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No. 00032
DATE: 1999/07/20 00:32:14
NAME: 師 匠
SUBJECT: 少年と出会った日
私がその兄妹を見かけたのはエレミアの街中であった。
職人達の王国とも呼ばれる街の広場で彼らは生活していた。
…いや歌っていたと言う方が正確か。
最初は通り過ぎようとしたが、少年の歌に何故か(注1)引き寄せられ、いつのまにか目の前で歌を聴いていた。
兄妹の服装は一見薄汚れているが、よく見ると材質はいい物を使っている。
スラムに住むような子供にしては珍しいと思ったが、この時は拍手をしながら少年の歌を誉め、いくらかのお金を手渡してその場を去った。
この街に訪れたのは、私的な事からであった。
盗賊ギルドの訓練の仕方に疑問を持ち、自分で直接教えるに値する子供を探す。
…ギルドの方針は、数多く子供達の中からそれぞれの得意な分野を見いだして鍛える、
という専業職を作るのを目的とした考えだが、集団に等しく物を教える事ができようか?
個人で訓練を積ませた方が成長が早いのではないか?と私は常々考えていた。
以前、ギルドの方針について意見を述べたが、当時の長は首を横に振るだけであった。
長々とその理由を喋っていたが、結局は金銭面の話であり、その答えは私を失望させた。
彼らにとって、無能な盗賊を数多く作る方が組織の為だという。
その方が管理しやすいと。
だが、育てる側からしてみれば、使い捨ての駒を作るのは面白みが無い。
同じ時間をかけるのであれば、より完全に近いモノを自分の手で作り上げてみたい。
組織内でも上の地位にいた私は、長の承諾を得て自分の考えを実践させる事にした。
数日の間、自分の目にかなう子供を探していた、が見つからない。
その日の捜索をあきらめて宿に戻ろうとした時、その広場に兄妹はいた。
日が暮れ初め、人々が帰途についても帰ろうとはしない、いや帰る場所がないのだろうか。
通り行く人々に向かって一生懸命楽器を演奏していた。
私が近寄ると相手も覚えていたのだろう、簡単に挨拶を返す。
先に数ガメル支払ってから少年に曲を頼むと、笑みを浮かべながら演奏を始めた。
だが、私の視線は楽器を弾く少年の指先を見つめていた。
…年齢の割には、器用さが目立つ。
曲自体は大した事無いのだが、指の動きだけは賞賛に値する。
演奏が終わった後、少年と会話を交わしていると急に相手が警戒し始めた。
見知らずな人間に親切にされるのを不審に思ったのだろう。
だが、幼い妹の事を考えているのか、逃げようとはしない。
…感の鋭さだけは訓練で鍛えられる物では無い。
手先の器用さといい、なんと恵まれた素質だろうか。
細かい話は後で良いと思い、とりあえず食事に誘おうと話しかける。
が、よほど不審に思ったのだろう、その少年は妹を背中にかばいながら私との会話を続けていた。
結局私が妹の事を口にすると、しばらく迷い疲れ切った妹の顔を見てから首を縦に振った。
…兄妹の名前はエルフィンとエレン。
彼らとの出会いは偶然だったのだろうか。
今思えば、この時だけは「運命」という言葉があったのかもしれない。
(注1:呪歌のキュアリオスティ。目標値(6)だが、抵抗ロールで1ゾロを振った)
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