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No. 00020
DATE: 1999/06/23 22:33:14
NAME: レドウィック
SUBJECT: 呪い・・・。
「リーフ。・・・お前、何をやった。」
薄暗い部屋の中で2人の男が話し合っていた。
「ファズ、とか言う坊やのことかい?。」
1人は青みがかった黒髪を短く切りそろえた男。
・・・名をリーフと言う。
「ファズ・・・?,そうじゃない,その血の臭いだ。」
問いかける男の名はレドウィック。
闇色の瞳と長い黒髪である。
「ああ、ちょっと魔術師の坊やと喧嘩しちゃってねぇ。」
邪悪な微笑みを浮かべるリーフ。
「ちょっと?、死臭がする・・・,殺したのか?。」
「いいや、彼の望みを叶えるために生贄をね。」
「・・・どこで殺した,案内しろ。」
立ち上がるレドウィック。
すると不思議そうな顔をしてリーフも立ちながら問いかける。
「一体,何をする気だい,レッディ?。」
「馬鹿な古い知り合いの尻拭いだよ・・・。」
「それは皮肉かい?。・・・まあ、いいや,
やってくれるならお願いしましょう,君の好きにしなよ。」
2人は双鷹通りにあるリーフの取っている宿をでた。
歩き始めた私は道に生えている花を一輪,
そっと抜き取って懐に入れる。
黙々と町外れに向かうあとを追いながら,声を掛ける。
「リーフ,事情を説明しろ。
お前が人助けなんて言っても信じられんからな。」
「う〜ん、どうしようかなぁ。」
そう言いながら歩きつつ,リーフは経緯を話し始めた。
気ままに亭でファズという魔術師の少年に出会ったこと。
彼は希にみる,ファラリスの信徒になる可能性のある者で、
自分は彼を導きたくなったこと。
彼は片目を失っていたこと。
彼は目を取り戻すかわりに,
最初に見た10人を殺さねばならない『使命』を
受けたこと。
その相手を選ぶために目を隠してもいいことを伝えた事。
そしてそれは彼に自分で殺す人間を選ぶ自由を与え,
自らの欲望のために他人を殺す事を自覚させる為であること。
「ま、無差別殺人では達成できないかもしれないしね。
彼も使命を果たすために,殺しやすい目標を,
選ぶ必要があるわけだ,くくく。」
そう言いながらオランの地下道にたどり着く。
まさか地下に暗黒神殿があるという噂は本当なのか?。
心の内で呟きつつ,小さく呪文を唱え,
懐から取り出した銀貨に魔法の明かりをともす。
「さ、ここだ。」
急に立ち止まるリーフ。
そこには簡素な作りの祭壇があった,
血で描かれた複雑な紋様のなかに1人の少女がいた。
9歳くらいだろう,全裸で胸部を切り裂かれていた。
溜息をつきながら少女の苦悶の表情を眺める・・・。
「何処でさらってきた・・・。」
「ああ、マーファ神殿の近くで遊んでたんだ。
可愛い娘でね,笑顔がチャーミングだったよ。」
手で目をそっと閉じてやる。
「なんだ?、レッディ,お優しくなったねぇ,くく、。」
「・・・ち、うるさい。黙ってろ。」
私は懐から先ほどの花を取り出すと古代語の詠唱を始めた。
「神々により創造されしものよ,汝、再びその形を解き。
その姿を変えよ,我は命ずる者。汝が新しき姿は・・・」
いつもより念入りに魔力を高める。
自然と詠唱は長くなり,額に汗がにじむ。
光り輝くなかで,花は次第にその形を変える。
・・・そう,横たわる少女の姿へと。
「へぇ、凄いもんだ。腕をあげたねぇ,レッディ。
今度からお願いしようかな。」
額の汗が顎から流れ落ちる。
「馬鹿をいうな,もうこんな事はこれっきりにしてくれ。」
少女の肉体は完璧だった。
しかし、そのこころは花のものであり,
その知性は,無きに等しかった。
「この娘を地上においてくればおわりだな,ふう。」
まあ、ばれない保証はないが,余程の事がない限りは
大丈夫だろう。
両親は心の壊れてしまった娘を,
抱え込むことにはなるのだが・・・。
帰り道,姿を見られるのを嫌う私は,
地下道の出口付近からは娘を一人で歩かせた。
身体を動かしたことのない心は,
ぎこちない動きを見せながら,なんども転んで歩いていた。
あとは運良く見つけてもらうことを祈りつつ。
リーフと2人で別の出口から出た。
・・・やっかいなことにならねば良いが。
そう思いつつ心の靄は晴れなかった。
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