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No. 00191
DATE: 1999/05/31 00:44:35
NAME: コロム
SUBJECT: ビムラ・ビリスの大迷宮
このエピソードはこの先アップされる非凡なるゴブリン退治と、連動している所があります。
そのため、このエピソードだけではなく非凡なるゴブリン退治のエピソードも読んで頂けると、より理解が深まります。
「なんだ、コイツ。」
シタールが正面奥にいるライオンに人の顔と、羽を持ったへんなのを見て言う。
「スフィンクス・・・とりあえず、こんにちは。」
「・・・・・」
アトゥムがにこやかにあいさつしているのを見て、カイが困っている。
黙ってディック、カレン、ラスの三人が攻撃態勢を取る。
あたふたしている私に後ろに下がるよう、ライカが小声で指示する。
『ひさしぶりの客人だな。』
「! みなさん、剣を納めましょう。彼は友好的です。」
「アトゥムさん。それで攻撃されたらどうしますか?」
あきれたようにディックが言う。
そのディックの言葉に答えるように、スフィンクスが何かを言う。
「・・・どうやら敵意はないようだ。」
ラスの肩に手をやり、そうつぶやくカレン。
『我が問に答えよ。』
「・・・・・なんて言っているの?」
「わからない?なんだ、もっと早くいいなよ。」
私が困って小声で聞いてみると、にこやかに笑いながら教えてくれるライカ。
その目の前でシタールがスフィンクスに向かって大声で怒鳴る。
「なにをごちゃごちゃ言ってるんだ。分かる言葉で言え!」
ごすっ
「教えてあげるから、アンタはおとなしくしている!」
武器を落とし、両手で頭を押さえうずくまるシタール。
「・・・・遠慮のないこぶしだったな・・・・」
「・・・ああ。」
カレンとラスの会話。
その横でアトゥムとカイが目を丸くしている。
何が起ったかと言うと、ライカが思い切りよくシタールを叩いた(殴った)。
思わず、あとずさりする私。
目の前で突然起った出来事に、他人事とは思えない恐怖を感じてしまったからかもしれない。
『そうか、言葉が通じない者がいるのか。しかたがないがどうしようもない。解る者が解らぬ者に伝えてくれ。』
一呼吸おいて
『汝らに問う。勝利者とは何か!そして、汝らは勝利者になれるか!・・・・答えよ、訪れし人間達よ。』
ディック、シタール、カイにコロム。この四人に通訳したあと、部屋の隅の方で円陣組んで座り込む。
・・・相談を始める事約10分。
答えはラスの主張する『生存者』説と、カレンの主張する『達成者』説に絞られていた。
この時、少し眠くなってしまった事は、秘密にしておこうっと。
双方の説が間違ってはいないけど、どちらが『答え』なのか解らずしびれを切らしたライカが、スフィンクスに「答えは一つか?」と聞いた。
『否。』
その一言で、こちらの答えは決まった。
ラスとカレンは互いに毅然とした態度で、「生存者」と「達成者」と答えた。
2人の意見を黙って聞いていたスフィンクス。
なんか、考えているように見えたのは私だけなのかな?
『まあ、良いだろう。我が主、偉大なるビムラ・ビリスの大迷宮、存分に御楽しみあれ。』
スフィンクスは笑みを浮かべると、扉の横にある台座にのる。
すると奥に続く扉が開いた。
スフィンクスの横を通るとき、シタールがつぶやいた。
「楽しみあれ・・・か。楽しいと取るか、苦しいと取るかは、この迷宮しだいだけどなぁ。」
「ぶつくさ言ってないで、とっとと行く。」
ライカに押されて進むシタールを、私はキョトンとした顔で見ていた。
私たちはカレンを先頭に警戒しながら奥に進んだ。
不思議な事にスフィンクスがいたあの部屋以降、火を灯さなくとも辺りが見まわせる程の明りがあった。
アトゥムが言うには、壁に『明り』の魔法がかかっているのではないかと言っていた。
よくわかんないけど、そういうことらしい。
しばらく進むと、扉に突き当たる。
「・・・罠も鍵もない。開いている。」
扉を調べていたカレンがそう呟く。
「ならば、大丈夫ですね。何がいるかわかりませんから、私から部屋に入ります。」
ディックが扉に手をかけ、開ける。
部屋は、今いる場所と同じように明るい。
「・・・・特に罠もない。」
部屋を調べていたカレンが疲れたように言うと。
「じゃあ、なんだろうなぁこの部屋は。」
アトゥムがのんびりとした声で答える。
そう、なんだかわからないのだ。
入ってきた扉、その正面と左右に同じような扉。その扉は、入ってきた扉を閉めないと他の扉は開かないような仕掛けになっている事を、カレンが困ったような顔しながら教えてくれた。
そして部屋の中心には、手のひらぐらいの水晶が台座に置かれていた。
ちなみに水晶が取れない事は確認済み。
しかも水晶の中には『2』という数字が浮かび上がっている。
これについては、アトゥムも首をひねるばかり。
・・・・あ。シタールがライカにつねられてる。なんで・・・あ、カイがいる。じゃあ、また口説いていたのかな?
「だめだよ、シタール。」
シタールとライカの近くにいるカイに、私は抱き着くと。
「カイは私のものよ〜♪」
「・・・・・え?・・・」
キョトンとしているカイ。すると様子を見ていたディックが
「カレンさんはどうするのですか。」
ディックに向かってにこっと笑ってから、カイを抱きかかえたままカレンも抱きしめると
「2人とも私の〜♪」
「オイオイ、俺達はものじゃないぞ。」
あきれた顔してつぶやくカレン。
「それはズルイぞ!」
「それじゃあ、カレンを・・・」
「いらん!」
『貸してあげる』という言葉よりも早くラスがいらないと言い切る。
その後、カレン、シタール、ラス、そして私との押し問答がしばらく続く。
「誰のだっていいような気がするけどなぁ・・・・」
「じゃあ、なんでシタールさんが女性を口説くと怒るのですか?」
ディックの質問に、言葉つまるライカ。
「・・・・・私の立場は一体・・・・」
ポツリとつぶやいたカイの問いに誰も答えてくれなかった。
「どうやら、カドに来たようだ。」
そう呟いたカレンの横から、部屋をのぞくと扉が右手の方に一つしかない。
そして部屋の真ん中には、水晶の乗った台座。
「・・・4って出ているぞ。」
水晶をのぞいてたラスが言う。
あれからいくつかの部屋を通ってここに来たけど・・・・変化なしってつまんないな。
そうそう、途中でラスとカレンが右か左かで言い合ったけど、シタールが「こっちでいいだろう」と言って左の扉を開けちゃった。そのあとライカやディックに色々と怒られていたけど、そのおかげで口喧嘩が収まったんだ。すごい剣幕で言い合っていたから、私じゃ止められそうになかったからね。
「右の扉を開けたよ。」
そう言ったのは・・・・・ライカだった。
あとから聞いた事だけど、彼女もかなりあきていた。
その部屋・・・同じような部屋。水晶に浮かんでいる数字は8。
「次の部屋にさっさと行くか。」
少し疲れてきたらしく、あんまり力の無い声で周りをうながすアトゥム。
黙って入ってきた扉を私が閉め、カレンが正面(私から見て)の扉を開けた。
「・・・・!!!」
カレンが開けた扉に背を向け、目の辺りを押さえながらしゃがみ込む。
かすかに開いた扉からは、すごい量の明りがもれていた。
「大丈夫?」
慌てて駆け寄って声をかける。
「・・・目をやられただけだ。しばらくすれば元に戻る。」
「しかしよぉ、なんだよこの光は?」
不思議そうに首をかしげるラス。
「こ・・・・これは移送の扉・・・・話には聞いた事があったけど、こんな所で・・・・すばらしい!!」
感動して呆然としているアトゥム。
よく見えないけど、涙流して感動してそうな気がするのは私だけかな。
「・・・・・」
困ったカイが、ライカに救いの視線を送る。
「ちょっと待って。もう少しで思い出せそう・・・」
「よし。一番乗りだ!」
フッと光の中に消えるアトゥム。
「おいっ!」
そう叫びながら光の中に飛び込むディック。
「アイツら・・・俺も行くぞ!」
「やめろ。何が起るのかわからないんだぞ。」
続いて行こうとするラスをカレンが押さえる。
「でもさ、アトゥムが言っていたイソウの扉ってなんだ?」
「移送の扉!思い出した!」
そのあとライカが言ったのはこんなような事だった。
古代魔法の一つで、離れた場所にあるもう一つの扉へと瞬時に移動する事が出来る、便利な物らしい。
「とりあえず行ってみるしかないだろうな。」
説明を聞き終わった後、しばらくしてからシタールがそう言った。
「でも、どこに続いているか」
「あの2人、ほっとけないだろ。それにアトゥムはなんか確信もって、光の中に飛び込んで行ったように見えたんだが。」
ラスがしかたないよという手振りをしながら言う。
「そうなのか?」
唯一それを見ていなかったカレンの問いに、私はこくっとうなずく。
「・・・・行くか。」
ラスの言葉に反論する人はいなかった。
「おっ、きたきた〜」
にこやかなアトゥムの横でブスッとしているディック。
2人が無事で安心したのもつかの間、カレン、ラス、ライカ&ディックのお説教がアトゥムに降り注ぐ。
シタールはシタールで、ライカに気付かれないように私とカイを同時に口説こうとする。けど、時折ライカ達の様子を見たりする。見つかるのは怖いみたい。
でも、やっぱ見つかって思いっきり怒られてる。
それでもまた口説く。
バカと天才は紙一重っていうけれど・・・・・この人、意外と天才かしら?
「そういえばさ・・・・」
まだもめているアトゥム達に向かって聞く。
「この宝の山・・・」
「幻影です。」
ディックが質問の答えを教えてくれた。なるほど、だからお説教しているのか。
「ちょっと見てくる。」
そうカイに言うと、私は幻影の中に入っていった。
しばらくして偶然箱を見つけた。けど・・・・開かないし、そんなに大きくはないけど重い。
「・・・・カレン〜」
しばらくしてからもう一度呼んでみる。今度は返事があった。
「重い箱があるの〜」
なんか静かになった。なんでかな?
それからすぐにカレンとラスが駆けつけた。
そして掛かっていた鍵を難なく外すと、中にはたくさんの・・・金貨と宝石が入っていた。
かなりの重さなので、誰が持つかという事になったのだが、ライカが「シタールに持たせればいい」の一言で決まった。
結局はシタールがほとんど持ち、その残りをディックが持つ事になった。
どうやら、また懲りずに口説いていたのを見つかっての事らしい。
「ところでどこから出るんだぁぁぁぁ〜〜・・・・・・」
壁に寄りかかったはずのシタールが、壁の中へと消えていった。
「し、シタール!!」
それを追うかのように自ら壁の中へと消えていくライカ。
「!!」
チッという音を、私のすぐ横を駆け抜けたディックから聞こえたような気がした。
けど、本人に聞く間もなく、彼も壁の中に消えていった。
ラスもカレンが止める間もなく、そしてカイも続いて壁の中へ。
残ったのは、3人。
私と、カレンと、アトゥム。
3人とも顔を見合わせ、沈黙。
最初に口を開いたのはカレンで、他に行ける場所がないか調べて来ると言って、部屋をうろうろしはじめた。
その結果、入ってきた扉以外に進む道はない、と言う事がわかった。
微妙な時間。
順番もなんか、異様な沈黙の中決まった。
カレン、アトゥム、私。
気がつくと2人ともすでに、壁の中に飛び込んだみたいで、私一人。
その場の重圧感に耐え切れず、半泣きで壁に飛び込んだ。
そこは・・・なだらかに、そしてかなりの速さで落ちていくだけの、通路とも言えない所。
でも、ぐるぐるぐるぐる・・・・・
顔が青ざめていくのが、はっきりとわかる。そして、襲ってきた強烈な嘔吐感。
ケロラ
自分の服に、荷物に、滑り落ちながらも辺りの壁(?)を汚していく。
『私はいつまで落ち続ければいいのだろうか?』
そんな事を考えながら、意識が遠のいた・・・・
気がつくと、青い天井だった。
白い天井の模様が動いてて・・・・あれ?
空!?
がばっと起き上がる。そしてキョロキョロと辺りを見回すと、カイとライカをのぞいた全員がいた。
が、みんな私を見たまま動きが止まっている。
「・・・・どうした?」
一番近くにいるカレンに聞いてみる。が、顔を赤くしたままうごかない。
「・・・・意外と胸は大きいな。」
「そうですね。もう少し大人びた感じが、表に出ると良いでしょう。」
シタールとディックの会話。
キョトンとしていると、カレンがうつむきながら小声で言った。
「自分の姿を見ろ・・・」
言われた通り、自分のお腹の辺りをみてみる。
あれ?おへそが見える。それに今、飛び起きた時の反動でかかっていた毛布が・・・・
「きゃぁぁぁあああああああ!!!!!」
「どうしたの!?」
近くの草むらから慌てて出てきたライカとカイ。
荷物をカイにすばやく渡すと、シタールにつめより。
「あの子になんかした?」
恐ろしく怒気のこもった声で聞く。
「ななななな、なんにもしてないって。第一、この距離で何が出来るかよぉ!!」
たしかに、シタールとディックはちょっと離れた場所にいる。
「お、俺は無実だ!!なにもしてないって、本当だって!!」
「何も聞いてないじゃない。何、顔真っ赤にしているのよ。」
怒りの矛先が自分にくると思い込んでいたカレンであるが、ライカの言葉から自ら墓穴を掘った事に気付く。
「あの・・・・」
「え?ああ。着替えね、私の予備があるからそれを着て、と。それに、あっちに池があるから、そこで身体も洗うといいよ。はい、着替え。」
なにがなんだか、良く分からないまま着替えを手渡され、毛布で体を包んだまま池の方に行く。
あ。
「一応言うけれど、のぞかないでね。」
するとラスが答える。
「誰がのぞくか。」
「そうだ。ラスはカイのじゃなきゃのぞかない。」
「そんな事は無い。」
きっぱりと言切るラス。
・・・・よく考えてみれば、のぞこうとするとライカが怒るんじゃないかな。
「いってきます。」
「なんかあったら、呼べよ。すぐに駆けつけてやるからな。」
カレンの言葉に頷いてから、池に向かって歩き出す。
コロムの姿が完全に見えなくなってから、ラスがカレンに聞く。
「なんであれの面倒見てるんだ?」
「面倒を見ているわけではないが、まぁ、色々と・・・」
ガサガサ
すぐ近くのしげみで音がした。
各々自分の武器を手に持ち、警戒する。
しばらくすると、黒いローブを着た男が出てきた。
「アンタか・・・びっくりさせるなよ。」
そう言って構えたバトルアクスを降ろすシタール。
「おや、あなたは・・・・奇遇ですね。」
そう言うと、そのまま通り過ぎようとした男に、カレンが声をかける。
「コロムがいなくて残念だったな。」
「なんの事かな?」
男が不思議そうにカレンに聞く。
「コロムに呪いをかけておいて、それはないだろ。気を付けろ、コイツは闇司祭だ。」
ディックがそれを聞いて、ロングスピアを構え直す。
「なにを根も葉もない事を。」
男は大袈裟に驚くが、その口元には笑みがこぼれていた。
「とにかく・・・・」
その時、男の背後から悲鳴が聞こえた。
「貴様!彼女に何をした!」
ラスの言葉に男は、ニヤニヤした笑みを浮かべながら
「私は何もしていませんよ。」
それを聞いて、ディックが走り出す。
ディックの突撃は男の肩をかすめただけだった。
が、ディック自身はそのまま悲鳴の上がった方へと、走っていった。
男がディックの行動に驚いた時、シタールの振り降ろしたバトルアクスが目の前をかすめる。
「ちぃっ」
男はそういうと、何かの言葉を呟きはじめた。
カレンの攻撃もなんなく避けると、こう言った。
「ホーリー・ライト」
「ぐっ」
突然の事に、全員が目を焼かれる。
目が元に戻り始めた時には、男の姿はなかった。
「くそっ。」
「今はコロムの事が優先よ。」
辺りを捜そうとするシタールをライカが押しとどめ、コロムのいる池の方に行こうとした。
その時、ディックが現われてコロムが無事である事を皆に告げた。
それを聞いて、張り詰めていた空気がやわらかくなる。
「しかし、顔に三本横線の入った男なんて、2人といないような気がするんだけどな・・・」
アトゥムのつぶやいたその言葉さえも、やわらかく聞こえた。
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