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No. 00022
DATE: 1999/06/26 01:03:05
NAME: コロム
SUBJECT: 勘違いの結末
新王国暦511年6月6日早朝
(やっぱりカレンもシルビアみたいな綺麗な女の人が良いのかしら・・・)
シルビアに優しくするカレンを見たコロムは、その心の中に様々な感情をいだき苦しんでいた。
「スタイルは負けてないのに・・・」
鏡に映った自分の顔を眺め、ため息を吐いた。
(もうすぐ18になるのに・・・何でこんなに・・・)
「顔が幼いんだろ。」
小柄ではあるが十分に成熟した肉体とは対照的に、顔にはまだ幼さが残っており18の娘と言うよりも、15の幼き少女と言った方が通る程だ。
(わたしがいなければカレンはあの人と幸せになれるんじゃないかしら?)
もう一度ため息をつく。
コロムは明らかなる勘違いをしていた。シルビアは男である。
しかしコロムはシルビアの事を神秘的な『女性』と見ており、まさか男だとは思っていない。いや自分からは気付かないであろう。
男同士が恋愛をすることは稀であり、なおかつ恋愛をして幸せになる事はごく稀である。
心の中でカレンの事を色々と思い浮かべながら無言で旅仕度を整える。
仕度が出来ると、一階に降りて皆が心配しないように用意しておいた置き手紙を掲示板に張った。
「さよなら。きままに亭・・・」
そっと呟いてきままに亭を出ようとした瞬間、不意にカレンに対する思いが沸き上がって来た。
近くにいる店員にカレンが来ている事を聞き出し、カレンの居る二階の部屋の扉を開けた。
「おはよう、カレン・・・」
部屋の中にはカレンとディック、そしてアレクがいた。
沸き上がる思いを押さえ、カレンを見つめる。
ディックがカレンに何かささやきかけていたが、そんな事どうでも良い事だった。今は少しでも長くカレンの姿を目に焼き付けておきたかった。
カレンが、私の方を見る。何も変わらぬいつものカレン。何も気付いていない・・・
ひと呼吸おいた。
「あのね。私、旅にでようと思うの」
呆然とするカレンと慌てふためくディック。
「……なんで?そんな突然……」
カレンもいきなりの事で少し混乱気味だった。ディックが何か叫んでたが、コロムはそれを聞いてはいなかった。
「それだけ言いたかったの。それじゃ、さよなら。」
コロムはあふれ出そうになる涙を必死に抑え、走り出した。
カレンに対する未練を振り払うかのごとく、走って走って走り抜いた。
しかし、心の奥底ではカレンが追いかけてきて『お前が一番好きだ』と抱きしめながら言ってくれる事を期待していた。
一方、コロムの突然の言葉に動揺し出遅れたカレン。
必死に追ったが、すでにコロムの気配はなくなっていた。
明るくなり始めたスラム街でコロムはひとり泣いていた。
いくら自分で決めた事とは言え、カレンが追いかけて来てくれなかった事がショックだった。
「あのぅ、どうしたんですか?」
1人の青年が心配して声を掛けてきた。
振り返って見ると、古ぼけた装備に身を包んでいるが、雰囲気から察するに新米冒険者のようだった。
「何でもないわ、ただ、独りがさみしかっただけ・・・」
涙を拭い立ち上がる。
「な、なら。お、俺達と一緒に来ないか?君みたいなかわいい子が加わってくれれば、俺達のむさ苦しいパーティーも一気に華やかになるんだけど。」
その青年は顔を真っ赤にしながらも説得する。
そして、コロムを仲間に迎え入れた。
新王国暦511年6月18日
その後、パダの街でコロム達はゴブリン退治の依頼を受け、道無き道を南に向かって歩いていた。
人間大の岩が沢山転がっている所に来ると、リーダーの戦士が皆に注意を促す。依頼者の情報が正しければ、ゴブリンが居るのはこの辺りだからだ。
盗賊の技にたけた者が先行し、辺りを警戒する。
今年、学園を卒業したばかりの魔術師が緊張した面持ちで、魔法の言語を繰り返し呟いている。
真新しい装備に身を包んだマイリー神官は、メイスを胸の前で構え「僕に勇気をください」と神様にお祈りしている。
大刀を持った大柄の戦士はこれから起こる戦いに、喜びを感じているかのごとく卑しい笑みを浮かべていた。
コロムを冒険に誘ったリーダーの青年は、周りを警戒しながらコロムの前を歩いていた。
先行していた者が岩陰に隠れるように立ち止まり、こちらに注意を促す。
どうやらゴブリンを見つけたようだ。
そして彼らはあらかじめ決めていた戦法で闘いはじめた。
魔術師が眠りの魔法を唱えると、2人居る見張りのうちの片方が倒れる。
それと同時に5人が一斉にゴブリンに襲い掛かる。
猛然とした勢いで襲い掛かって来る冒険者に恐怖を感じながらも、寝ている仲間を起こすために幅2mの穴に入っていった。
「くたばりやがれ!」
大刀を持った戦士が魔法で眠ったゴブリンの息の根を止める。
彼らは巣穴の入り口で待ち伏せをし、出てきたゴブリンを確実に減らしていく。
その中でコロムは戦斧の威力を実感していた。
以前使っていたレイピアは見た目の華やかさと貫通力では秀でるものがあったが、当たり所によってはたいしたダメージを与える事が出来なかった。
しかし、今使っている戦斧は、当てる事さえ出来れば相手にとても有効なダメージを与えている。
10匹ほどゴブリンを倒すと、徐々にゴブリン達の戦意が失われていくのが実感できた。
が、同時に後ろで控えていた魔術師が断末魔の叫びを上げる。
ゴブリン達が穴の奥に逃げていくのを確かめ、後ろを振り返ると牛の頭をもつ二足歩行の化け物が右手に幅の広い刀を、左手に生首を持って立っていた。
そして、そのうしろには首のない魔術師の体が無残にも横たわっていた。
「くそぉ!ホブゴブリンが残ってやがったか!」
大刀を持った戦士は牛の頭を持つ化け物『ミノタウロス』をホブゴブリンと勘違いしてそう叫んだ。
コロムを含めた冒険者達もその言葉によってホブゴブリンだと思い込んだ。
いきなり現れた強敵に、冒険者達は恐怖を振り払うかのように叫びながら、打って出た。
しかし。実力の差は明らかに相手の方が上だった。
その一撃で、盗賊の技に長けていた者の胴が上下二つに別れる。
「まずい、にげ」
リーダーの男が、何かを言おうとした途中で首が飛んでいく。
大刀を持った戦士が、がむしゃらに攻め込むが返り討ちに合う。
そして。
先ほどまで誇っていたコロムの戦斧は、厚い皮膚にはばまれて傷を負わす事が出来ずにいた。
相手の振るう幅の広い刀を避けきれず、バランスを崩す。
その拍子に左足首をひねったらしく、立とうとした時に激痛が走った。
「あう!」
しばらく様子を見ていたミノタウロス。
だが相手が動けない事を理解すると、コロムが振り回している戦斧を、力任せに刀で弾き飛ばす。
おびえるコロムの右手を掴み、目の高さまで持ち上げる。
「い、いやぁぁぁ!!放して!」
泣きながら、じたばたと暴れるコロム。
(こんな事になるなら、カレンとキスくらいしておくんだった。)
偶然か。意図的にか。振り上げた右足が、ミノタウロスのあごに勢い良く当る。
「ブモォォォォォォォ!!」
怒りに任せて、コロムを地面に叩き付ける。
額が切れぐったりとしたコロムをもう一度、目の高さまで持ち上げる。
何かを確認したようにうなずきコロムを肩にかつぐと、脅えるゴブリンの待つ巣穴へと向った。
(カレン・・・・)
途切れゆく意識の中でコロムはそう呟いた。
新王国暦511年6月25日
ミニアスは2、3日前パダでゴブリン退治の依頼を受けた。
が、独りだったのと、周りには信用出来そうなのが居なかったため、急ぐ依頼ではないと確認した上でオランに向った。
報酬は大した事がないが、先に行った冒険者達の安否が気になって受けた。
オランに着くと、自分の用をすましてから、きままに亭へと向かう。
店員に話をして、信用の置けそうな者に声をかけてもらうようにしてもらった。
ミニアスは仲間を失った経験がある。
こんな所でそれがまだ心に傷として残っていると気づき、口元に微かな笑みを浮かべた。
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