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No. 00023
DATE: 1999/06/26 01:13:16
NAME: ビィ・F・イータ
SUBJECT: 紹介状
**このエピソードはNPCである『流れのバーテンダー』をPCに格上げするために作りました。元々、行き当たりばったりで登場したキャラなので、そこかしこに無理な設定があると思うのでごめんなさい。**
「げぇっ。マジで用意したのか!?・・・ああ、わかったよ。わかってるよ。書いてやるよ、紹介状。」
ここはドレックノールにある、とあるの宿。
青年の顔がほころび、思わず近くにいた宿のマスター(男・45歳妻子あり)に抱き着いて踊り出す。
大金を渡された男は、だまされている男の浅はかさを盗賊の神に感謝しながら、金の枚数を確認していた。
「で、今すぐ書いてくれるんだろ!」
このまま大金もってトンズラしたい気持ちもあるが、この世間知らずな男に世間の厳しさでも教えてやろう。
「ばか言うな。明後日・・・いや明日の昼頃、ここに来る。その時に渡してやるよ。」
再び小躍りしだした青年を、無視して金を数える。
紹介状を渡され、言われたとおりの店に行く。
「ええ〜。ここじゃあ働かせてくれないんですか!」
「まあな。だが、オレの弟がやっている支店で働かせてやるよ。」
そういうと、店の奥に引っ込む。
(これで、私の夢がかなう。)
感慨に浸る、短い髪の口髭の合う青年。
そして2枚の紙をテーブルの上に置き、こう言う。
「これが契約書なんだが・・・一枚はこちらが支店に送る物だ。もう一枚が控えでこっちはお前が持つ。」
一枚を書き終えた所で、青年が目の前にいるごつい男に声をかける。
「それで、私はどこの店に行けばいいんですか?」
ごつい男はニヤリと笑うと、こう言った。
「オランにある『きままに亭』という店だ。地図もあとからやる。さあ、もう一枚さっさと書け。」
そう言って、書き終えている契約書に目を通す。
「ビィ・F・イータ・・・変わった名だな。」
街道を小躍りしながら歩く。
そして辿り着いたは、きままに亭。
他と違って木造なので結構有名らしく、近くの人に聞いたらすぐに場所を教えてくれた。
ちなみに契約書には、こういった事も書かれている。
『忙しいので、マスターにあいさつしに来なくてよい事。来てそのまま店で働く事。君の事はみんな分かっているから、心配しなくてもよい事。』
多少の違和感は感じつつも、酒場で働けるという事の喜びの方が強く、そういう事なんだと思い込んだ。
そして。
実際に働いてみると、酒場の一員として溶け込んでいる私がいた。
至上の喜びを感じていたのだが、不思議な事に店のマスターには会えずに日がすぎていった。
なぜだろう。
店にいれば必ずマスターに会うはずなのに・・・・ハッ、避けられている?!
実際は、マスターが寝ていたり、用があって店の奥や、外に出かけたりしている時に来ていただけらしい。
ある日。
契約書を読み返して見た所、重大なる不備を発見した。
マスターの名前が違う。
消えていた違和感が心の中に広がり始める。
契約書を見つめながら考える。
「あと少しだから・・・・気付かなかった。いや、見なかった事にしよう。」
そして数日後。
マスターに一度も会う事なく、滞りなく働く期間は終了した。
契約書が偽物であると確信したビィは、誰も気付かなかったのを良い事に、逃げるようにきままに亭を後にした。
捨てられた契約書が、たくさんの訪問者に踏まれ消えゆくのに、たいした時間はいらない。
そこが、冒険者の宿。
きままに亭だからだ。
その後、パダの街はずれにある小さな宿で、臨時の雇い人として働くビィの姿があった。
夫婦で切り盛りしていたらしいが、奥さんが病気で倒れたため、その穴埋めとして雇われた。
暇になると、2人いる子供相手にバーテンダーとはこういう者だ、冒険者の店の者はこうであるべきだ・・・等など、なるたけ優しい口調で説明したりしていた。
そして、無事奥さんの病気がなおる。
「本当に助かった。このままうちで・・・と行きたいのだが、なにぶん雇うお金が出せない。すまないが、今日一杯で終わりだ。」
すまなそうな顔をして店の主人が頭を下げる。
「気にしないで下さい。私は流れのバーテンダー、流れて行くのがさだめです。」
虚空を見詰める私に、店の主人が
「そうかい・・・では、ワシが知り合いに紹介状を書いてやろう。流れ行く先がなければ、進めないだろうからな。」
「ありがとうございます。」
こうしてビィ・F・イータは新たなる紹介状を手に、雨上がりの街を後にしたのだった。
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