 |
No. 00192
DATE: 1999/05/31 08:53:20
NAME: フィン
SUBJECT: 惨劇の日
私の名はフェレクシアン・アズバーン。フィンと呼ばれている。
この大地に産まれて、まだ16の年しか経っていない。
そんな私は、エルフだった。
これから話す事は、私が10の年齢になった年に起こった、実際の出来事である。
10の年齢になって、そんなに日は経っていないあの日。
沈黙の里というエルフの村に、私はいた。
「フィン、くれぐれも森の外には出ていけないよ」
お母さんが、出掛けようとする私に言う。
「判ってるって☆」
・・・いつもの風景。この後凄まじい惨状を見る事になるとは夢にも思わずに、私は森の中で遊んでいた。
さわさわと、木の枝が風に揺れる音を楽しみ、森の中に住む動物たちを追いかけたりしていた、そんな、日常な遊びを、私は満喫していた。
『フィン、コワイ、コワイ』
突然、木がざわめき出した。
私は何事かと、樹木たちを見上げる。
「怖い? なんで怖いの?」
私の問いに、樹木たちは答えなかった。
「う〜、そんなじゃわかんないよぉ〜」
私は答えをせがむ。
この時、さっきまでとは打って変わった暗雲が空を覆い尽くしている事に気がついていなかった。
『フィン、フセル!!』
樹木のひとつが、叫ぶ。
私は訳も判らずに伏せる。樹木たちが、動物たちが私を守ろうとする。
(なんなの、なんなの?)
訳も判らずに、そこにいた。
・・・・・・遠くで、叫び声が聞こえた気がする。
(なに・・? なんなの?)
身を起こそうとして、動物たちに邪魔される。
『ダメ、アブナイ』
その、動物の声を聞いたが最後だった。
突然の嵐。
そうとしか、説明できないものが、私を襲う。
『キャアァァァ』
私を守ってくれている樹木や動物たちが、悲鳴を上げる。
私は怖くて、彼等を見る事も出来なかった。
風に浮かされそうな身体。
樹木たちは、悲鳴を上げながらそれでも私を守ろうとしている。
私は必死に、樹木にしがみつく。
風の圧迫で、息が出来ない苦しさを味わう。
何時間、そうしていただろう。・・・私にとっては長い時間だった。
意識を取り戻すと、森はさっきまでの風景とがらりと姿を変えていた。
私は震えざるを得なかった。
「・・・・・・なにが、起こったの・・・?」
私のといに答えてくれる者は、誰もいない。
私は嫌な予感がして、村に戻った。
「お父さん、お母さん!」
何度も叫びながら、未知なる恐怖を忘れようとするかの如く。
村に戻った私を迎えたのは・・・・見るも無残な光景だった。
人はその辺に散らばり、ぴくりとも動かない。家は、どれも果てていた。周りの風景も、森と同じく、いつも見る風景ではなかった。
「な・・・に、なんなの・・・?」
私は震えを押さえる事が出来なかった。
未知なるものに、村が消滅してしまった。
必死になってお父さん、お母さんを探したけれど、二人を見つけても、二人はもう私に暖かな笑顔を見せる事はなかった。
「お父さ・・・、お母・・・・」
信じられなくて、私は闇雲に走り出した。
(嘘・・・、嘘! 誰か嘘だといって!!)
涙も出ない哀しみを味わいながら、私は駆け続けた。
どれくらい走っただろう。子供だった私には随分走った気がする。
でも、それでも惨状がまだ見える。最後に見た村の風景が、私を苦しませる。そして走らせる。
気がついたら、私は森を抜けていた。
その間に、蒼い光を見た気がする。
でも、よく覚えていない・・・・・・
それから6年という月日、私は色々な場所をさ迷った。
エルフの子供は人間にとって珍しいものらしく、薄汚れた私をいつも苛めの的にしていた。
私は、村に伝わる踊りと歌で、なんとか生き延びた。
生きなければいけない、そんな気がしたから。
そして、オランという場所にたどり着いた。
人が多くいる場所。おどおどしながら歩く私に、突然熱い痛みが襲う。
私は恐ろしくなって、その場を離れる。
木造の建物が目に入る。私は躊躇いもなく、そこに入る。
そこには、ふたりの人間がいた。
スカイアーとファ(ファズのこと)。
このふたりといると、何故か落ちつく。
だから、ここにいることにした。
彼らの言葉が判りたくて、彼らと仲良くなりたくて、今、私は外の言語を学習している。
ここは、故郷の村とは別の、安住の地。
二人がここに居続ける限り、私もここに居続けると思う。
 |