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No. 00040
DATE: 1999/07/29 02:47:25
NAME: ジャルド
SUBJECT: オランへの道のり
男は馬を走らせていた・・・。
それも尋常な速度ではない。
乗用,と分類される馬は,
もう何日かの疲労で倒れる寸前だった。
「レイラ,・・・待ってろよ。」
ジャルドは娘のように可愛がっている女がいた。
彼女は今,囚われの身である・・・。
何を廃しても,そう,彼はいざとなれば,
彼女を牢から脱出させるすべも考えていた。
「何人殺してでも・・・」
我が神よ,我に力を貸し賜え。
我が望みは・・・レイラの無事。
願いかないし時は,生贄を捧げます故・・・。
と、その瞬間。
馬が崩れ落ちる・・・。
足がいかれたらしい,立てる様子はない。
「癒しの奇跡も、もう限界か・・・。」
呟くと,オラン側から来る馬車に狙いを定める。
急に立ちふさがる男を前に停止する馬車。
なかから若い商人風の男。
「何か御用ですか?」
緊迫した表情でジャルドは,
「馬をよこせ。」
「は?。」
「死にたくなければ,馬をよこせ。」
困惑した表情を浮かべる商人。
ジャルドは無造作に歩み寄ると,胸ぐらを掴む。
ゆっくりと持ち上がる身体・・・。
止まる呼吸。
突如,馬車の中から声。
「やめておけ,誰だかしらんが。」
ゆっくりと顔をだす,赤いマント,金髪。
驚く気の表情を浮かべ,そして笑う。
「丁度良い所に現れるな,魔術師。」
手を離す。せき込む商人。
「オランまで行きたい,大至急だ。」
苦笑を浮かべながら魔術師はジャルドに近づく。
「わかった。まあ、オランに逆戻りなのは気にくわないが,な。」
「世話になったな商人。」
「身一つでいいんだろ?。」
そう言うと魔術師は呪文を唱える。
「・・・万能なるマナよ,神に定められし姿を解き、
再び我が命により姿を変えよ。」
ジャルドの身体に触れると彼の姿を怪鳥へと変える。
「飛んで行け,随分早いはずだ。」
苦笑を浮かべながら地面に落ちた荷物を拾い上げる。
「荷物は俺が持っていってやるよ・・・どうせ,
また難解な話なんだろう?。手伝ってやろう。」
ジャルドは鳥になった頭で頷き,飛び立つ。
「やれやれ、どうも、オランには縁があるようだな」
「姿を変えるしかあるまいなぁ・・・。」
魔術師は若い商人へと姿を変える。
・・・名前は。
そうだな・・・,エイン。
上位古代語で小さな炎を示す言葉だ。
おとなしくしてるとするか・・・。
そう思いながら,胸騒ぎのする思いは止まらなかった。
511年7の月末。
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