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No. 00016
DATE: 1999/06/20 01:06:23
NAME: レイラ
SUBJECT: 過去そして現在へ・・・
夢・・・再び炎が闇夜を彩る。水夫達の叫び声、剣と剣がぶつかる金属音、あたりに飛び交う火の粉と船材の燃える匂い・・・妙にリアルだった。下層甲板の側舷を回り込み、あのアレクとか言うバカ女にカットラスの一撃を喰らわせたあたりかららしい・・・
冒険者どもの後ろにいた銀髪の女が突然アタイの目の前に出てきて身構える。アタイは躊躇せずにカットラスを振り下ろそうとした。しかし、目があった瞬間、時が凍った。
まさかそんな・・・オマエは・・・
ふと過去の場面が幾つか蘇り、止まった時が過去へと戻っていくのを感じた。
もう遙か昔のことだ。もう悪夢でしかなかったはず・・・今までに何度か見たことがある場面だ。殺したはずの夫とぼやけて見える少女・・・海の見える丘の上で少女は駆け回り、燦々と降り注ぐ太陽を避けるように大きな木の下に座り、あの唄を歌う・・・爽やかな風が海から吹き上げ、潮の香りがあたりに広がる。アタイは座ったまま風を受け、いつしか眠ってしまった・・・
ふと気が付くと、アタイをのぞき込む少女と夫がいた。寝ぼけ眼に逆光を受けているせいか、顔がぼやけていた。
「大丈夫かなぁ?」
「ああ、ケイ。大丈夫だ。君のお姉さんはちょっと疲れてるんだろう。もう少し寝かせてあげな」
「はぁい義兄さん。それじゃ、私と遊んでよぉ」
「わかったわかった。でも、ちょっと待ってな」
夫は自分の着ていた上着を眠ったフリをしてたアタイに覆い被せ、少女の手を取る。まだ顔はぼやけて見えるので、表情が全くわからない。
「それじゃ、下まで競争だ!」
「負けないんだからっ」
「そ〜れ、早く来ないと置いていくぞ?」
「まって〜っ!義兄さんずる〜いっ」
いつしかあたりはシンと静まり返り、波の砕ける音とその匂いを運ぶ風のみがアタイを包む・・・アタイは立ち上がって木の脇に立ち、走っていった二人を探していた。出し抜けにひゅうと風が吹き抜け、長かったあの頃の髪と青いスカートが風に揺れる・・・
「姉さ〜ん!こっちだよ〜!」
微かに少女の声が聞こえ、アタイはそっちへ振り向いた。すると急にあたりは真っ暗になり、数人の男に囲まれていた。焚き火の匂い、木のはぜる音、下卑た笑い声とにやけた髭面たち・・・再び繰り返されるだろうあのシーンを見る直前にふと元のシーンへと戻った。
くっ・・・こんな所でケイに逢うなんてっ・・・
いつしか座り込んでいたアタイは飛び上がり、ケイを思いっきり蹴飛ばして船長室へと去ろうとする。ケイが甲板に倒れ込んですぐに炎上したフォアマストが倒壊した。もうこの船は持たない・・・急がないと・・・いつもと変わらないジャルド親方の姿が、一瞬、殺したはずの夫の姿とダブった。気を失って倒れているハズのケイと遊んでいる、あのころの夫の姿に・・・
「・い、・・から・・・せとけっ」
「・・・長・・・副長、大丈夫でありますか?」
突然水夫に肩を揺すられ、はっと我に返る。どうやらボートに乗ったまま眠ってしまったらしい。体を起こそうとすると、黒いローブが掛けてあることに気づいた。
「大丈夫だ・・・」
アタイはそう呟くと、親方に軽く手を振って再び眠りについた。
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