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No. 00050
DATE: 1999/06/07 00:20:27
NAME: ウラシル
SUBJECT: 天香国色【新・麻薬事件】
*キャラクター一覧*
<冒険者たち>
ケルツ・・・ミラルゴ出身の吟遊詩人。アーシュアの息子
ユーシス・・・きままに亭のバイトの店員。マイリーの神官。
カイ・・・ハーフエルフの少女。麻薬錯乱した母親に殺されかける。
シンクレア・・・学院魔術師。
ファズ・・・学院魔術師、図書室勤め。
エルフィン・・・何でも屋。
レド・・・魔道師。
リヴァース・・・ハーフエルフ。中毒経験者。
<麻薬売人、製造者他>
ガート・・・ウラシルに恋慕する乱暴者
レイラ・・・人買い、船による及びロマール間の麻薬運搬人の、手下。
ジャルド・・・レイラの親分で船長。男色家。ファラリスの信者。
アーシュア・・・ミラルゴで用いられていた、儀式用の幻覚剤の製造者。
マーリン・・・女幻術師。麻薬の利を狙おうと画策中。
ネルガル・・・ロマールの貴族。
リゾ・・・ネルガル子飼いの者。オランの麻薬担当の、頭領格
ヴェッチ・キェル・ゲソルファス・・・リゾの手下
<その他>
ウラシル・・・「石榴の舘」娼婦
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*これまでの流れ*
- 新王国暦510年の暮れ頃、麻薬・ドーマーが流行った。その壊滅のために、冒険者たちが、それを扱っていた商人の所に襲撃を掛けた。商人は捕らえられ、麻薬は取り引きの行われていた屋敷ごと、焼き捨てられて、解決。
- ドーマー扱っていたオランの麻薬組織の残党である男が、ロマールの男達と接触しているところを、乞食の情報屋、犬頭巾がみた。
- ロマール側の組織の者達が酒場に現れた。首領格のリゾは新種の麻薬を所持していた。ラス、カイ、アレクなどと乱闘。ラストアレクは責任を取って留置所に。
- ドーマーのために親しい人間の村を壊滅させたエルフのフィート、麻薬のために錯乱した母親に殺されかけた経験を持つカイ、ドーマーの後遺症に苦しむリヴァースなど、麻薬に怨恨を持つ者達たちが、怒りを露にする。
- ロマールの内のキェルは、麻薬取引を行なっている商隊にいたことがあり、マーリンがそれに盗みにはいっていた。
- 盗賊ギルドのカートスは、リゾに接触しようとして、キェルにより新種の麻薬を塗った吹き矢を受ける。
- ロマール側の知恵袋、ヴェッチは、乞食の犬頭巾を買収して、情報統制を行なう。
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―――新王国暦6の月。
ウラシルは、オランの下町、23番街裏道、倉庫街に近い霞通りにある、「石榴の舘」の、そこそこの稼ぎ手の娼婦だった。ウェーブした赤茶色の髪と、うなじのラインが人気だった。
彼女がきままに亭に現れたとき、頬が上気し、目が潤んでその焦点が合っておらず、陶酔に浸っていた。ただの酔っ払いかと思われたが、酒を飲んでないという彼女の口振りとその恍惚とした表情から、麻薬をやっているのだ、と、それに関係のあった数人が気付いた。
彼女の痴態に、カイが震えた。彼女は、麻薬で錯乱した母親に殺されかけた、という経験を持っていた。倒れそうに真っ青になったカイを、仲間のラスやディック、カレンが気遣った。彼らは、麻薬の売人である、リゾ、キェル、ヴェッチたちと酒場で乱闘していた。おかげでラスは、衛視隊の寒く異臭のする留置所で、2,3日を過ごさねばならなかった。後ほどカイから一部始終を耳にしたラスは、ゆるさねぇ、と独り言ちた。
ウラシルのもたらした混乱を見たファズは、眠りの雲の魔法を用いて、彼女を眠らせた。周りにいた店員や客もそれに巻きこまれ、場はいっそう騒然とした。
強制的に眠らされたウラシルは、うわごとで、アーシュアという名前をつぶやいた。その名を聞いて、いきり立った者が二人いた。
アーシュアは、ケルツの父で、ミラルゴの幻覚剤を媒体とした麻薬の製造者だった。ケルツは彼を狙い、逆に罠に陥り返り討ちに遭って、麻薬を塗り込んだ刃で切りつけられた。錯乱したケルツは、幻覚に冒されて、リヴァースを絞殺しようとした。ケルツは思わぬ所から父の名を聞き、平然とはしていられなかった。
さらに、レイラが目を光らせた。彼女は、貿易家を自称していたが、男色家の船長であるジャルドの眼鏡に適う男を、探していた。
新薬を作り、オランをその実験場にしようとしているロマールの貴族・ネルガルの元で働くリゾと、レイラは既に接触が合った。彼女は、ミラルゴとオランで取れる原料から精製した麻薬を、ロマールへ船で運ぶ役割に関して、交渉中だった。
ネルガルは、巨益を擁する麻薬を、膝元のロマールで新たに展開させようという腹積もりだった。ロマールでは、既に他の業者たちにより幾多もの麻薬が蔓延っている。オランでは、以前に他の薬の勢力を押しのけて急にのしあがった麻薬・ドーマーがあった。しかし、冒険者たちの活躍によりそれは根絶やしにされ、麻薬に関していわば空白状態が訪れていた。
そこで、ネルガルは、新種の麻薬のルートを開拓するのに、まずはオランを実験場にしようとした。あわよくば、オランを第二の市場に、とも考えていたが、それにはギルドや官警との絡みから、慎重を要された。
ネルガルはリゾたちに、商品価値の高い麻薬を製造してオランにて実験し、その成果を持ち帰ることを命じていた。
アーシュアは妻である薬師の知識も利用して、幻覚剤である麻薬の精製をはじめた。ロマール側は、技術と経験のあるアーシュアに接触した。彼は、ミラルゴの幻覚剤の効能をとりこんで、あたらしく、毒性の低く依存性と快楽性の高い麻薬を生み出した。以前オランに浸透したドーマーは、毒性が強すぎ、肝心の使用者が、すぐに蝕んで使い物にならなくなった。安定した市場のためには、使用者へのダメージが低く繰り返し用いられるもののほうが、必要であった。また、アーシュアは、液状であったものを、運搬しやすい固体状に抽出することにも成功した。
また、アーシュアは、オランで息子が麻薬をかぎまわってるのをみて、息子にその良さをわからせてやり、自分の側に引き入れようとしていた。
娼婦がうわごとを呟いていたとき、いかにもごろつきといった風体で、ガートが入ってきた。
ガートは、娼婦のウラシルに恋慕していた。彼は、普段港で荷運びをしている、がたいが大きい、性欲がつよい乱暴者で、周囲の者たちを閉口させていた。髭や髪が濃く、その体格の良さと剛毛で「ミノタウロスの」というふたつながあった。行為を抑えるため、下の頭かぶせたケースの先端が、牛を象っているのが、その名の由来だった。
彼は、その日の賃金を費やして買ったウラシルに、閨の中での興奮を高めるために、現在裏道で流行っている薬を試した。アーシュアの囲いのウラシルを抱きたく思って、彼女が中毒者なのを利用して、麻薬で釣ったのだ。
もともとウラシルは、麻薬の製造者アーシュアに惚れ込み、その実験体を買って出ているのだった。ガートは、なんとかして、ウラシルに振り向いてもらおうとしていた。
彼が手洗いに出た隙に、興奮状態のウラシルは、アーシュアの姿を求めて、娼館から抜け出した。そして冷たく心地よい風に当たっているうちに、ふらふらとさまよい、みたこともない酒場に姿をあらわしたのだった。
そして、ガートは彼女を無理に引き立て連れていこううとして、居合わせた冒険者たちと争いになった。シンクレアが、官警だと偽らせた友人を呼ぶと、ガートは酩酊しているウラシルを担ぎ上げて、窓から逃げていった。
ユーシスとケルツ、そしてレイラが、それを追った。
リゾの配下のひとりである、ゲソルファスも、自分たちを探る冒険者への偵察として姿を見せていたが、混乱に乗じて、姿を消した。
グレーの縞模様の、目の丸い猫が、それを覗いていた。その目をとおして、にひひ、とほくそえむ、女幻術師、マーリンの影が、そこから少し離れた木の枝の上にあった。彼女は利潤の大きい麻薬に目を留めて、あわよくば売人となって利を受けようとしていた。彼女は、直接、ウラシルを狙い、それを経由して胴元に接近しようかとも考えた。しかし、ここでは、ごろつき、冒険者、の両方を敵に回しかねない、と思い、その場は引くことにした。使い魔のアナカリスを呼び寄せると、後の方策を練るため、頭を巡らした。
所変わって。
リヴァースは、レドから預かっていた使い魔のキースを返すために、彼の家を訪れていた。その際、麻薬に関しての知識を、彼に尋ねた。
何故リヴァースがそんなものにかかわるのか、レドは眉を顰めた。リヴァースは、いまいましそうな顔をしながら、自分が以前不意に麻薬を受けたことから、今も後遺症を抱えている、と説明した。
「禁断症状がきたら、魔法の鍵のついた手錠で縛ってくれってか?」
レドは、その重い内容にかえして、にやにやと茶化していった。
「ど阿呆。」
その裏にあるものに反応したリヴァースが、ぎろりと彼を睨んだ。
その帰り、ダーリエン産の逸品のワインを飲みに行こう、と酒場に向かう途中、女を抱えた、体格の良い男が走ってくるのに出くわした。
ユーシスと、ケルツが、血相を変えて、それを追ってきていた。ユーシスは、店員であったが、神官という立場上、悪しき薬に冒された者を放っては置けなかった。
リヴァースは、ケルツの形相から、麻薬の関連であることを一目で見て取り、男の進路を遮った。
「麗しの我が家」亭で情報収集をしていた後、「何でも屋」のエルフィンもその場に居合わせた。
エルフィンは、リヴァースから麻薬に関する話を聞いていたが、オランの盗賊ギルドは麻薬組織に対し動いていない様子であるのをみて、それがなぜであるのか訝しんでいた。その理由を知るために個人的な調査を始めていた。彼は、直接正面切って、ガートたちに何かをするというわけではなく、ただ、事態の成り行きを、影からみていた。
盗賊ギルドが、オランの裏道を騒がせようとしている麻薬に関して静観しているのならば、なにか理由があるはずだ。それをかぎまわると、消される可能性もある。
会話のやり取りをみて、自分に有利に働くことはなにかと、今後の自分の動き方をを検証するのだった。
エルフィンをはじめとした盗賊達はまだ知らない所であったが、情報収集担当の幹部をはじめとした一味が、ロマール側に買収されていた。乞食達の情報も、彼ら及び、ネルガルの知恵袋が、ヴェッチが取り押さえていた。そして、新種の麻薬に関する情報を制御し、新薬の蔓延は、単なるよくある麻薬による社会問題のひとつとして、現在は放置しておかれているのだった。
結局、ガートは、追って来た冒険者たちに捕らえられた。
ケルツは、彼らの麻薬の出所がどこであるのか詰め寄ったが、ガートは身元不明の者から手に入れたといい、それ以上のことは何も知らなさそうであった。ウラシルは、前後不覚の状態で、まともに話ができる状態ではなく、ともすると話掛けようとしたものに、しなだれかかるのだった。
ガートは官警に突き出された。仮眠中をたたき起こされたトムという衛視は、ぶつぶついいながら、彼を留置場に入れた。麻薬に関して、取り締まりを厳しくする様、口約束をした。また厄介な事件が起きているのか、と、怪我から回復したばかりのコステロは、太った体をゆすって面倒くさそうに言った。
「麻薬・・・か。解毒剤を作れば、それなりに売れるかもな。」
レドはニヤリとして、リヴァースにいったが、その目的はその言質とは別の所だった。
ウラシルは、ユーシスに連れられマイリー神殿に保護されるも、薬を求めて手におえない状態だった。
レドは、抗麻薬剤を研究するための実験体として、彼女に自分の家に通うように言った。
麻薬の切れた彼女は、当初神殿の目もあったので、いわれた通りにしていた。しかし、じきに麻薬の快楽が忘れられなくなり、回復した彼女に情報を求めに来たケルツとリヴァースが動こうとしたとたんに、彼女はアーシュアの姿を求めて、ふらりと裏道に、姿を消した。
裏道に、悦楽と陶酔の悪魔が、再び徘徊をはじめた夜のことだった。
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