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No. 00011
DATE: 1999/06/14 07:51:09
NAME: カートス
SUBJECT: 組織(新・麻薬事件関連)
時は新王国歴511年6の月。オランに上る月がその姿を隠した夜に、二つの死体がオランを流れるハザード川に浮かんだ。
通報を受けて駆けつけた衛視によって死体は引き上げられたが、その遺体は他者が判別できないように顔が潰されており、身元を証明するような物は何一つ身に付けていない。遺体の状態を見て憤慨する衛視もいたが、裏の事情に詳しい人間は、その残虐な手口から盗賊ギルドの仕業(制裁)だろうと容易に推測でき、この街では希にある事だと気にも止めなかった。
卑屈な薄ら笑いを常に浮かべるその男は、盗賊ギルドの仲間内では「くすぶり」の二つ名で呼ばれていた。
特に秀でた技術を持たない彼は、卑屈な笑みを浮かべる事で今までの人生を生きてきた。いや、過ごして来たと言うべきか。
彼と同じ時期にギルドの修行をした連中は、それなりの役職に就き働いている。しかし、盗賊としての技術が拙い彼には新米が行う仕事しか廻ってこない。自分を冷遇する盗賊ギルドに対して不満はあったが、周囲の評価は正当な物であった。
いつか俺にもチャンスが廻ってくる、おれに足りない物はツキだけさ。と考える彼は、常日頃から思っていた。
「俺には実力がある。その気になれば、何だってやりこなせる」と。その根拠のない自信が、彼の死期を早めることになった。
何気なく立ち寄った冒険者の店で彼はその話を耳にした。金色の髪をしたハーフエルフが周囲の人間に喋っていたのをいつもの癖で聞き耳を立てていたのだ。そのハーフ・エルフは「ラス」と呼ばれ、彼にとって意味がよく判らない事を周囲の仲間達と話していた。
バンパイアがどうのと言う話は、彼には理解できなかったが「麻薬」という言葉には胸が躍り上がり、つい笑みがこぼれてしまう。
耳にした話が真実であれば、俺にも儲けるチャンスが廻ってくるかも。と考えた彼は、情報を仕入れる為に薄ら笑いを浮かべながらその場を去ることにした。
裏通りに面した評判の良くない酒場の地下で、最近出回っている麻薬について訪ねると、ドーソンは口に人差し指を当てながら黙っ
て手の指を動かし始めた。『ここでは不味い。安全な場所で話す』という意味を示す盗賊の指文字を見た彼は、相手の意外な反応に驚きながらも、自分の寝泊まりする安宿に場所を変える事にした。
彼がドーソンから聞き出した話は、盗賊ギルドの内部に妙な空気があるという事であった。特に麻薬関連の情報に関してはそれがよく現れると。それが何故だかは判らないが、何かあるに違いないと押し殺した声で語り始めた。
常に他人の顔色を伺って生きてきたドーソンにとって、周囲の微妙な空気を感じとる能力だけは他者よりも優れていた。だからこそ、通常であれば気づかない些細なことを感じ取れたのだろう。しかし、空気が違うこと感じただけで、その理由まではドーソンには判らなかった。
二人が話し合って出た結論は、裏に大金が動いているに違いない。上手く利用すれば一生遊んで暮らせるだけの金が手に入るかも。ということであった。安易にしか物事を考えられない二人は、事の成功を祈って祝杯をあげる事にした。
数日後、彼が再び冒険者の店に訪れた時、その騒ぎは起きた。いかにもごろつき(以降リゾと表記)に見える顔の男が、ラスという名のハーフ・エルフに絡んでいたのだ。
リゾが喋る言葉は彼にとっては聞き慣れた単語(スラング)だったが、ラスにとっては我慢ならなかったのだろう。
ラスは果敢にもリゾに対し挑みかかり殴り合いが始まった。その後、周囲の何人かを巻き込んだ店内の騒ぎは、衛視が来るまで繰り広げられた。
騒ぎの最中、巻き込まれないように店の端に移動し聞き耳を立てていると、目前でおきた喧嘩を見て眉をひそめている冒険者達は、
リゾのことをさして麻薬密売組織の人間と言っていた。確かにリゾの腰に下がっている持ち物(キセル)は麻薬を吸うための道具に見えるし、又周囲を不愉快にさせる粗野な態度はその筋の人間であることに間違いない。…そう確信した彼は、衛視が来る前に逃走したリゾを尾行することにした。
暗い路地裏で彼はリゾに接触した。相手との体格差を見ても判るように、万が一正面きって戦う事になれば自分に都合が悪いのを考え、姿が相手に判らない位置から話しかけようとする。
やっとの事で追っ手を撒いて一息ついた時、突然暗闇から掛けられた声に警戒するリゾ。
しばらく簡単な会話でやりとりをした後、相手の警戒を解かせる為に十分な距離をとってリゾの前に姿を表した。
正体不明の声が一人なのを見て安心したのか、リゾは自分の事について喋り始めた。組織の大きさ、金の力は凄い事などを。
会話の流れから、相手の警戒も解け始めたように思えたので本題に入ろうとした時、突然背後から声を掛けてくる者がいた。
接近する気配に気づかず、突然かけられた声に驚き体が一瞬硬直する。リゾを兄貴と呼ぶ男(以降キェルと表記)から距離を離そうと移動するが、キェルは彼を小馬鹿にした態度で塀の上に飛び乗った。
二対一。…相手が一人であればこなす自信はあるがこのままでは不味い。そう思った彼は、この場を逃走する事に腹を決めた。
彼が捨て台詞を残し、逃走しようと背後を向いて走り出した時、塀の上からキェルの吹き矢が首筋に向けて飛ぶ。
平時であれば避けられるはずの吹き矢は、全力で逃走するのに注意が向いていた事により狙い通りに命中し、キェルの乾いた笑いが夜の闇に響く。その吹き矢の先には実験段階の麻薬が塗ってあり、その効果は徐々に彼の体を蝕み始めていった。
ドーソンはカートスと別れてから数日間、街のスラムで麻薬に関してさりげなく情報を収集していたが、裏にある事情が判っていない彼は聞き込みをする時も、顔をいじる事すら行わずに動いていた。
数日、足を棒にして情報を収集していたが、価値があると思われる話を耳にする事は出来ず、徒労に終わったように見えた。
彼が聞いた情報も様々な物があったが、「麻薬づけの娼婦に通い込む男が複数いる」なんて話が、はたして何の役にたつと言うのか。
今日の聞き込みを終えた彼は、カートスに落ち合うため約束の場所に向かうことにした。
だが、彼は気がついていなかった。自分達が麻薬について嗅ぎ回っている事も又、情報として流れている事に。又、彼等が麻薬について嗅ぎ廻ることに鬱陶しさを感じる人間が存在することを…。
ドーソンから10数m離れた後方に一つの影が見え隠れしていたが、彼の技量では背後を尾行する者の存在に気づくことは出来なかった。
オランの街中、常闇通りに接する場所にある盗賊ギルドの本部。そこから数10m離れた場所にその酒場は存在する。外見は、小綺麗な冒険者の店といった感じだが、店内には何故か奇妙な空気が流れていた。
店内を見渡すと冒険者風な客も存在するのだが、その数は少ない。店の立地条件や作りからすると、もう少し客が入ってもおかしくはないのだが、いつ訪れても店内が混雑している事は無かった。
街で生活する盗賊達には知られている事だが、この店はギルドの本部に行く必要が無い場合や、よそ者が来た場合に対応する場所であり、盗賊ギルドの表の店として経営されていた。たまに事情を知らない旅人が訪れたりもするが、皆店の雰囲気についていけず、注文もそこそこに帰る事が多かった。
その酒場の地下に彼はいた。盗賊ギルドの幹部にして、この店の責任を預かる者。街で流れる情報は、まず彼の耳に入り本部へと報告される。彼はどんな些細な情報にも通じており、ギルドの関係者からは”流れる耳”リーデンと呼ばれ恐れられていた。
その報告を受けた時、彼は興味深そうに聞き返した。部下の説明では、最近取引するようになった相手の身辺を探る者がいるという。
…ロマールと裏で協定を結んだ以上、こちらで対処するべきか。次期ギルドマスターの地位を狙うのに金は幾らあっても足りることはない。何人かいる幹部の中で奴が有力候補なのは間違いないが、根回しを掛ければ私にもチャンスがある。
新種の麻薬が広まっているという情報を握り潰すだけで、黙っていても金が懐に入る…。手付けで用意された金額を考えると、ゴミの一人や二人処分するのに、ためらいが必要とは思えない。
…幸いにして奴等はギルドの構成員。処分するのに理由は何とでもつく…ギルドの制裁に見せかければ衛視達は動かない。心配なのは冒険者と呼ばれる者達だけか。いざとなれば…。
彼の頭に様々な考えが浮かぶが、その中の一つ、現時点では最善と思われる方法を選び、その場で部下に命令を下した。
キェルの吹き矢を受けたカートスは、オランの街を彷徨っていた。リゾ達からは逃走する事が出来たが、体が思うように動かない。まるで、タチの悪い風邪を引いたように体が火照り、間接がキリキリと痛む。
今日は宿に帰ろう、そう思いながら足を動かすと、前方から声を掛けてくる者があった。…意識が朦朧とする中、相手の声を頼りに警戒するが、どうやらドーソンらしい。彼は力無く笑い、挨拶を返そうと片手を上げようとした時、鈍い音と共に、こめかみに強い衝撃が走る。一瞬にして視界が闇に染まりカートスは地面に倒れ込んだ。…それから先、彼が再び意識を取り戻すことは永久に無かった。
リーデンの命令でその影は動いていた。あからさまに動くゴミを始末しろ、との命令は今に始まったことでは無い。今回も相手の特徴を聞いた後、早速行動に移した。
相手はすぐに見つかった。これと思った人間に対し、素顔で情報収集をしているとは。仮にも盗賊なのか?と思うような稚拙な聞き込みに彼は半ばあきれ、俺だったら…と考え初めてあわてて首を振った。目標を補足し、後は人気の無い場所で始末を付けるだけなのに何を考えているのか。自分でも苦笑しながら、ドーソンの後を尾行し始めた。
尾行を初めてから数10分後、通りから人気が消えた。今を除いて機会は無い…しかも、川に近いこの場所なら死体の始末も楽に出来る。まずは…そこまで考えたとき、目標が男に接触した。道端で話す会話に聞き耳を立てていると、どうやら仲間らしい。よくよく目を凝らして見ると、話相手はもう一人の目標であった。二人一緒では都合が悪いが、片方は立つのもツライように見える。
背後から襲えば問題は無い…。男は暗い笑みを浮かべ、石畳の上を忍び足で歩きゆっくりと接近していった。
暗殺シーン略(笑)
それから1時間後。事の始末を終えた男は、リーデンに報告するため稲穂の実り亭に足を向けた。
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