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| 登場人物紹介(一人だけだけど) ロビン:この話の語り部さん。戦士と盗賊の技を持ち合わせる冒険者。・・・と、書いたらカッコイイが、まだまだぺーぺーのぺー。 どれくらい眠っただろうか。その眠りが薄れ、散り散りになった意識が少しずつ、集まっていくのが何と無く分かった。 「う・・あ・・・」 そして、呻きのような声を上げながら、俺の意識は覚醒された。最悪の目覚めだ。多分、悪い夢を見たせいだろう。 窓の木戸からは外の光が漏れている。俺はその窓に手をかけると、思いっきり開け放ってやった。 その途端、強い日の光が俺の目を刺す。光から逃げるように、俺は視界を下の通りに落とした。 道端で果物を売る商人、行き交う人々。ここ、二階から見える景色は既に昼の色、一色だ。 やっと慣れてくれた目で空を見上げてみる。そこもまた蒼の色、一色の風景。蒼、蒼空。似てるな・・。あの日、あの時の空と・・。 「まいったなぁ・・道に迷ったかも・・・。」 俺は獣道を歩きながら独り、そう呟いた。周りの木々達はその声に応じてくれるかのように、その鮮やかな葉を風に揺らしてくれる。 「大体この地図、抽象的すぎるんだよ!誰だ!?作った奴は!」 地図の作成者に毒づいてはみるが、状況は変わりはしなかった。 くそう・・こんなことなら分け前ケチらないで野外に慣れた奴を連れてくれば良かったな・・・。 今回、俺が引き受けた依頼は手紙と荷物の配達。普通、手紙とこれくらいの荷物なら、街と街とを行きかう行商人なんかに手間賃と荷物を渡せば大抵は運んでくれる。受取人の方も、運んで込んでくれた人に、いくらか渡すのが慣習だ。 ではなぜ今回の依頼人はそうしないで、わざわざ冒険者の俺を雇ったのか?もしかして犯罪がらみ・・・?それとも俺が行商人に見えたとか・・・?いやいや、どちらも違う。人を雇わないと、誰も街道を外れたこんな辺鄙な村には来ないからさ。 しかしこのままでは村につけないから報酬がもらえない・・・。というか帰り道すら分からない・・・。遭難と言う二文字が背中にのしかかる。足取りが重い・・。と、急に視界がひらけた。 「森の広場」そこは、そんな言葉が似合うようなところだった。背の高い木々の代わりにごつごつした岩と草花たち。それらが、そこら中を占拠している。その中に、俺の目を奪って離さない一つの岩がある。それはとてもとても大きな一枚の岩。そして、 「よっ、少年。そんな所でなにしてるんだ?」 俺が声をかけると、その岩に寝そべっていた少年はよほど驚いたのか、岩からずり落ちそうになりながらこちらに向き直った。そして俺を確認すると、安堵の表情を浮かべ、そしてすぐに警戒した顔になった。年は十くらいか。典型的なワルガキだな。 「誰だ!おまえ!」 「あのさ、ここいらに村があるだろ?どこかな?」 少年の誰何の声を無視して、その岩の頂上まで登りつめる。 「はぁ・・いい眺めだなぁ・・・」 そこに広がる景色に思わず溜息をもらす。少年はじっとこちらを睨んだままだ。 「あ?ああ、俺はロビンっていうんだ。ほら、あの村に荷物を届けに来たんだ。お前の村だろ?あれ。」 俺はここから見える小さな村を指差し、問いかけてみた。しかし、少年は警戒を解いてないらしい。俺をまだ睨んでいる。 「おい、人がちゃんと名を名乗って、物を尋ねてるんだから答えろよ〜・・・・ん?」 まだ睨んでる少年の視線の先を追いかけてみると・・・・ 「これ?これが欲しいのか?」 ゆっくりと腰の剣を引き抜く。途端、そいつは目を輝かせ、「うんうん」と頷いた。 「よ〜し、特別に貸してやろう。そのかわり自己紹介と、さっきの質問に答えろ!」 「ケビン!名前はケビン!そうだよ、あれはオレの村だ!」 「ケビン〜?なんか似たような名前・・・。まあいいや。ほら、新品なんだから汚すなよ?」 ケビンは嬉しそうに俺の剣を受け取ると、早速振ってみたり、剣の構えの真似事を始めた。 「ロビンは冒険者?」 このガキ・・いくつも年上の俺を呼び捨てかよ・・・。ふっ、まあいい。大人の俺はこれくらいのことでは動じんよ。 「ああ、そうだ。さっきも言ったが、あの村に届け物が・・ってコラ!危ないから振り回すんじゃない!」 「あ、わりい。」 「クソガキ・・・まあそれはいいとして、念のため村まで案内してくれないか?さっきまで道に迷っててさ。」 「え?あ、オレ、ロビンの冒険談が聞きたい!」 剣を振るのを止めたケビンが俺の近くにどんと腰を下ろす。 「お?何を急に・・ん・・・別にいいけど。えっと、携帯食にビスケットがあったっけ・・ほら。」 「おう、サンキュ。」 俺も岩の上に腰を下ろすと、青空の下、自分の冒険談を話し始めた。とは言うものの俺の冒険談なんか高が知れている。仕方ないので酒場で聞いた他の冒険者達の自慢話を俺に置き換えて話した。オーガーと一騎打ちして首を上げた事、危険な遺跡の危険な罠をこうやってかいくぐった等どれも胡散臭い話だが、ケビンは俺のジェスチャー入りのその話を真面目に、そして目を輝かせて聞いてくれた。俺もケビンのそんな態度を感じ、話にますます熱が入った。結局、村に着いたのは夕暮れ時だった。 −−−数日後 俺はまだこの村にいた。無事、荷物は届け終わったが、受取人の方が手紙の返事と贈り物へのお返しを用意するというので、数日待って欲しいとのことだからだ。勿論礼金も出る。断る理由はないな。 その数日間、俺は親しくなったケビンと近くの河原で冒険談を語るのが日課になっていた。 「なあ、オレも冒険者になれるかな?」 いつもの河原。急にケビンがこんな事を言い出した。 「ん?さあ〜?なるだけだったら・・なれるんじゃないか?」 曖昧な返事をしながら心の中で舌打ちをする。しまった。冒険者の華やかなところだけを強調し過ぎたか。さすがにケビンを冒険者にするのは躊躇われる。しょうがない・・冒険者の苦労話でも話してやるか。自慢じゃないが苦労話ならネタは尽きないからな。ところが、退屈な田舎に暮らすケビンにとってはツライ苦労話も夢物語のように聞こえるらしい。嬉々とした表情で聞いている。しまった、逆効果。 「でもすごいな、ロビンって。いろんな冒険をしてるんだ。」 「え・・?そ、そうか?」 ケビンの素直な目に、俺は思わず目を逸らす。胸の奥がチクリと痛んだ。 「オレも、ロビンみたいな・・・」 「あ!そろそろ日が傾いてきたな!よし、今日はここまで!つづきは明日な。」 不意にケビンの言葉を遮ると、俺は勢いよく立ち上がった。明日からチョット自嘲しよう・・。 「え!?もうそんな時間?いいじゃん、もう少し・・」 「ダメだ。キリがない。さ、家に帰りな。」 するとあいつは小さな声で「うん・・」とうなずくと、夕焼けの中を帰っていった。俺の目には、その後ろ姿がなぜか寂しく見えた。 その帰り、不穏な噂を耳にすることとなる。 村人の一人が異様な人影を見たというのだ。その影は、手に棍棒のような物を持ち、背丈はゆうに2メートルを超えていたという。怪物?それとも熊と見間違えた?数人の村人達が囁きあう。そんななか、俺の頭の中では危険を知らせる警笛が鳴り響いていた。その話が本当なら・・その影はオーガーと見て間違い無いだろう。 「オーガー」、とんでもない馬鹿力を持った怪物だ。人肉が好物らしく、人を見れば必ず襲ってくる。こいつ一匹のために、村人全員が土地を捨てなければならなかった事もあったと聞く。ゴブリン相手に必死になってる俺には、到底太刀打ちできる相手じゃない。見間違いだといいんだけれど・・・・。 −−−翌日 俺はケビンのもとへ向かっていた。寝床を借りている親父さんに、ケビンの事について気になる事を聞いたからだ。 「おい、ケビン!」 いつもの時間、いつもの場所にあいつはいた。 「少し遅刻だぞ、ロビン!じゃ、昨日のつづき・・あ、ビスケットも。」 「お前の親父さんの噂を聞いた。・・・本当なのか・・?」 俺はケビンに会うなり、ずっと気になっていた事を聞いてみた。その質問に黙り込んでしまうケビン。しかし、その態度こそ噂が真実であることを証明するものだった。 「・・・ちょっと服脱いでみろ。」 「・・・・」 黙り込んだケビンに少しイライラした俺は、返事を待たずに服をめくり上げた。 「・・・!こんなになるまで・・・」 ケビンの身体に無数にきざまれたそれは、腫れ上がり、そして青黒い模様をそこらじゅうに散らしていた。 ケビンの親父はろくでなしだった。妻もそんな男に愛想を尽かし、若い男と街に行ってしまったという。幼いケビンを残して。 それからというもの、そいつは前以上にケビンに辛くあたった。仕事だった狩猟も子供のケビンに押し付け、自分は寝て暮らす毎日。獲物が取れなかったり、気に食わない事があれば容赦のない暴力をケビンに振るう。周りの村人達もそんなケビン同情して、獲物を分けてくれる事もあったが、この貧しい村ではそれもたまにだった。 そして、この数日ケビンは狩りに行っていない。俺とずっと一緒にいたから。 不意にケビンが俺の手から離れると、そっぽを向いて座り込んでしまった。 「ほら、傷薬あるからもう一度見せてみろ。」 「いい。薬なんかつけたらサボってるのがバレるから。」 声が微かに潤んでいる。そんなケビンの姿に俺は・・・・・。 俺は農夫の五男坊の子として生まれた。貧しい家では子供をたくさん産む。働き手が欲しいのと、自分が老いた時の面倒を見てもらうためにだ。 俺の親父もろくでなしだった。訳もなく、俺達兄弟をぶん殴ってた。母親は俺達を庇ってくれたが、自分に矛先が向けられるのを恐れて、次第にそれもしなくなった。そして、兄弟達のうっぷんは・・・・一番小さかった俺に向けられた。 家を出たのは確か俺が10、11くらいの頃か。家を出ると同時に名前も捨てた。「ロビン」というのも自分でつけた名前だ。だから俺に家名は無い。 そう、俺の人生はここから始まるんだ。 だからそんなケビンの姿に俺は・・・・・昔の自分を見た気がした。 「俺と一緒に、オランにくるか?」 「え・・・・」 俺の言葉に驚いた顔をするケビン。俺も内心ビックリしている。でも後悔はない。こいつを救ってやれるのは、同じ思いをした俺だけだ。 「どうする?くるか?」 「行く!絶対行く!」 「後悔なんかするなよ?」 「しない!絶対に!」 ケビンの純真な笑顔に、俺もつい顔が緩んでしまう。ああ、後悔なんかさせやしない。 「よーし!明日の朝、出発だ!待ち合わせ場所は、そうだな。ケビンに初めて会った、でっかい岩があるあの広場にしよう。ふふ、オランについてからは大変だな。まず、部屋を用意して・・・あ、字も教えてやらないとな。・・・ん?どした、ケビン。」 見ると、ケビンの顔に不安の色が浮かんでいる。 やっぱり、知り合ったばかりの俺について行くが恐くなったのかな・・?明日出発って言うのも急だしなぁ・・。 「・・・やっぱりやめるか?出発も先延ばしにしてもいいし・・・。」 「ううん!大丈夫!ロビンがいてくれれば安心だから。」 「そ、そうか?よし!日程はさっき言った通りな。遅れるなよ!」 照れ隠しにケビンの頭をクシャクシャにする。すごく嬉しかった。こんな俺でも頼ってくれるんだ・・・。ケビンは絶対一人前の男にする!俺は心にそう堅く誓った。 そして、次の日 俺は、森の広場へ続く道を急いでいた。約束の時間はもう過ぎてしまっている。 あれからすぐに帰った俺は旅立ちの準備を終え、すぐに寝床についた。が、明日の事を思うと頭が冴え、なかなか寝付けなかった。お陰で約束の時間を寝過ごす羽目になる。 こんな時にあいつを独りにするのは可哀相だな・・・。そんな思いが俺の脚を急き立てた。 急ぐ間も俺は、これからのケビンの事について頭を悩ませていた。 あいつ、冒険者に憧れていたけどヤッパリなぁ・・・。できればまっとうな職業に就いて欲しい。うん、もう少し大きくなったら見習いにでもやるかな。・・・・なんだか父親みたいだな、俺。 照れ臭い気持ちを振り切る様に、俺はさらに足を速めた。よし、広場が見えてきたぞ。 「・・・あ・・れ・・?」 広場にはケビンの姿はどこにも見当たらなかった。 かわりにいる、あの人影はなんだ・・・?動物か・・・? その影はしゃがんでるとはいえ、人というにはあまりにも大きかった。しゃがんで・・何をやってるんだ・・・? 心臓が早鐘のように鳴る。周りには、何か赤いものが飛び散っている。俺はゆっくりとその人ではない物に近づいた。そして・・・。 「うわああああああああああああああああああ!!」 その声に、そいつもその醜い顔をこちらに向ける。口の周りがべっとりと、赤く染まっていた。 俺は腰の剣を抜くと、渾身の力で奴を斬りつけた!だが・・冷静さを欠いた俺の剣では奴に傷を負わせる事はできなかった。奴の丸太のような腕で簡単に受け止められてしまう。 「うおおおおおおお!!」 俺は第二撃を放とうと大きく振りかぶる。しかしそこへ、奴の容赦無い蹴りが、俺のがら空きの胴に深々ときまった。 「・・かはっ・・・・!」 今まで、経験した事の無いほどの痛みが腹部を襲う。骨は嫌な音をたて、胃の中の物は口に向かって逆流してきた。 (ビュン!) 耳元で空を切る音がする。咄嗟に左腕で頭を庇った! (ゴン!!) 目から火が出そうになる。 奴が、膝をついてしまった俺に、止めを刺そうと、棍棒を思いきり横に振り抜いたのだ。 この一撃は効いた。俺は間合いを外そうと、わざと吹っ飛び、すぐさま起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。 意識まで朦朧としてくる。 その間にも、奴は不細工な顔をニヤつかせながら俺に近づいてくる。 くそ・・ここまでか・・・。やっぱり・・力が違い過ぎる・・・死ぬのかな?俺・・・。いや、死んだっていい!だけど、コイツだけは・・コイツだけは・・・! 何とか意識を保とうとする・・・が、まるで手ですくった水のように、意識は指の間からこぼれ落ちていった。畜生!このままじゃ・・・! (ガサガサ・・・) 「うわ・・・」 誰だ・・・?一体・・。微かに目をそちらに向ける。 奴も、新しい来訪者を確認しようと、身体をそちらに向けた。 少年だ。ケビンよりかは、いくつか上の。 狩りに来たのだろう。背中には、獲物を入れる皮袋を持ち、手にはクロスボウがある。しかし、その顔は血の気が引いてしまっている。 逃げろ・・!早く・・!そう叫ぼうとするが、俺の声は低く呻くだけにとどまる。 俺はもう動けないと思ったのか、奴は、新しい獲物の方へ向かっていく。残酷な笑みを浮かべながら。 「うわあああ!!」 少年が脱兎のごとく駆け出した。奴もそれに応じて走り出す。 俺の意識の糸はそこで途切れた・・・・・。 どれくらい眠っただろうか。その眠りが薄れ、散り散りになった意識が少しずつ、集まっていくのが何と無く分かった。 「う・・あ・・・」 そして、呻きのような声を上げながら、俺の意識は覚醒された。最悪の目覚めだ。多分、悪い夢を見たせいだろう。 「・・・・・・・。」 違う!眠っていたわけじゃない!夢なんかじゃない! 「ケビン!ケビン!!」 痛む身体を無視して、俺はケビンの元に駆け寄った。 ・・あ、ああ・・!ヒドイ・・・・・こんな・・!こんな・・・! 「・・・・・知ってたのか?お前・・・。この近くにオーガーがいること・・・。だから、だから昨日、あんな不安な顔したのか・・・?」 ケビンは答えない。 「でも、知っていたのなら、どうして・・・・。」 不意に、ケビンの声が頭に甦る。 『ううん!大丈夫!ロビンがいてくれれば安心だから。』 ・・・どうして・・・どうして、そう言い切れる・・・? 『でもすごいね、ロビンって。いろんな冒険をしてるんだ。』 でも・・!でも、俺、オーガーなんて・・・・。 『仕方ないので酒場で聞いた他の冒険者達の自慢話を俺に置き換えて話した。オーガーと一騎打ちして首を上げた事、危険な遺跡の危険な罠をこうやってかいくぐった等どれも胡散臭い話だが・・・』 あ・・・・・。 『・・を俺に置き換えて話した。オーガーと一騎打ちして首を上げた事、危険な・・』 ああ・・・・・そういう事か・・・・・。 俺は、拳を思い切り地面に叩き付けた。その衝撃で目から熱いものがこぼれる。 「ごめん・・・。ごめんよ・・・・・。俺を信じたばっかりに・・・。俺を頼ってくれたのに・・・・。」 その時、森の方から悲鳴が聞こえた。その方向に顔を向ける。さっきの少年の声だ。 畜生・・!逃げ切れなかったのか・・・!どうする・・?どうする!?ロビン!俺は、『すごいロビン』なんだろう!? ふと、俺の目がある物を捕らえる。それは、クロスボウ。さっきの少年が落としていった物だ。 左手の傷口を見てみる。血は固まっていない。気を失っていたのは、ほんの数分だろう。 「・・・・・・・・ごめん、ケビン。折角待ってもらったのに・・・俺、ちょっと行ってくるな・・・。でも・・・」 マントを、優しくケビンにかぶせてやる。 「・・必ず、仇は取るから・・!」 そのオーガーは、ご機嫌だった。一遍に、こんなに人肉にありつけたのは、久しぶりだったからだ。 腹をさすってみる。 (今の人間の子の肉は美味かった。だが、少し食いでに欠ける。でも、さっきの食いかけの肉もあるし、弱いくせに、俺に斬りかかってきた奴の肉もある。) 自然と、笑みがこぼれ、その醜い顔が更に醜くなる。森の広場までもうすぐだ。 嬉しさに足を速めた時、その足が、何かを引っかけた。次の瞬間、足を強く引っ張られた。 視界が回る。何が起こったのか分からなかった。気づくと、自分は大地の上に、仰向けに倒されていた。 オーガーが、引っかけた物のはロープ。そのロープは、近くの木に結び付けられている。 しかし、その木は、オーガーを引き倒すまでに留まり、あの巨体を、持ち上げるまでの弾力は持ち合わせていなかった。 (・・一体何が起こった?) 訳の分からないまま、上半身だけでも起こそうとする。 そのオーガーの上に、何か黒い影が降ってくる。結果、オーガーはその影に、上半身を押さえつけられる格好になった。 (!?さっきの人間!?動けるのか!) さっきまでのご機嫌はどこへやら、その小さい頭に、ふつふつと怒りの感情が湧きあがってくる。 (これ全てこいつの仕業か!?弱々しい人間のくせして生意気な!!) 怒りの雄叫びをあげ、食らい付こうと、その大きな口を広げるオーガー。しかし、雄叫びも、食らい付く事もできなかった。男がその馬鹿でかい口に、何かを突っ込んだからだ。 クロスボウ。 男は冷たい表情をしていた。まるで、触れたもの全てを切り裂き、凍てつかせるような。 男が、氷の刃の顔をしたまま何かを呟く。しかし、オーガーにその言葉の意味が分かるはずも無かった。 そして、クロスボウの引き金が引かれた。 「ありがとう。これのお陰で助かったよ。」 クロスボウをゆっくりと地面に置く。 「でも、ごめんな・・。助けてあげられなくて・・・。」 あれから俺は、あの広場に、二つ穴を掘ると、二人を大地に還した。 「ケビン、ごめんな・・。お前に話してやった冒険談、ほとんど俺のじゃないんだ・・・。ホント、ごめん・・。」 俺はゆっくりと腰の剣を抜くと、ケビンが眠る場所に、剣を立てた。 「これ、お前にやるよ。気に入ってただろ?ごめんな・・こんな事しかできなくて・・。オランに連れていってやるって約束したのにな・・・。」 俺は、堪え切れなくなって、空を仰いだ。。 「でも・・必ずまたここに来るから。その時は・・・本当の俺の冒険談を聞かせてやるからな・・・。」 空は、蒼く、高く、どこまでも広がってるはずだ。なのに、俺には・・・・涙色に染まった空しか見えなかった・・。 優しく吹き抜ける風に、ふと、我に返る。下の通りは相変わらず賑やかだ。 頬を拭った手が濡れている。・・泣いていたのか。 濡れた手を、自分に巻かれた包帯で拭く。 ・・・あれから俺は、そのままオランに向かった。怪我なんか知ったこっちゃない。すぐに、オランに帰りたかったから。 下宿先に着いた時、安心したのか、俺は気を失ったらしい。そして、今に至るみたいだ。 おかしい・・・。俺は、ある違和感に気づく。オーガーの直撃を受けたはずの左手が、ほとんど痛まない。それに、他の傷も・・。 布が擦れあう音がする。驚いて、そちらを向く。 あ・・・部屋に、俺以外に人がいたらしい。机に突っ伏して、眠っているが。 そいつは、リュートを大事そうに抱えて眠りこけている。 リュート・・・呪歌・・・ああ、癒しの歌か・・。 「・・ありがとな。」 そいつに毛布をかけ、礼の言葉を言うと、俺は再び窓辺に立ち、外を見た。 やっぱり空は、蒼く、高く、どこまでも広がっていた。 |
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