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No. 00028
DATE: 1999/07/12 04:38:59
NAME: カイ
SUBJECT: 盗賊団襲撃!
「よ〜し。今日はここら辺でいいだろう。野営の準備をしろ〜」
野営開始の合図がくだると、急にあたりが慌ただしくなりはじめる。
「よし、今日の見張りの当番を決めよう。おれたちの仕事はこれからだからな」
と、リーダー格の戦士が言う。
「できれば、最後で頼むぜぃ。俺は長く寝ていたいんでね」
「だから、おぬしはグータラ盗賊と言われるんじゃ。もう少し仕事に専念しようという気は起きんのか?」
これは盗賊と、ドワーフの戦士の言葉。
「うるせぇな。俺は恋に生きるんだ。…ってことで、オランに帰ったら一杯どう?」
そう言って、カイの肩に手をかける。今は、護衛の仕事の真っ最中である。
「あの…わたしは…その…」
カイが言いよどんでいると、戦士が盗賊の頭をぽかりと叩く。
「やめろよ。嫌がってるだろ。…ってその前に見張りの当番決めるって言ったじゃないか」
(毎日この調子だけど…大丈夫なのかなぁ…)
カイがそう思っていると依頼人がこちらのほうに近づいてくる。
「あー、ちょっといいかね?」
「あ、はい。なんでしょうか?」
リーダーが応対に当たっている。
「ちょっと、今日は見回りをしてもらいたいんだが、かまわんかね?」
少し、ばつの悪そうな顔で依頼人が進言する。
「え?こういう晩はみんなで一かたまりになってたほうが…ほら、空模様も怪しくなってきていますし」
本当だ。いつのまにか空には雲が垂れ込めている。いまにも一雨来そうな感じである。
「ならば、依頼人として命令させてもらおう。見回りをしてくれ…いいな?」
そう言うと、さっさと背を向けてまた、元のテントに戻っていった。
「なんか、様子がおかしかったような気がしたんだが…どうしたんだろうな」
「オンナだろ?パダに行くときにも一回こういう事があったじゃねぇか。もう忘れたのか?」
「別に俺達がいても構わないじゃないか。追い払うようなことはしなくてもいいじゃないか」
「か〜〜っ。鈍いねぇ。こういう時はまわりに人がいて欲しくないに決まってるだろ?」
本人達は大真面目で話し込んでいるのだろうが周りからみると掛け合い漫才にしか見えない。
「じゃ…じゃあ…わたしが見回りに行ってきますね…」
カイが言うと、やはり盗賊の人が反応した。
「いや、君独りじゃ危ないよ。俺もついて…」
「おぬしがついていく方がよっぽど危ないじゃろうが。わしが行ってこよう」
盗賊の人は戦士にも同じようなことを言われて、しぶしぶながらも承知した。
カイ達が見回りに行ってからしばらく時間が経ったとき…降り出した雨の音に紛れて商隊に近づく者達がいた。
「どうですか、ギルファレクス。商隊に送り込ませた女性は計画に成功したようですか?」
黒いローブを纏った男が近くのマンティコアに問い掛ける。
「問題無い。すべては川を流れる船のごとく順調だ」
マンティコアは答える。ローブの男はにこり、と無邪気な…しかし危険な色を瞳に宿して笑い、周りの男達に号令を下す。
「ギルファレクス。あなたは先に巣に戻っていてください。…いいですか。女性の方は殺してはなりませんよ。我が神に捧げなくてはなりませんからね。それ以外は打ち合わせどおりです。さあ、行きますよ!」
さすがにときの声は上がらなかったが、雨音に紛れてそれぞれが行動を開始した…
「雨が強くなってきやがったな…畜生…依頼人はいいよな。テントの中でオンナとくつろげてよ」
「愚痴をこぼすなよ…さっきから聞いてるけど、聞いてる方がむかついてくる…」
「愚痴を聞きたいならいくらでも言ってやるぜ?なんたって俺様の愚痴は世界一だからな」
「へっ…勝手に言ってろよ。なら、俺も愚痴に参加させてもらうがだいたいお前は…」
だが、2人の愚痴りあいはそこで中止された。
どぉぉぉぉぉん!
いきなり、依頼主の泊まっているテントに火の玉が飛んだかと思うと大爆発を起こしたのだ。
「…っな…何だ今のは!?」
火の玉が飛んできた森の方を見ると、森の中から20人前後の盗賊が森から出てきている。
まもなく、あたりは地獄と化した。
確かに、盗賊一人一人は雑魚なのだがいかんせん数が多い。2人では防げる数に限りがある。2人が防げない敵は自然と他の戦えない人達に行くことになる。
戦士が幾人かの盗賊を倒した直後、
「た、助けてくだされーーーっ!!」
よぼよぼの老人が、一人の盗賊に追われている。戦士はとっさにその2人の間に入るとその盗賊と剣を打ちあわせはじめる。
「おい!その老人を頼んだぞ!」
「分かってるって。さあ、じいさんこっちだ。ついてきな」
だが。2人とも分かってはいなかった。力仕事の多い商隊にこんなよぼよぼの老人がいるはずがないということを。あまりに急激な状況の変化に、駆け出しに近い冒険者は対応できなかったのだ。
響き渡る断末魔の悲鳴。
「どうしたんだっ!?」
盗賊を切り捨て、後ろを振り向いた戦士は1瞬状況が飲み込めなかった。助けたはずの老人が血に染まった短剣をもってにやりと笑っていたのだ。
仲間だった者はそのすぐ脇で倒れている。もう、事切れているのがここからでも分かった。
老人の姿が歪み、黒いローブ姿の男へ変わる。
「やれやれ、これだから駆け出しの冒険者というものは…<火球>などでびびって状況を把握できないとは…」
「貴様……!」
「おや、かかって来るのですか?どうぞ?わたしはなんの力もないただの神官ですよ。近づけば一撃でしょう。さあ、来てみなさい」
行ってはいけない。自分のカンがそう命令しているのが分かる。…だが、戦士は突っ込んでいった。自分のカンを信じずに。
「きさまぁっ!」
暗黒神官は不敵に笑い、右手を掲げた…
……どぉぉぉぉぉん……
「今の音は…?」
「…なにか、あったようじゃな。戻るぞ!」
「は、はい…!」
2人とも全力疾走で、もといた野営地に帰ってくる。
そこは、地獄だった。略奪され、殺され、連れさらわれる。この世の悪の全てを凝縮したような光景がそこにはあった。
「酷い…」
思わず、カイがつぶやきをもらす。
「ぬぅ…あの二人は何をやっているのだ。…わしのいない間に来るとは盗賊団の奴等め!」
どたどたと盗賊団に向かって名乗りをあげながら走っていく。
ついて行こうとしたカイだが、すぐ近くのうめき声に気づき、生きている人を探し始めた。そして、5・6人倒れている人を調べ1人だけ生きている人を発見した。10を少し過ぎたばかりの男の子である。
「うぅ…痛いよ…ねぇ…僕…死んじゃうのかな…?」
「大丈夫…絶対に死なせない!」
そして、<治癒>を唱え少年の傷を徐々に癒していく…
「わしの仲間を殺したのは貴様か!」
「ああ…あの正義漢ぶった人達ですか…くくくくく…まったくやりやすい方々でしたよ。あなたはどうですかね?」
完全に嘲きった口調で言う。
「わしがこの場で引導を渡してくれる!!」
ドワーフが突っ込んでこようとした瞬間、軸足に<気弾>を当てる。不意を突かれたドワーフはぶざまに転ぶ。そこに盗賊達が群がっていく。先ほど、戦士を倒した時と同じ手段であった。
ドワーフの断末魔の叫びを聞きながら、言った。
「やはり、あなたも前の二人と変わりはありませんでしたね」
「さて…残りはあなた一人だけですが、どうしますか?わたしと一緒に来るならとりあえずの無事を約束しましょう」
少年の傷を治しおわったカイのところに来た暗黒神官達の最初の一言がこれであった。もちろん、カイは従う気はなかったし、従ったとしても生きていられるとは思わなかったから。
カイは即座に後ろを向いて森の中に駆け出した。
「おや…やはりそうしますか。悪くはないですが、賢いとは言えませんね…」
神官は後ろの盗賊達に号令をかけようとして、止めた。いい事を思い付いた…そう思いながら。そして、改めて自分の後ろに控える盗賊達に言う。
「そうだ、あなた達。ゲームをしましょう。もし、あなた達があの娘を捕まえられたら好きにしていいですよ」
盗賊達から、歓声があがり我先にと森の中に入っていく。
「さて…わたしも行きましょうかね」
盗賊達が森の中に入っていった後、自分自身もゆっくりと森の中に消えて行った…
「どこへ行きやがった!?」「あっちか!?探せ!」
自分の下から、盗賊達の声が聞こえてくる。カイは、盗賊達が見えなくなってからすぐに<姿隠し>を自分にかけてそこらへんの樹に登ったのだった。
しばらくして、盗賊達の声がまったく聞こえなくなったころ、カラスが自分の近くにとまって、すぐに飛び立っていった。
「なんだったんだろう…今の…」
少し疑問に思いながらもそろそろいいかな、と思った瞬間。
ドォン!
強烈な衝撃を受けて樹から吹っ飛ばされて背中から落ちた。
「うぁ…」
起き上がろうとするが、身体の自由がきかない。首だけをまわして衝撃の飛んできた方を見ると、肩に先ほどのカラスを乗せた黒いローブの男が目に入った。
「くくく…捕まえましたよ」
残忍な光をその目にたたえながらその男は言った。
「さて…逃げられたらたまりませんし…かと言ってもロープも持ってきてはいませんし…そうだ。こうすれば逃げられませんね」
そう言って男は、持っていた杖をカイの足に向かって叩き付ける!
ボキリ。自分の足からそう鈍い音がしたと思った瞬間、激痛が走った。
「ああぁぁぁぁぁっ!!」
たまらず、悲鳴をあげるカイ。それに対して神官は、
「うーん、いい声だ。もっと聞きたくなってきましたよ…」
笑いながらそう言うと、もう一方の足にも杖を叩きつける。ボキリという音の後に聞こえる悲鳴。今度は肩に杖を叩きつける。…そんなことが幾度繰り返されただろうか。神官がふと、気がつくとカイは血を口から流しながら気を失っていた。
「おやおや…気を失ってしまいましたか。ま、いいでしょう。十分楽しめましたしね。」
そして、戻ってきた盗賊達に号令をかける。
「さあ、帰りますよ!帰ったら、女性の方々はいつものところに置いておきなさい。いいですね」
そして、暗黒神官に従わされた盗賊達は自分達の「巣」へと帰っていった…
少年は走っていた。自分を助けてくれた人の犠牲を無駄にしないために。そして、もしも盗賊達が気づいて追いかけてくかも知れなかったから。
しかし、盗賊達が追ってくる事はなかった。ようやくオランの門が見えたとき、少年は泣き出したい気持ちを押さえながら門まで行き、衛兵に事情を説明した。そして…
「よしよし…怖かっただろう。おい、至急、町の冒険者の店、衛士所にこの事を知らせてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、少年は堰を切ったように泣き出していた…
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