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No. 00024
DATE: 1999/06/26 06:16:09
NAME: ケイ
SUBJECT: 回想
あの女の人、どこかで逢ったコトあるような・・・どこか、遠いところで・・・それにあの髪飾り・・・義兄さんの作ってた物とそっくり・・・街の工房で私にだけ見せてくれた金の髪飾り・・・
私は居ても立ってもいられなくなった。どうしてもあの人と話がしたい・・・せめて、もう一度逢ってみたい・・・私はいつしかアレクとはぐれ、人気のない艦尾へと来てしまった。遠くで炎の音や、叫び声が聞こえる・・・一刻も早く見つけなくちゃ・・・そして、一番近くにあった船室へと入った。そこは偶然にもあの人の部屋だった。
ベットの上に散乱した青い頭巾と紫の大きな布、テーブルに乱雑に積まれている酒瓶。そして高そうな化粧品の入った革袋・・・
ふと、そとから慌ただしい足音が聞こえ、部屋の前で止まった。そして直ぐに駆けだしていってしまった。(あの人かな?)私はとっさにドアを開け、外へと飛び出した。そして足音の去った方へと駆け出し、ふっと角を曲がる。すると急に視界が閉ざされ、何かにぶつかった。
「きゃうっ」
突然、大柄な髭面の男が姿をあらわした。纏っている黒い衣装、感じられる威圧感。そして心の奥底からわき上がってくる恐怖・・・
「・・・なんだ、こんなところをガキがうろついてちゃいけねぇな」
男は腰からすっとカットラスを抜く。それは不気味な光沢を帯びて反った刃が赤い光と男の髭面を映しだした。私はゆっくりと後ずさりし、直ぐ後ろの壁に当たると恐怖で怯えきった体が重う通りに動かず、床に転んでしまった。男はゆっくりと近づき、まるで人を殺すことを楽しみにしているかのように、にやっと邪悪な笑みを浮かべる。そして大きく振りかぶられるカットラス・・・
「き・・・ひぃ・・・いやぁぁっ!」
大粒の涙を浮かべ、あらん限りの声で悲鳴を上げた。今まで感じたことのない恐怖、そして自分の無力さ・・・すべてが入り交じっていた。そしてぶんっと唸りを上げて振り下ろされる。とっさに目を閉じ、すべてが終わったかと思ったその瞬間、重い金属同士がぶつかる音が響き、男の低いうなり声が耳を衝く。
「ケイっ!大丈夫かっ?」
男はさっと後へ引き、再びカットラスを構える。
「ア、アレクさんっ!」
「さぁっ、早くこっちへっ!」
私を庇うようにアレクが前に立ち、男と対峙する。
「おれは女は嫌いなんでな」
剣を交えながら男はじりじりと後退していく。やがて刀をアレクに投げつけて手早く印を組み、暗黒心に捧ぐ言葉を紡ぐ。イヤな気配があたりに立ちこめはじめ、「ブラインドネス」は完成した。すうっと瘴気が立ち昇りアレクを包む。
「・・・うわぁぁっ!目がっ、目がぁっ!」
突然訪れた暗闇に困惑し、アレクは絶叫しながら闇雲に剣を振り回した。かえってそれが髭面の男を辟易させる結果となった。アレクの振るった剣は男の頬をかすり、赤い血を滴らせた。男はそれを左手で拭い、にやっと笑みを浮かべる。そして再び印を結ぼうとしたそのとき、後方から男を呼ぶ叫び声が聞こえた。
「親方ぁっ、ご無事で?」
駆けつけざまにカットラスを振りかざして無秩序に振り回すアレクの刃を受け止める。彼女は渾身の力を込めて唸りをあげ、アレクを艦舷の手摺りまではじき飛ばす。ぶつかった拍子にバランスを崩し、アレクは舷外へと落下していった。
私は突如として現れた彼女に驚き、そして戸惑った。よろよろと扉に寄りかかるように立ち上がり、彼女の方を見る。そして、ふと視線が交差した。すると、彼女の笑みが凍り付いた。
からんっ、からから・・・左手から刀が落ち、両手で頭を抱えるようにして何かを呟くと、がくっと両膝をついた。ビックリした私は、急いで彼女に近づく。そして彼女に触れようとしたその瞬間、彼女は怯えたように立ち上がり、私を見るなり思いっきり腹を蹴りつけた。
「きっ、かはっ・・」
私は蹴られた腹を抱くように抱え、視界がぼやけて音が遠ざかるのを感じながら気を失って甲板へ倒れてしまった・・・
ざあっ、ざざあっ・・・あ、波の音・・・イ・・・ケイッ!あっ気がついたぞっ!大丈夫だ・・・
はっと気がつくと、私は来たときに使っていた小舟の上にいて、フィート以外のみんなの疲れ切った姿があった。炎上し、沈みかけた「白沫のドワーフ」の幾つもの破材が今もなお燃えつづける炎の明かりに照らされて波間に消え隠れし、戦いの壮絶さをまざまざと蘇らせる。そしてゆっくりと小舟はこの場を離れ、帰路へとついた・・・
「・・・大丈夫ですか?」
ふと聞こえたディックの声に気がつき、辺りを見回す。いつものきままに亭だ。そしてみんなもいる・・・でもなんだろう・・・この胸に残っている悲しさと・・・懐かしさ・・・そう、多分私の考えは合っているはず・・・でも、どうして?どうしてなのっ!?姉さん!!・・・いつの間にか泣いていた私の肩をディックがそっと抱き、私を2階の部屋へと連れていった。
「ケイ、きょうはもう考えないで、ゆっくりと休んでください」
ディックはいつもと変わらない口調でそう言うと、私は安心したのかいつしか眠りについていた・・・。
翌日、明け方にちょっとイヤなことがあったせいで思いっきり不機嫌。椅子に座って眠っていたはずのディックさんの姿もない。いきなり抱きつかれたのはイヤだったけど、ファズさんとロビンさんのおかげで少し考えもまとまったし・・・ありがとうね・・・
最後だし、もうみんなにうち明けるね。えっとね、あの船にいた女の水夫の人、多分姉さんだと思うの。私は昔の姉さんしか知らないから、ずっと判らなかったけど、今、全部思い出したの・・・声も顔もどことなく違ってたけど、私には判ったの・・・だって姉妹ですもの。
でも、私の知ってる姉さんはこんなコトをする姉さんじゃなかった・・・物静かで、爽快で、そして優しい・・・怒るととっても怖かったケド(笑)
麻薬を使うなんて・・・そんな残酷で卑怯なことはしなかったわ。私は許せなかった。麻薬を作った人、それを売っていた人、運ぶ人、そしてその仲間の姉さん・・・出来るならば少しだけ話がしたかったの。なぜこんなコトをするのかということを・・・
だけどもう姉さんはいない・・・燃える船と一緒に沈んでしまった・・・
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