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No. 00080
DATE: 1999/09/04 00:00:18
NAME: ジッカ・スター
SUBJECT: 今を生きてる冒険者(1)
「おぅ、レツ、カイン。開いたぜ」
「やっとかジッカ。ちんたらやってんじゃねぇ」
「あ?てめぇ、罠はずしで手ぇ抜くようなマネできっか。ちんたらやってんじゃなくて念入りにやってんだよ」
「おいおい、口喧嘩やる暇があったら先に進まないか?」
おっと、悪ぃ悪ぃ。デクがうるさかったからよ」
「ああ?誰がデクだ。おまぇはマグロじゃねぇか」
「マグロはてめぇだって。この間の飲み比べぁ俺が明らかに勝ってただろうが!」
「ほらほら先行くぞ」
レツとジッカが言い合ってる横で呆れながらカインが先に進もうとする。
ここはパダの落ちた都市。その西側にある遺跡だ。
カインが学院で見つけた資料をもとにレツ、ジッカが便乗して冒険に出かけた。
もうすでに中へ入って3時間は経過しているがあまり進んでいない。それというのも扉という扉に罠がはってあるからだ。
「にしてもなんだなぁ、ここぁ。魔術師の遺跡ってより盗賊のアジトって感じだな。これだけ盗賊用の罠があるとよ」
「俺もそう思う。扉にはほとんどロックはかかっていないし、何より魔法生物がいない」
「そういうのがいないってのぁ俺の仕事がなくていいわけだから、俺としちゃぁ助かるんだけどよ」
レツがガハハと笑う。
「ま、俺らとしても魔法関係ばかりあるってのぁ困りもんだしな。それで助かるっちゃぁ助かるんだが…カインの見つけた資料ってマジでここであってんの?」
「あってるはずなんだがな…その割にはこれに乗っていない罠が多すぎるが…」
資料を書き留めた紙束をピラピラさせながらカインがぼやく。
「なぁ、おい。ふと思ったんだがよ。もしかして、ここ。もうすでに荒らされてたんじゃねぇか?」
「安心しろレツ。それは俺も考えた。で、それを否定する要素はない!」
「ああ?それじゃ意味ねぇじゃん!」
「いや、そうでもないかもしれないぞ。現に今までもたいした物ではないとは言えちょこちょこモノが見つかっている」
カインはそう言いながら魔硝石の入った袋を出す。
「……それって最初の方にあったロックのかかった扉から見つけた奴だよな」
「荒らした奴等が魔法使えなかっただけじゃねぇのか?」
レツとジッカが同じに突っ込む。だが、カインは不敵に笑った。
「つまりだ。魔法のかかった場所は荒らされていないと言う事だ。そうだろう?」
「おっ、確かに。って事ぁロックがかかってる場所こそいろいろあるって事かい」
「いや、レツ。それだけじゃねぇぜ。罠が仕掛けてあるって事ぁここは昔盗賊あたりのアジトだった可能性が高い。もしかしたらそいつらのお宝もあるかもしれねぇだろ?」
「おおおお!!」
「ヘヘ。金が入ったらまた飲み比べといこうや」
「おっと、それには俺も参加させてくれよ」
『あったぼうよ!』
そうしてしばらく奥へと進んでいく。
ジリジリとゆっくりと足元に注意しながら進む。
堂々と進むわけには行かない。
先程、レツが落とし穴に引っかかり、間一髪ジッカとカインに支えられ助かったという事があったばかりだ。
しかも巧妙にもここを根城としていた者たちは松明を使わずにランタンか何かを使っていたのだろう。天井を見て松明の煤で正しい道を探ろうにも何も見つからなかった。
歩く事しばし。不意に音が聞こえる。
「あ?なんか聞こえたぜ」
「俺もだ」
「え?俺は聞こえなかったぜ」
ジッカとカインは回りを見渡す。一瞬何があったか分からなかったレツは呆然としている。
「まずいな。もしかしたら気づかないうちに罠にはまったかもしれない」
「可能性はあるよな。例えばある地点を通過する時に何かしないと罠が稼動するというヤツだと俺らにゃ手の出しようもねぇしな」
「おい、つまり俺達ぁ罠にかかったのか?」
「まだわからんが…おそらく」
「どうする?引き返すか?音が聞こえたのが今だから作動地点は近くかもしれねぇぞ」
「そうだな。作動の仕掛けを見ない事にはどんな罠かの推測もたてられ…」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
「っていうか、もう明らかに聞こえる音だな」
「さすがの俺にもわかるぐらいのな」
「っていうか…なんか転がってきたぞ」
『だああああああああああああああああああ!!!』
走る!走る!走る!
三人はとにかく走った。もはや罠があるかどうかとか探っている暇はない。何と言っても後ろから恐ろしい速度で丸い岩っぽいのが転がってくるのだ。
「おい、あそこ曲がり道!」
「おお!助かったか!」
「いや!よく見ろ!……角が曲線だ!あれだと岩もきっちり曲ってくるぞ!」
『だああああああああああ!!』
すでに涙目である。
「と、とりあえずなんとかしてあの岩止めねぇと。もう追いつかれちまう!」
「あ、レ、レツ!そのモール!なんとか足止めにつかえねぇか!?」
「でかさが違うわ!!」
「いや、うまく使えば何とかなるかもしれないぞ!曲がり角の所で俺の言う通りタイミングよく投げてくれ!」
「タイミングってなんだー!!それに何処にだよ!!」
「ジッカ走ってる場所の延長!」
「ああ!?」
「調度オマエが走ってるラインが岩が壁とぶつかったりで起動がずれやすい場所なんだよ!」
「俺はどうなる!!」
『かわせ』
「声をそろえてんじゃねぇえええええええ!!」
しかし時間はなかった。もう正直すぐ後ろである。
カインの合図と共にレツが背中のモールをジッカめがけて(マジでジッカめがけて)なげる。
かろうじて壁を蹴りつつ曲がり角の先へ飛び込みかわすジッカ。
だが体勢が崩れたためこのまま岩が転がってきたらいっかんの終わりであった。
ガガッガッガッガガッガガッガッガ……
止まった。正確には後ろへと転がって壁との摩擦を繰り返し止まったのだが。
「ふぅ…助かったぜ…」
「寿命が10年ぐらい縮んだぜ」
「じゃああと100年くらいか」
「俺はドワーフかなにかかい!」
「いや、レツだったらドワーフでも納得…いや、でかすぎるな。ジャイアントだったりしてな」
「笑えんなぁ」
「コラ、なんで笑えねぇんだ」
助かった緊張感からの開放か?軽口をきく。
「今のはマジでやばかったな…途中で何も罠がなかったからよかったがあったらまずくなかったか?」
「おい、レツ。気づかなかったのか?オマエ罠踏んでたぞ。ピット(落とし穴)とか。ギリギリ落ちなかったけど」
「え゙…マジ?」
『マジ』
さすがに豪胆なレツも顔色が変わる。
「ところでよ…どうやって戻る?」
「おそらくは…もう少し先に行けばこの岩を戻すなり何なりの仕掛けがあるんじゃないと思うんだが」
しばらく歩くと、不意に大きな穴があった。おそらくここにあの岩が入る予定だったのだろう。
「なぁ…本来ここにあの岩が落ちるんだよな?じゃぁ、あの岩ってどかないんじゃねぇの?」
ジッカが当然の疑問をあげる。
「…だな。いざとなったら無理矢理引っ張ってくるしかないな」
「やはりか。そうなったら頼むぜレツ」
「俺かい!」
「明らかな力仕事はオマエ以外誰がやんだよ」
「確かにそれだけ体も大きい事だしな」
二人に言われては断れるはずもなく、いざとなった時の事はレツに一任された。
「しっかし不思議だよな。なんであんなんでっけぇ仕掛けがいんだぁ?あそこまでスケールのでかい罠がたかだか冒険者…いや、この場合遺跡荒らしだな。それにいると思うか?」
「いや、普通はあそこまででかい仕掛けはいらないな。どちらかというと大人数相手の罠だよなぁ…」
「やっぱそう思うか?そうだよなぁ。ま、盗賊団のアジトとすりゃぁやっぱ対象は討伐隊相手のためってか?」
「洒落になってないな」
苦笑。
「ガハハ、まぁいいじゃねぇか。仮に盗賊団だったんだってもういねぇんだろうしな」
「まぁ、その保証はないんだが…これだけ荒廃してる感じからするとないんだろうな」
「とりあえず先にすすもうや。邪推はきっちり仕事こなしてからでも遅くぁねぇだろ?」
「そうだな。行こう」
3人はそうして前へと進む。相変わらず慎重に神経を回りに集中させ少しの違和感も見逃さぬように。
先頭をジッカが進む。そしてそのすぐ後ろをグレートソード(モールは先程の場所に置いたまま)を構えたレツが歩く。カインは殿としてあたりの気配に集中していた。おそらくジッカなどが罠にかかってもすぐさま行動できるだろう。
しばらく歩いていると扉を見つけた。
そしてすかさずジッカが調べに入る。
「どうだ?」
他の二人が聞く。
「いや。特に罠らしきものはない。しかも鍵もかかってないときてやがる…意味、わかるよな?」
「ロックか」
苦笑しながらカインが呟く。
「いやぁ、ハードロックかもしんねぇ」
コンコンと軽くわずかに音が出る程度に叩きながらジッカがいう。
「どうするんだ?ここは無視していくのか?」
レツが尋ねる。
「いや、こういう所こそ千載一遇のチャンスじゃねぇか。っつってもカインに頼るしかないんだけどよ」
「残念だが…俺はそこまで言うほど魔法に達者なわけじゃないぞ」
苦笑を浮かべながらカインがいう。
「そのための魔硝石だろって。な〜に成功しなかったらそれでも良いし、何もなかったらなかったで運がなかっただけだ。何かを手に入れる努力を惜しんで何も手に入れないよりぁいい」
「ガハハ、ジッカ。お前らしいぜ」
二人で笑いながらカインに任せると下がる。
「そうか…じゃあやるか。万物の根元たるマナよ…」
呪文の詠唱そして魔硝石を握り締める手に力が篭る。
(いけ!!)
…カチャ
音がする。
『よおっし!』
レツとジッカがガッツポーズを取る。
「思ったより…ここ主だった魔術師の力は弱かったんだな。それとも、手加減していたのか…いずれにしても俺の腕で開くとは」
「いいっていいって。開いた事にぁかわんねぇよ。さ、入ろうや」
そして注意深く開ける。魔法がかかっていた扉とは言え中に何があるかは分かっていない。注意を怠るわけにはいかないのだ。
「何かあるか?」
小声でレツが呟く。
「……いや、まだよく見えない。ちょっとランタンを貸してくれ」
ジッカが囁くように言う。
カインの手からジッカにランタンが手渡され中を照らす。
「…………こいつぁ…」
中は子供部屋だった。
魔法王国の物だと思うが奇麗な装飾が施され、そして小さなベッド、椅子、玩具らしきものがあった。
「へへ…さっきの扉のロック弱かった理由が分かったなぁ。多分ここの餓鬼んちょがかけたんだろうぜ」
ジッカが笑いながら言う。
「この中でなんか金目のモノってのはあるのか?」
そう言った知識に疎いレツが尋ねる。
「なかなかあるみたいだな。もっとも、運べるものとなると随分と減ってくるが…」
「ま、さっきの魔硝石よりはいい値になるんじゃねぇの?」
「ガハハ、そりゃ確かにこの部屋をみてるとそんな気がするな」
「じゃあ、とりあえずいい値がつきそうな奴をとりあえず漁ってくれ。一度集めてそれからどれを運ぶか決めよう」
『おう』
それから小一時間もしただろうか。部屋の真ん中に結構な量の装飾品が集められた。
「これは…あまり金にはならないな。これは…重過ぎる。邪魔になるだけだろう」
「か〜、もったいね。もうちょっとちいさけりゃぁなぁ…」
「俺にはどれもこれも一緒に見えるぜ」
そうしてある程度選り分けると今度は荷物袋に詰め込んだり体にかけたりする。
「よし!いいんじゃねぇの?重くはなってきやがったがまぁ、そこまで動きにくいほどじゃねぇし」
「なんか、俺が随分と多くないか?」
「しかたないだろう、レツ。お前が一番力あるんだから」
3人はガヤガヤ良いながら部屋から出る。
「どうする?まだ先はあるが…これだけ収穫はあったんだ。一応一度引き返した方が良いと思うが」
「あ〜、俺としちゃぁもうちょい行きたいんだけどなぁ。これだけ荷物があっちゃ仕方ねぇかなってきはするわな」
「このままじゃ俺はただの荷物係なんだがなぁ…まぁ、また来るつもりだろ?それだったらいいんじゃないか」
3人の意見はまとまった。
「じゃ、引き返しますかい。お〜し、レツ!あの岩頼むぜ!」
「岩か…次のためにきちんと位置をチェックしておいた方が良いな」
「だ〜!あれをか!……しかたねぇなぁ」
岩を穴に落としたり、その罠についてしっかり調べたりとまだまだ苦労を重ねながらも、3人の冒険者はオランにたどり着く。そしてまた例の冒険者の店へと入っていった。
「おお、帰ってきたか。どうだった収穫は?」
『バッチリよ!!!』
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