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No. 00043
DATE: 1999/07/31 01:03:28
NAME: 衛視部下B
SUBJECT: −と、ある酒場にて−
−と、ある酒場にて−
よぅ、あんた見かけない顔だな。この街には来たばかりかい?
・・・いや?前からいた?
そいつは失礼した。てっきり余所から流れてきたのかと思ったのさ。
ああ、すまん。挨拶が遅れたな。俺の名はブローウィン。
服装から見ての通り、この街で衛視をやっている。
・・・あん?衛視が勤務中に何で酒場にいるだって?
へへ、硬いこと言うなよって。俺の任務は街の巡回・・・ここ(店内)だって街中だろ?
・・・そんなんでいいのかって?
いいんだよ。どうせ手柄を立てたって、全部嫌みな上司が持っていっちまうんだからな。
・・・だったら職場を止めろ?
俺は、お偉い冒険者様と違って何も取り柄が無いからよ、他につける職業が無いのさ。
・・・なら愚痴をこぼすな?
俺も判っちゃいるんだけど、前の隊長が素晴らしくてな。つい愚痴がでちまうのよ。
あぁユング隊長、今頃何をされているのか。部下も居ないというのに・・。
・・・前の隊長はどんな方かって?
名前からも判るように女性さ。気さくで部下思いで、しかも綺麗でなぁ。
そりゃ怖い所もあったけど、優しい上司だったよ。
・・・惚れてたのかだって?
バカヤロ。そんなこと隊長に言ったら絞め殺されちまう。
隊長は自分が女性であるということを、えらく気にしていたからなぁ。
俺達は女性としてではなく、自分達の隊長として尊敬していたよ。
・・・何で気にしていたのかって?
ただ女性だから、という理由で上の連中はユング隊長の功績を認めないのさ。
男であれば手柄として数えられる事も、隊長の場合は認められない・・・。
世の中には無能な奴らがごろごろしているってのにだぜ?
ま、俺も最初は女なんて無能だと思っていたんだけどな、あの一件が起きて知ったのさ。
他の、今までのどんな上司よりも素晴らしい方だってな。
っと、喋り過ぎちまったようだな。一人でべらべらと喋って悪かった。
・・・あぁ?続きが気になる?
たいした話じゃねぇよ。
・・な、なんだよその目は。そんな目をされてもなぁ、俺も恥ずかしいしな。
ちぇ、判ったよ。
丁度酒も無くなる所だし、次の一杯を奢ってくれたら話してやるよ。
>さて。君は酒を奢るか? YES/NO
−NOの場合−
・・・別にそこまでして話してくれなくていい?
そうかい。じゃ、酒も飲み干した事だし俺はそろそろ帰るとするわ。
一応詰め所の方に戻らねぇと、次の交代の奴においしい思いをさせちまうからな。
変な話で済まなかったな。ま、気を悪くしないで楽しんでいってくれよ。
じゃ、お先に失礼。
(席を立って退店)
−YESの場合−
・・・お安い御用だ?
さんきゅ、あんた見かけによらず気前がいいんだな。
・・・そんな事はいいから早く始めろ?
ああ、酒が入って喉も湿った事だし、始めるとするか。
あれは1年前のことだった。当時の俺は今と同じように衛視として働いていた。
まだ飲んだくれて無く、仕事…いや事件の解決に熱心だった頃の話さ。
信じられるか?当時の俺は真面目で酒も飲まず、熱心に仕事をしていた事を。
当時の隊長はさる貴族の次男坊でな、箸にも棒にもならない野郎だったが、
性格だけは執念深く、手柄には人一倍執着するような奴だった。
その時は、丁度殺人犯を捕まえるという大手柄を上げたんだが、奴はそれを一人締め
しちまったのさ。犯人を捕まえたのが自分だ、ってな理由からな。
当然、俺達は腹を立てたよ。だけど、悔しい事に相手の方が力が上で何も出来なかった。
まぁ、それだけならよくある話で済んだんだが、奴はさらに酷かった。
数日の取り調べで、苦労して捕まえた犯人が白って出ちまったのさ。
結果、衛視隊の面目は丸潰れでな・・それからどうなったと思う?
俺は誤認逮捕の責任を負わされて、隊から外されたよ。
表向きは俺が独断で先行したって理由からな。だが裏は違う。
捕まえた相手と、奴の親の地位の高さが悪かったのさ。
家督は継がないとはいえ、一族から不祥事を出すわけにはいかねぇってな。
だけど先方に対して責任をとる必要があるんだと。
で、上に睨まれてた俺にお鉢が廻ってきたのさ。
当時の俺は有能で目立ちすぎたんだな。
後から同僚が教えてくれたよ。お前はやりすぎたって。
俺はしばらくの間、まじめに仕事をする気にはなれなかったよ。
あまりにも馬鹿馬鹿しくてなぁ。結局、しわ寄せは全て弱い者にくる。
下がいくらあがこうと、どうにもならん事を教えられたのさ。
・・そう、俺が酒に溺れ始めたのもこの辺りからだったなぁ。
っと、話がずれたようだな。
そんなことがあって、しばらくの間は酒に溺れてたんだが、
いつの間にか新しい上司の下に就くことになった。
・・それがユング隊長だったわけさ。
向こうも驚いたろうよ、新しく出来た部下が俺みたいな奴なんだから。
無気力で無関心、おまけに飲んだくれだったからなぁ。
まぁ、俺も左遷先の隊長が女だってのには驚いたけどな。
・・女だぜ?
凶悪な犯罪者と対峙するのに、冗談はよせと言ったんだが、すぐに思い知らされたよ。
あん時は、ちぃっと酔ってた事もあって、つい絡んじまったのさ。
女だてらに何が出来る?ってな具合にな。
・・・・こてんぱんにのされたよ。それこそグウの音も出ない程に。
その後で隊長が言った言葉は今でも忘れられんよ。
『私は、部下の行いには正当に評価を下すつもりだ。』
『今のお前には、これがふさわしいな。』ってね。
そう言った後で、手にした水差しを俺に向かってぶちまけたのさ。
あの時の俺は、ただ呆然とするしか無かったが、言葉は心に染みたね。
今までそんな事を、面と向かって言った上司はいなかったからな。
しかも口だけじゃなく、言ったことは守るお人だったよ。
・・後から気が付いたんだけどな。
しかし、なんでなんだろうな。素晴らしい上司が、ただ女性であるが為に蔑視される。
俺は隊長の為なら何だって出来るというのになぁ・・つまらねぇ世の中だよ。
ああ、酒、ごちそうさん。変な話で悪かったな。
ところで、今度はあんたの話を聞かせちゃくれねぇか?
どんな旅をして、どんな冒険をして来たのかを、よ・・・。
<終>
※以下の文章を参照されることによって理解が深まるかも(笑)
俺の事
隊長の事
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