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No. 00058
DATE: 1999/08/16 12:13:26
NAME: ゴシュゴラテ
SUBJECT: 鮮血の傭兵
「旦那、もうすぐ出発ですぜ」
「おぅ。回りみりゃぁわかるさ…」
ここはプリシスの街。傭兵達が詰めている兵舎である。
「しかし旦那ぁ。気に食わないとおもいやせんか?今回の任務」
「あん?」
「俺達傭兵がそりゃぁ上層部にしてみりゃぁ捨て駒だって事ぁわかってんですけどね。しかし数に差がありすぎる…これじゃぁマジで死ねって言われてるようなもんですぜ。何で正規兵がほとんどいねぇのに傭兵ばっかで」
「うるせぇよ」
「だって旦那…」
「命が惜しけりゃ消えろ。斬ってなんぼ、その中で生き残ってなんぼだ。な〜に、死にそうになった時にでもドロンしちまえやぁいいわけよ」
「し、しかし実際戦場でドロンなんざ無理っすよ」
「そんときぁ死ね」
「そ、そんな…」
「な〜に。上層部も勝算がねぇわけじゃねぇだろうさ。正規兵が少ねぇって事ぁ別にどっかで使うってこったろ。へへ…って事ぁまぁ強襲かなんかするつもりなんじゃねぇかと思うぜ。それまでたえりゃいいこった」
「それまで堪えればって…」
「いや…堪えればじゃねぇな。それまで楽しめるか…」
旦那と呼ばれていた男はゾッとするような笑みを不意に浮かべる。
「たのし…い、いやいいっす。それじゃぁ俺ぁこれで」
そそくさと去る男。
「くく…いいねぇ、ここぁ。あきも死ねぇで戦、戦。合法的に殺れるなんざ他じゃなかなか難しいしなぁ…」
そう呟くと板金鎧を着始めた。
白刃の街道。
ここはそう呼ばれている。ロドーリルの軍勢がここを通りプリシスへ侵攻するため、ここが戦場となる事が多い。そのためそのような名が付けられた。
今もまたその名に違わぬ状況へとなっている。
ロドーリルの軍500(おそらく偵察も兼ねているのだろう)がプリシス側へと足を運んだのである。
これを迎え撃つのはプリシス軍100。うち9割以上は傭兵である。
「さ〜て。そろそろ始まるかねぇ…まぁ一人5人斬りゃぁいいんだ…そうたいしたもんでもないだろうよ」
ブツブツと呟きながら下の数人の傭兵を連れ、手に持ったハルバードをゆっくりと振り回しながら戦線へと進む板金鎧の男。
今は射撃戦である。おそらく矢が無くなれば接近戦となるだろう。
しばらく楯の隙間に隠れながらクロスボウでも発射しておく。
半刻ほどすると矢の雨が止まった。
「そろそろか…やっぱ自分の手で殺らねぇ事にゃぁつまらねぇよなぁ」
舌なめずりをしながらハルバードをギュっと握った。
「野郎ども!いくぜ!」
射撃戦が終わった直後、怒号と共に兵士達が立ち上がり乱戦が始まった。男はバッサバッサと敵兵士を切り倒す。
「はっはっは、雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚共がぁ!話にならねぇぜええええ!!」
内臓をぶちまけ、脳漿を散らし、鎧の破片が食い込むほど武器を振り回しそれでも歩みを止めず敵の中へ食い込んで行く。
「ああ!?どうした!?それで終わりかぁ!?おめぇらの女王様んために死ぬ気でかかってくんじゃねぇのかぁ!?」
一閃。
だが、敵もひるまず迫ってくる。
「おぅよ。そうじゃなきゃつまらねぇ!つまらねぇよ!くく…殺してやるよ…おめぇら殺してやるぜぇええええええ!!」
ニヤりと笑みを浮かべながら斬り捨てる。無論顔はカブトに包まれているため見えはしないがそれでも笑っているのだと肌でわかる。
「おおおおおおおおおおおりゃぁああ!!」
横凪に振り回されるハルバード刃にあたらずとも柄に当たっただけで弾き飛ばされているものもいる。
すでに彼の回りに下についていた傭兵は1人となっていた。
その時、不意に後ろへと回った敵が小剣を突いてきた。
(こりゃぁ…まずい…ちと当たったら難だぜぇ)
そう思いはしたが反応が間に合わない…。
そう思った直後、矢が飛んでくる。
(何?)
射撃戦は終わったはずだ。
この乱戦の中、矢を使う馬鹿なんざいない…はずである。
(誰だ?)
矢の刺さった方角等からどの辺りから飛んできたか一瞬で推測する。
(味方の陣からじゃねぇな…敵の方でもねぇ…って事ぁ関係ねぇ奴が助けてくれたってか…くく。ついてるぜ。俺ぁまだ運があるみてぇだな)
そう考えながらも武器を振り回すのを止めようとしない。
もう疲れがピークに達しつつあったが人間を切り捨てるエクスタシーがそれを止めさせなかった。
「へへへ。俺はまだ殺せるぜええ!!殺る!殺る!殺る!殺る!殺る!殺る!殺る!殺る!おらぁあああああ!!」
そして戦いは不意に終わった。敵が撤退し始めたからだ。
「…けっ根性なしどもが…死ぬまで来るんじゃねぇのかぁ…?」
しかし男の体力も限界に近かった。ここで引いてくれてまぁ幸運というべきであろう。
「……ふぅ。……くく。また…生き残ったぜ。これだけ戦に顔出して、これだけ人を斬ってまだ生き残れるなんざ傭兵冥利に尽きるもんだなぁ…へへへ」
どうやら部隊で生き残ったのが自分一人らしい。他の部隊も随分と人が減っている。
よく生き残れたもんだというべきであろう。
「おっと…一応礼をいっとかなきゃなぁ」
立ち上がる。そして先程確認した方向へと足を進めた。
「……おい」
男は声をかける。
どうやら先程矢を放ったのは眼の前のこの男らしい。
鷹を思わせる眼の男。おそらく旅の冒険者といった所か。
「余計な事を…といいたい所だが礼を言うべきだな。まぁ、気づかなかったのは確かな事だしよ」
悪態を吐きながらも礼を言う。
目の前の男は何故ここがわかったのかという顔だ。
「矢が刺さっていた方向を考えればこの辺りだろうと思ったぜ…まぁ、いい。お前さん、冒険者か?」
「ああ……」
くく…この男。俺を見て後悔したって顔だな。
助けなきゃよかったって事かい…まぁ当たり前か。
「へへ…どうだい、あんた。この乱戦の中に弓を放てるなんざ、結構な腕してるじゃないか。傭兵として雇われる気はないかい?いや、一応俺も傭兵なんだけどよ…まぁ、下に結構つけられるくれぇの待遇は受けてる。俺がいやぁ便宜もされるだろうさ」
まぁそんな事ぁどうでもいい。俺を助けたっのもあながち狙いが無かったわけじゃねぇだろうさ。
おそらくプリシスの街にでも入りたかったかなんかだろう。
さすがにロドーリル方面からの旅人を素直にぁ受け入れてくれねぇだろうしな。
「……口の端が気に食わないな」
「あん?」
「こう思ってる男でもいいか?」
鷹のような目つきの男はニヤリと笑いながら言う。
いいね。
いいぜこの男。
正直敵に回って欲しかったぜ。
「上等だ」
いざとなりゃぁ俺が切り捨ててやるからよ。
「そうか…一応旅をしている身なんでね。期限付きであれば傭兵となっても構わんよ」
やっぱり冒険者だな…だが、傭兵の経験もあるって感じだな。
口振りから察すると。
「おお。あんまり短すぎても困るけどよ。そうかい。雇われてくれるかい…へへへ。これで動きの幅が広がるかもな…」
あれだけの弓の腕だ…猟兵みたいな特殊な仕事につくだろうなぁ。
俺も弓にも自信はある…そうなりゃ仕事も増え、また殺れるってこった…金も入るだろうしな。
「……了解した。自己紹介をしておこう」
そういって男は名乗った。
なんでも前にはムディールにいたらしい。
まぁ口調の鉛からおそらく西方出身だろうけどな。俺も西方出身だからわかる。
「へへ。俺の紹介もしておこうか。俺の名はゴシュゴラテってんだ。一応”鮮血の”てぇ二つ名を持ってんだぜ。へへ、まぁロマールじゃ少しは名前も知られてるんだけどよぉ」
ニヤリと笑いながら話す…。
さぁ…まだまだここでは戦は続くだろうさ。これからもっと面白くなるぜぇ。
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