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No. 00056
DATE: 1999/08/04 01:03:11
NAME: 紅の外套
SUBJECT: 出会い
暗い夜の街の外れ。
一本の木の下に”それ”は降り立った。
樹は闇の中で緑の葉を青々と茂らせていた。
その影の中から溶け出すように,
しかしはっきりと,紅い外套の男が姿を現す。
男は懐から男物の服を取り出すと,
大きな鳥の姿をした”それ”の足下においた。
「汝があるべき姿に戻れ・・・。」と,
男が呟くと,鳥は人間へと姿を変える。
歳の頃は30程だろうか・・・,
日に焼けた逞しい体と金色の髪。
顎から生えた堅そうな髭が,
少し伸びているのは,旅のせいだろうか・・・。
急に人間に戻った男が服を拾いながら話し出した。
「レッディ。頼まれついでに金もくれ。」
そう呼ばれた紅い外套の男は,
やれやれと言った風に財布をだす。
「いくらだ・・・ジャルド。」
上着の釦を止めながら簡潔に答える。
「全部だ!。」
「・・・おそらくもう遅いだろうからな,
あちこち,金をまかなきゃならん。」
そうか、と、言って財布を投げる。
ジャルドは,にやっと笑うと、財布を受け止め。
「何処に返しに行けばいい?。」と言う。
溜息をつきながら答える,外套の男。
「どうせ、協力はそれだけじゃないんだろう?」
「まあ・・・,仕方がないな。」
苦笑をしながら宿の名を告げる。
ジャルドは,じゃあな。といって,
足早に街中に消えた・・・。
暫くして,1人の女性が通りかかる。
身長は平均より高め(かなり?)。
少し癖がかった黒い髪を雑に切りそろえている。
彼女は,ふと、木の陰に気配を感じて足をとめる。
「だれ?、でて来なさい。」
そう声をかけると,
木の陰に隠れるように姿を現す紅い外套。
流石に立ち姿に隙がないな・・・,
そんなことを思いながら声をだす。
「無差別痴漢少年はげんきか?、アレク。」
そう笑いながら顔を見た瞬間。
アレクの顔の怪訝さをみて,
自分の迂闊さを呪った・・・。
(姿を変えているのを忘れていた・・・,くっ。)
無さべ・・つ?。
「レド,なの?。」
「あなたレドでしょう?。」と笑い出す,彼女。
そんなこと言うのは貴方ぐらいだわ,
と笑われながら・・・。
『変身』を解くと,元の姿に戻るレド。
・・・紅い外套はそのまま,中身が変化する。
「ふぅー,仕様がない,私としたことが迂闊だったな・・・。」
苦笑しながらアレクに微笑む。
笑い返す,アレク。
なんでここへ?。とレドが歩き始める。
「ちょっと,剣を振りに,ね。」
レドこそどうして帰ってきたの?。
「街が恋しくなってな。」と苦笑いする。
足はいつの間にか,いつもの酒場に向かっている。
「アレク・・・頼みがある。」
「なに?。」首を傾げるアレク。
「冒険者の酒場で組んでいる仲間に入れて貰えないか?。」
「は?、え、ええ,いいけど。」
「・・・姿を変えて,君の昔の知り合いとして、だ。」
真剣な顔になるアレク。
「何か、理由があるの?。」
レドは今置かれている自分の状況を簡単に話した。
まず、(日々の生活の)金が無く,ギルドに追われていること。
品物を売ったり,1人で稼ぐと噂が立って困ること。
友人に金を財布ごと貸して飲み代がないこと。(笑)
「解った,少し考えさせて・・・。」
アレクの答えになるべく早く頼むよ,といいつつ。
しばらくは『変化』で顔を変えながら稼がなくてはな・・・。
そう、心の中で思っていた。
アレクからの返事が来たのは次の日の夜だった。
飲み代をどうしたかって?(笑),
そこら辺のしんせつなごろつきに貰いました,とさ。
新王国歴511年8の月3の日 赤魔術師レドウィック・アウグスト記。
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