて、そろそろ出かけるか♪」
久々に・・・なんて言ってるけど、前の日もしっかり寝てたと思うのは僕だけなんだろうか?
身支度をして、御主人様が向かった先は勤め先の魔術師ギルド・・・・・・じゃなくて、街の広場。こんなとこで何をするつもりなんだろう?
「さーさー、お立ち会い。良い子も悪い子もおばあちゃんもおばちゃんもお姉ちゃんもみんな見ていってちょーだい♪」
・・・なんとなく、何をしようとしてるのかわかった。でもなんで、女の子と女の人にしか声をかけてないんだろ?
「ここにいるこのハムスター。見た目はそこらにいるタダのハムスター。・・・ホント何の変哲もねーな・・・」
まわりの人達からクスクスと笑い声が上がる。
・・・ほっといてくれ・・・
「だけど、こいつは頭の良さなら世界一と言っても良いほどのハムスターだ。そこのお嬢ちゃん。疑ってるでしょ?」
ようするに御主人様は僕を見せ物にしてお金を儲けようと思い付いたらしい。真面目に働いた方が良いと思うんだけどなぁ。
「疑うんだったらしょーがない。こいつが頭の良いハムスターだって証明しねーとな。お嬢ちゃん。好きな数字を言ってごらん。その数字と同じ回数だけこいつが鳴くからね。それじゃあフード、頼むぜ♪」
そりゃ、使い魔である僕ならそれくらい楽勝だけど、なんだか情けない気がする・・・
「え〜とね〜、100!」
そ、そんなに鳴くのぉ!?御主人様ぁ、もう少し小さい数字にしてくれるように言ってよぉ
「よーし、フード。100だってよ♪」
・・・鳴くしかないのね・・・
「ちゅー、ちゅー、ちゅー、ちゅー、・・・・・・(1,2,3,4,・・・・・・)
(中略)
・・・・・・ちゅー、ちゅー、ちゅー、ちゅー、ちゅー!!(・・・・・・,96,97,98,99,100!!)」
「よーし、よく出来た。はい、みなさん拍手ー♪」
パチパチパチパチ
「さて、続いては・・・・・・」
結局、僕は昼まで見せ物になっていた。肝心の稼ぎは20ガメルとそこそこの金額になってた。この調子だったら明日もするんだろうなぁ・・・
(あとで、かなり高級なエサを御主人様から貰えたし僕も結構満足。だけど、使い魔として少し悲しい気もする・・・)
____昼____
昼食はきままに亭というお店ですませる。ここには大概、スカイアーとか、パーンとか優しい人がいて、御主人様は食事を奢ってもらう事がよくある。御主人様はかなりこのお店の事を気にいってるらしい。ちょっと前は少し嫌な事があったらしいけど・・・・・・(なんでも、お店にいた人ほとんどに腹がたった事があったらしい)でも、正直言って僕はこのお店は少しだけど苦手なんだ。理由は簡単。僕の苦手な生き物が入ってくるんだよね。シンクレアって人の使い魔がヘビで、僕はどうもヘビって生き物が本能的に恐い。いつか、あのレーレってヘビも克服したいって思うけど、恐いものは恐い。
御主人様はこの酒場でしばらくの間、一緒にいるお客さんと和やかな時間を過ごす。多分、和やかなんだと思う。結構、平手打ちとかもされてるけど、和やかなんだろうなぁ。普段なら平手打ちされたら、反射的に殴りかえしてる御主人様が大人しくしてるんだもんねぇ。
ちなみに、よく御主人様を叩いてるのはセリスという名前の女の子。別に女の子だから黙って殴られてるってわけじゃないと思う。昔、ムーンって名前の女の子を殴ったし・・・
酒場で楽しい一時を過ごした後は「西の高台」って所に行くのが習慣になってるんだ。なんでも御主人様の弟のルフィスって人のお墓があるんだって。普段はヘラヘラしてる御主人様がここに来ると少しだけ寂しそうな顔になる。ここで人に出会うと無理して笑ってるように見えるのは僕だけなのかな?酒場で出会った人の話を聞いてると、ルフィスは御主人様とよく似ていたらしい。ルフィスって人もこんな風に心を隠してヘラヘラしてたのかなぁ?
____昼下がり____
この時間は僕にとっても、あまり楽しい時間じゃない。御主人様は魔術師ギルドでお仕事を黙々としてるし、僕の友達もここにはいないしね。御主人様の部署は図書室。ここの蔵書の整理整頓、写本とかをしてるらしい。面倒臭い仕事だと思うけど、御主人様は意外にも文句を言わずに仕事をしてる。
ちょっと前に綺麗なハーフエルフのお兄さん・・・かな?まぁ、綺麗なハーフエルフが来た。調べものをしてたみたいだけど、御主人様はそんなのは手伝わなくて良かったのかなぁ?
____夜____
ようやく仕事を終えた御主人様はまっすぐに宿に帰らずに、常闇通りと呼ばれるスラムを歩きまわる。別に目的もなく、ブラブラしてるだけ。しばらく歩き回ってると、若い女性の悲鳴が聞こえてきた。御主人様は待ってましたと言わんばかりに騒ぎの起きてる方向に走っていく。騒いでいる女性はすぐに見つかった。あきらかにゴロツキ風の男数人に連れていかれそうになっている女の人だった。
「・・・悪い事は言わない・・・その女性を放しなさい・・・」
スタッフを構えて御主人様がゴロツキの前に立ち塞がる。どうでもいいけど、なんであんな話し方をしてるんだろ?
「あんだと!?てめーにはカンケーねぇんだよ!」
「・・・このスタッフが見えないのか?私がその気になれば今すぐ貴様等を消し炭に変える事が出来るのだぞ?」
ここで、見下したような邪笑を浮かべた。どうも邪悪な魔術師の演技をしているようです。
「そういえば、そろそろ生け贄が必要な時になってきたな・・・」
偶然にもその時風が吹き、御主人様の漆黒のローブがなびいた。口元には邪笑が浮かんだままだったので、はっきり言って悪の魔導師にしか見えませんでした。
「に、逃げろぉ!」
ゴロツキどもは大慌てで逃げていきました。でも、御主人様、助けた女性も怯えてるんだけど・・・?
「さて、ダイジョーブか?怪我はねーか?」
「?
あ、あの〜?」
突然、話し方が変わったから驚いてるみたいだった。まぁ、驚くよね。悪の魔導師から、一般人な口調になったら・・・
「ワリーワリー。あーするしか方法が思い付かなかったんだ。脅かして悪かったな♪」
御主人様がこんなに優し気に話すなんて怪しい。
「ありがとうございました。何とお礼を言っていい・・・」
「いや、礼なんていらねーよ。その代りワリーとは思うんだけどさ、メシ代だしてくれねーかな?腹へってさ♪」
「おっちゃーん。一番安い定食頼むなー♪」
あのあと、女の人を家まで送って、ちゃっかり10ガメルも貰ってから御主人様は大衆浴場に行って、この酒場に食事をとりに来た。なんともたくましいとしか言い様がない。定食にパクついてる御主人様を放っといて、僕は店内をうろついていた。結構、チーズとかくれる人がいるんだよね。
「おい、あそこに座ってる魔術師、あれって前によく来てたガキに似てねぇか?」
「おう、あのルフィスってガキだろ?確かに似てるよな」
通りがかったテーブルに座っていた2人組の男達が御主人様の事を話していた。
「そう言えば、最近ルフィスのガキは来ないよな・・・まさか、あいつがルフィスの成長した姿だとか?」
「おいおい、いくらなんでも急に成長しすぎだぜ?それに、ルフィスは死んだって聞いたぜ?」
「う〜ん・・・確かめてみるか?」
「どうやってだよ?」
「まぁ、見てな」
そう言うと片方の男が御主人様に近付いていった。
「よう、久しぶりだな?」
「誰だ?てめーは?」
御主人様は当然、訳がわからないって顔をしてる。そりゃそうだよね?
「ちゃんと話するのは始めてだから知らないのも無理ねぇけどよ。まぁよろしくな」
「おー、よろしくな」
「で、最近もよく西の高台に行ってるのか?」
「あん?なんで、んな事知ってんだ?」
「いいじゃねぇかよ。そんなのは別に。で、貧乏な暮らしは抜け出したか?また、ストリートチルドレンなんてしてないだろうな?」
「してねーよ。それにしても妙に詳しいな?」
「気にすんな。今日もチャ=ザ神殿に(カールさんと剣の稽古に)行ってただろ?チャ=ザ信者でもねぇのによく行くなぁ」
「(風呂に入りに)チャザ神殿には行ったけどよ・・・お前、ストーカーか?気色ワリー奴だな・・・」
「おおっと、すまねぇな。まぁ、おわびに今度何か奢ってやっからよ。気を悪くすんなって」
男が戻ってきました。でも、なんか勘違いしてるんじゃないかな?
「間違いねぇ、あいつはルフィスだ」
え・・・?御主人様はファズ・フォビュートって名前で、ルフィスは弟なんだけど?
「へぇ、ルフィスって生きてたんだなぁ?」
死んでると思うんだけど・・・
「最近の子供は成長が早いから見分けられないのも無理はねぇけどよ」
そんな問題なのかな?
そんなこんなで深夜まで酒場で騒いだあと、僕と御主人様はようやく、宿に帰った。これで、僕達の1日は終わり。
____後日談____
一部の地域でルフィスが実は生き返っているという噂が飛び交ったらしい。なんだかなぁ・・・
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