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No. 00038
DATE: 1999/07/28 19:57:43
NAME: セリア&レン・ブルガリス
SUBJECT: 家族
ブルガリス家は、エレミアの豪商である。家長ジョンとその妻アルメリアの間には二男一女があり、上からジャック、セリア、レンと言った。だがアルメリアは生来病弱で、レンを産むと産褥熱で呆気無く死んだ。仕事の関係もありジョンはすぐに後妻を娶る。そのことが、家庭の不和のはじまりだった。
当時13と多感な年頃であった長男のジャックが、父の再婚を認めず、その翌年突然出奔してまったのだ。また後妻のエレヌは家柄こそ悪くはなかったが、狡猾で冷酷な女で、自分が子を産むと先妻の子であるレン達に辛くあたるようになった。
レンは失踪した兄のかわりに、家を継ぐことになっていた。聡明ですばしこく、跡継ぎとしての能力では申し分なったが生来ひどい内気で、使用人に対してすら赤面して黙り込む様子に、父親のジョンも不安をもっていた。
エレヌは先妻の子供達が父に本を言えぬことをいいことに、夫の前では常に貞淑な妻を装おってきた。そして夫に控えめな態度で進言したのだ。「人前でろくに話もできぬレンの性格が心配だら、しばらくチャ=ザの神殿に預けて、人との交流の仕方について学ばせてはどうか」と。
こうしてレンは、わずか7歳で父の元から引き離され、多額の寄付金と共に神殿に預けられた。レンは自分が継母によって父から遠ざけられたことを知っていたが、彼にはどうすることもできなかった。
レンはやがて自ら志願して神官となるべく修行をはじめ、14歳で神の声を聞き、オランの神殿へと配属された。……結果として継母は喜んだ。
一方のセリアは物静かでおっとりとした少女だった。読書を好み、いつも書庫で本を読んでいた。だが不器用なきらいがあり、料理も裁縫も、満足にできなかった。また動作が緩慢で他者より一拍遅れることが多く、きびきびと無駄のない振る舞いを心証とするエレヌは、彼女を見るたびに苛々していた。
またエレヌはセリアが書物を読み学問をたしなむことに否定的であった。怪訝な顔をする夫には「女に学問はいらぬ」と慎ましやかに申し出ていたのだが、早く家を実の娘に継がせたいエレヌは、セリアがよけいな知恵をつけて自らの経過の邪魔をすることに危惧を覚えたのである。
だが、セリアが12歳のある日、エレヌが大切にしていた壷をあやまって割ってしまった。エレヌは激高し、セリアを家からたたき出そうとした。母の余りの怒りように、6つになっていたエレヌの娘アシェイラは慌てて母をなだめ、父親のジョンに取りなしを求めた。アシェイラは幸運にも母親に似ず気立ての優しい娘に育っており、腹違いの姉が毎日虐められているを見過ごなかったのだ。
ジョンは妻のあまりの怒りように、「正魔術師になるまで帰ってくることは許さない」と、勘当同前でセリアを賢者の学院に入れてしまった。
エレヌは素直に喜んだが、実はこれはジョンの策略だった。ジョンはさすがに辣腕の商人、妻の策謀と目的にはうすうす気がついていた。家庭内の不和を商売敵に付け込まれるのを恐れて野放しにしていたにすぎなかったのだ。また、アシェイラ(もしくは、その婿)に跡目を継がせたいのは彼も同じたった。彼は先妻をそれほど愛してはいなかったし、内気すぎる息子やつかみどころのない娘よりも、優しくて気立てのよい末娘のアシェイラを愛していたからだ。
そこで、ジョンはセリアに壷のふき掃除を命じて不器用な娘が壷を割るように仕向け、わざとエレヌを怒らせ、それを取りなす形でセリアを学院に入れたのだった。セリアの希望を叶えたかに見せ、実は家から追い出しただけなのである。学院の厳しさに鈍重なセリアはついていけず落第するだろう、そうしたらどこかに嫁にやればよい。……そう考えたのだ。
しかし、ジョンの思惑は外れた。万事他人に遅れ気味なセリアもこと学問になれば話が違ったからだ。水を得た魚とばかりに学問に励み、研究に埋没していったのだ。同期の中でもその成績は常に上のランクにあった。そして、正魔術師の資格を得てしまったのである。
エレヌとジョンは慌てた。しかし、ほどなくセリアからしばらく戻る気はない旨の手紙が届き、安堵した。
セリアもレンも、父母の考えはお見通しだった。ふたりとも聡明で、物欲に乏しく、それゆえ跡目争いなどという浅ましいものに固執する両親に嫌気がさしたから帰ってこないのだ。
それに気付いていたのは、アシェイラ一人であった。
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