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No. 00003
DATE: 1999/06/07 22:53:07
NAME: エンヴィリア・マスカレード
SUBJECT: BLOOD HUNT
カイが留置所に入れられた事を知った。
別にどうということない。ただカイを付け回させていた『駒』からの報告だ。私からしてみれば千載一遇のチャンスである。
街中でさらえば衛視共のくだらない見回りを気にする必要もなく、ただ見張りさえ気にすれば良いのだ・・・見張り等私にとっては木偶でしかない。
・・・・・
予想通り、事はすんなりと進んだ。見張りに気付かれぬようにカイのいる牢に入り込む等、造作のないことだ。
眠っているカイをそっと起こす・・・。
「・・・!」
私は驚いてるカイの口を手で押さえると、静かに言った
「お静かに。私と来ていただきましょう・・・ここで騒げば、貴方の大切な方・・・ラスと言いましたか・・・や、お友だちの方まで死にますよ」
「・・・」
押し黙ったカイを連れ、私は牢を出た。
「貴方を『抱擁』するだけなら、牢獄で済ませて良かったのです。しかし、他にも気になることがありましてね。」
「・・・」
「人の情愛というものに非常に興味がありましてね。貴方に・・・」
そう言いかけて、後ろから気配・・・殺気・・・を感じた。
振り向くと、そこには一人の若者が立っていた。
皮鎧をつけ、ショートソードを持っている所をみると盗賊か・・・。
「あ・・・!」
カイが小さく叫ぶ
「カイ、お前は村に帰ってこないといけないんだよ!」
青年は言った・・・ミルディンと同じく、村からの追っ手か・・・もっともこっちは村の者らしいが・・・。
「・・・申し訳ございませんが、カイ様をそちらにやる気はございません。お引き取りいただけませんか?」
「誰だ、貴様は?」
青年は私を睨み付ける
「名乗る必要はございません。お引き取り下さい。」
「その気はない。カイをこっちに渡すんだ!」
・・・
「・・・鬱陶しい・・・偉大なるファラリスの名において、我が念よ刃となりてこの者をきりさかん・・・ウーンズ!」
不可視の刃が青年を切り刻む。
青年は叫び声を上げる間もなく倒れ込んだ
「ヒース!」
「おや、カイさん、貴方の近しい方だったんですか?」
幼く、脆い心に傷を付ける。その行為で得られる悦楽は、吸血行為とまた違った快感だ。
「・・・」
カイは泣き崩れた。
「さて、参りましょう」
夜影館につくとすぐに、レンフィールドにカイの部屋と寝巻き、そして夜食を用意させた。
「さて、これからが楽しみなんですよ・・・。」
カイは私を睨み付けるような目で見ている。
「先ほど言いかけましたが、私は人の持つ『情愛』という感情に強く興味を持っています。是非その強さを知りたい。なのでちょっとした策略を練ってみました。」
「・・・。」
「先ほど、私の『駒』を使いにだしました。宛先はラスさんです。彼に貴方がここに捕らわれの身であることを教えるものです。これを知ったラスさんはどうすると思います?無駄だと分かっていても、貴方を救おうとここにいらっしゃるでしょうか?」
「!・・・何故そんなことを!」
「他にもディックさんやシタールさん・・・後、カレンさんなんかにも伝えると面白そうですね・・・他にも・・・」
「どうして、どうしてそこまで人を苦しめる事が出来るんです!?」
「苦しめる?私はただ興味があるだけですよ・・・どれだけの方々が、情で貴方を助けに来るか・・・」
「・・・」
「泣いていてもどうしようもありませんよ・・・さて、明晩が楽しみですね。貴方も寝ておくとよい。明日の為に・・・」
私はそういうと、カイの部屋を出た。今晩の食事がまだなのだ・・・。
獲物を求めて彷徨っていると、後ろから聞き覚えのある声で呼ばれた。
「エンヴィリア」
「ミルディン・・・でしたっけ?良い晩ですね」
「あんた、カイをさらったろ?どうする気なんだ?」
ミルディンは冷静に、殆ど感情を込めず言った。
彼と話していて思うのだが、彼は人間だが、思考構造は我々に近い。常に冷静で情に流される事もない。ただ仕事を執行するその姿勢は、非人間的だ。
「肉食動物が獲物を狩るのに、一々理由が必要ですか?」
「まあ、そうだが。そういう意味でカイに執着していたのか?」
「そういうことです。あんなに美味しそうな娘、見逃すわけにもいきますまい?」
「・・・」
ミルディンは黙った。
「私の事をどう思おうが勝手ですが、邪魔をするなら・・・」
「そんな気はねえよ。ただ気になっただけだ」
「なら良いですよ。では、良い夜を」
私はミルディンと別れると『食事』をし、館に戻った。
カイの手前ああは言ったが、実際はラス一人にしか手紙を送っていない。多数に手紙を送れば、冒険者は仲間を連れ徒党を組んで襲ってこよう。さすがに数十人も集まれば、下等生物も鬱陶しくなる。
・・・ラス様、ですね?
私、レンフィールドは目の前の若者に言った。
「!?何者だ!?」
ここは牢獄。人間共を閉じ込める牢獄等、我々夜の眷属にとっては何の意味も持たない。
「お静かに。我は主より貴方に言づてに来たものです。明日、釈放後、日没頃に妖魔通りにいらしてください。たしかに伝えました。」
「突然なんなんだ!」
若者は怒鳴った
「お静かに。それでは明晩」
私は牢を去った
・・・お待ちしておりました。ラス様
明晩の日没後の妖魔通り、若者は時刻通りに来ていた。
「我が主、エンヴィリア・マスカレードの下にカイ様が捕らわれております。」
「んだと!」
若者は私の襟首をつかまえようとしてきた。
「冷静に。カイ様を殺されたくはないでしょう?」
若者の腕を躱し、私は若者を嗜めた。
「まだ何もしてはおりません。ただ、とらえただけです。」
「貴様ぁ!」
ずいぶんと血気盛んな若者である。私は若者の拳を躱した。
「カイ様が何処に捕らわれているか、知りたくないのですか?」
「・・・」
「無論貴方様が知りたくないのならば教えなくてもかまいませんが」
・
・・
・・・
「・・・教えてくれ・・・」
結局最後はそういう。人と言うものは、万物の霊長を名乗る割には短絡的で、感情的な生き物だ。
「分かりました。では、ご案内しましょう。我が主の館へ」
・・・
窓の外に、カンテラを持った初老の男と、皮鎧に身を包んだ若者が見えた・・・来たか。
私に勝てると思っているのだろうか?
何か秘策があるのだろうか?
またはそのどちらでもないのであろうか・・・。
私はカイの部屋に行き、彼女にも声をかけた
「ラスさんがいらっしゃいましたよ。」
「・・・ラスさん・・・」
・・・
私は主に言われた通り、若者をカイ様のお部屋に案内した
そこにはいつも通り、紳士服に身を包んだ主と、一人の少女がいた。
・・・
ラスが来た・・・何故彼は来たのだろう?
私に勝てるとでも思っているのだろうか・・・?
「カイ!」
「ファラリスよ・・・我が祈り我が願い鎖となりて四肢を封ず・・・。」
「・・・!」
私は、カイに魔法をかけ、足の自由を奪った
「カイ!・・・貴様!」
「カイさんに逃げられたら困るのですよ。この『実験』・・・いや、『ゲーム』のキーパーソンなのですから」
「エンヴィリア!貴様!」
ラスはレイピアを抜くと私に挑みかかってきた。
「さて、ラス君、質問に答えていただきましょう。何故貴方はここに来たのです?」
彼の攻撃を受け流し、問う。
「私に勝てると?」
「うるせぇ!」
ラスは私の言う事など聞かず、レイピアを振り回す。
「それとも、何か得策でも?」
そう言いながらラスに一撃、蹴りを浴びせる。
「げっ!」
「・・・今の蹴り一撃で貴方の肋骨、数本は砕けたのではないですか?そんな下等生物が一匹で私に勝てるとでも?」
言いながら首を掴み、持ち上げる。
「何故なんです?早く答えないと窒息しますよ?」
「・・・・・・・・・」
「やはり人間ではその程度ですか。一時の正義だの信念だのに駆られてやって来た。それだけですか。」
・・・突然腕に鋭い痛みを感じた。みるとラスのレイピアが私の左腕に突き刺さっている。
「カイを守るんだよ!」
「守る?駆け出しの精霊使い風情が?その傷だらけの身体で?それとも助けに来た、が、自分は力足らずで救えなかった。そうやって自分を納得させたいのですか?なら充分もう充分です。意地をはらずに倒れてしまえばよろしいでしょうに!」
「カイを、見殺しにして生きるくらいなら、死んじまったほうがましだ!」
死んだ方がまし。一時の恋心に流された若人の叫びと受け流してしまえばそれまでだが、彼のそれはどうしてもそうは思えない。
・・・ひとつ戯れを思いついた。
「その言葉、嘘偽りはないのですね?」
ラスに問うてみた。
彼は不思議そうな表情で私を見つめる
「カイ殿を命を賭して守り切る・・・その言葉に嘘偽りはないかと問うているのです」
「・・・?」
私は彼の首もとより手を放した。
「ひとつ賭けをしましょう。
私は一旦引きます。しかし数年後、十数年後、カイさんをいただきにまたこの街に帰ってきます・・・その時、貴方が守り切れるかどうか・・・そういうゲームです・・・ああ、もうしゃべるのも辛いでしょう。しゃべる必要はありませんよ。どの道貴方には反対することは出来ないのですから。」
我ながらクダラナイゲームだ。しかし、永劫の時を生きるには何らかを待っているのが一番楽しい。
と、窓の外に明かりが見える。あれはファリスの神官戦士・・・大方きままに亭の冒険者が連絡したのであろう。
「さて、お話する時間ももう無くなって参りました。私はオランを去ります。しかし、お忘れ無く。このクドラク家末裔、エンヴィリア・マスレカレードは必ず、カイさんをいただきに帰って参ります。それでは、その時まで失礼させていただきましょう・・・ファラリス神の加護が汝等と共にありますように」
私はそういうと変化し、窓から飛び出した。
もう当分ここに帰ってくることもあるまい。
そして帰って来た時、数百年前よりの古巣たるこの館もあるまい。
しかし、私の帰りをいつかと恐れるこの若い男女、私の正体を知りつつも慕ってくれたシンクレア、ユクナック。彼らがいるのならば、私は再度この街に足を踏み入れよう。
「狩り」の続きを楽しむために。
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