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No. 00030
DATE: 1999/07/17 02:49:30
NAME: レドウィック・アウグスト
SUBJECT: 旅立ちの日
とうとう、来たか・・・。
今朝方届いた,魔術師ギルドからの手紙を読みながら呟いた。
封蝋と、署名を再度確かめる。
・・・間違いない,魔術師ギルドの。
それも,高導師のものだ。
知った名だ ,何度か教えを請うた覚えもある。
連署の名を見て思わず苦笑いが漏れる,
古い記憶にある名,だ。
そう、幼き日に。少年時代に師事していた導師の名だった。
手紙を懐にしまうと,机から立ち上がる。
・・・全ての支度をするために。
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「リッティ」
そう呼ばれて,不意に家事をしていた手を止める。
・・・また、何か雑用だろうか。
うちの師匠は人使いが荒い。
でも、色んな事を教えてくれる。
魔術は勿論,古い神話や歴史,
様々な生き物や精霊などの仕組みや生態。
人間との戦い方と化け物との戦い方の違い。
そして遺跡の荒らしかた。
果ては酒の飲み方から女性の扱い方まで,
実に様々な事を教わった半年だった。
・・・そうそう、この家事も教わったんだっけ。
そんなことを何故か不意に思い出しながら,
はいはい、何の御用でしょう,と,師匠の部屋の扉を開ける。
僕は,そこで,予想もしなかったことを
聞かされる羽目になるとも知らずに・・・。
師匠はいつもと違う格好をしていた。
まるで、旅支度のような・・・。
?,前に言ってた遺跡の探索かな,それにしては早いな。
予定はあと半月ぐらい余裕があったはずだけど。
「リッティ,今日で破門だ。」
まじめな顔をして信じられない事をいう師匠に。
思わず,冗談でしょう?、と,聞き返す。
黙って首を振る師匠に,怒りや,悲しみが入り交じった僕は。
混乱でなんと言ったのか覚えてもいないのだけれども、
かなり激しく,しかも支離滅裂な調子で,
理由を問いつめた覚えがある・・・。
師匠は何度も丁寧に説明してくれた。
10ヶ月前の事件の事や、
魔術師ギルドから手配を受けたこと。
それにロマールの盗賊ギルドからも刺客が来ていたこと。
問題の処罰は僕の父親の干渉や,その他の手回しで,
延び延びになっていたのだが,とうとう処分が決まったこと。
・・・そう、処分はやはり魔術封印。
師匠はそれに従う気がないらしい。
「明日の朝の開門と共にオランを出る。」
師匠はそう言った。
僕のことは旧知の導師に頼んでおいたので,
魔術師ギルドに編入できるよう、手配してあるとの事だった。
・・・この家と書物,それに家財なんかは,
全部僕が好きに使って良いという。
(手渡された目録を後で見て驚いたのだが,
全部で数百万ガメルの資産らしい・・・,
魔術師の持ち物が高価な品が多いというのは本当だった。)
「じゃあな、しっかり勉強しろよ?」
そう言って去ろうとする師匠の背中に言葉を投げつける。
僕も連れてってください・・・,そう言いたかったのだが。
足手まといになるのは目に見えていた。
結局,言えなかった・・・。
言えたのは,僕を捨てるんですか・・・!?。
そう、口に出た。
「そんな、捨て犬のような声を出すな。
心配しなくても時々戻ってくるさ、気が向いたらな。」
「ま、こっそり姿をかえて、な。
お前が一人前になったら,一緒に連れてってやるよ。
ギルドの手前,破門はしても弟子は弟子だからな。」
そう言って振り返った師匠の口元は微笑んでいた。
思わず涙で視界が塞がれてふき取ったとき,
師匠の姿は消えていた・・・。
きっと、お別れに行ったんだ,あの場所へ。
行った先は解っていた,そう、いつもの、あの酒場だ。
最後にワインを飲むために・・・。
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新王国歴511年7の月。
学院による処罰を逃れ,1人の魔術師がオランを去った。
それに対し,手配はかけられたが。
数週間後,それは解かれることになる。
その理由は公表されてはいない。
だが、それは小さな誤解から始まった事が,
明らかになったからだと言われている・・・。
しかし、魔術師が学院に現れる訳もなく。
それは永遠に伝えられることは無かった・・・。
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