No. 00074
DATE: 1999/08/31 00:58:48
NAME: ヤンター・ジニア
SUBJECT: リスを連れた魔術師
その町はエレミアから半日ほど離れたところにある、比較的大きな町だった。
私は神殿の所用で司祭様と共にその町を訪れていた。夜中、私は宴の席を早々に
辞して、散歩に出かけた。司祭様を歓迎したものなのに、ついてきただけの私まで
同じ扱いを受けるのが面白くなかったからだ。
月明かりの中を当てもなく歩いていると、一件の屋敷に忍び込もうとする怪しい
人影を見つけた。
泥棒だ!
そう判断した私は、フレイルを構えその人影に向かって駆け出し、塀を乗り越え
る前に叩き落とした。人影の正体はまだ少年と言える歳の若い男だった。見苦しく
言い訳を繰り返すその男に対し、私はフレイルを振るい続け、ついには動けなくな
るまで叩きのめした。地面に膝をつき、肩で息をしながら私を睨み付けるその男を
私はフレイルを構えたまま、冷ややかに見下ろしながら告げた。
「さあ、官憲に突き出してやるぞ」
その時、私はその男の側にリスがまとわりついているのに気付いたが、不覚にも
その意味するところに気付かなかった。
次の瞬間、私はあたりの空気が変質したのを感じた。急激な眠気が襲ってくる。
しまった・・・
私はそのまま眠りに落ちていた。
気がついたのは、東の空が白み始めた頃だった。私は自分の不覚を思い出し、
すぐにその屋敷の門を叩き、主との面会を求めた。初老の男が現れる。私は昨晩
この屋敷に忍び込もうとする泥棒を見つけたこと、そして不覚にもそれを阻止で
きなかったことを伝えた。主は使用人と何かを話した後、盗まれたものはないよ
うなので、昨晩その泥棒はそのまま帰ったのだろうと言って、そのことで私は礼
を頂いた。
さらに、私はその泥棒に心当たりはないかと、あの男の特徴を伝えた。主は一
言「泥棒じゃな」と言った。知っているのかと思ったが、まったく知らないとの
答えだった。
それ以来、私は暇をみてはこの町を訪れた。不覚を取ったことに対しての拘り
からであったが、今思うと、それは神の意志だったのかもしれない。その男は、
それからもその屋敷の周辺に現れたが、警戒されているために先に気付かれ、逃
げられるばかりだった。
そして、その屋敷で、主の息子が事故死するという事件が起こった・・・