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No. 00087
DATE: 1999/09/09 01:43:43
NAME: ミルディン
SUBJECT: 陽鏡館殺人事件(序章)
PL注:これは、新王国歴506年の事です。
闇の中。ろうそくの炎が鏡の光を反射してきらめく。
よく見れば、わずかな光の中に人が2人居る事が分かる。
一つの影が口を開く。
「…これを実行すれば後戻りは出来ない。いいんだな?」
もう一つの影は無言でうなずく。
「よし…これで『運命共同体』というわけだ。では、誓いのワインを…」
互いのグラスにワインが注がれる。そのワインはろうそくの光を反射して血のように紅く輝いていた…
がちゃ。ぎぃ。
「すいません。ここって『テイル探偵事務所』ですよね?」
ドアを開けて、女性が入ってくる。歳は40ほどであろうか。いかにも、下町のおばさんといった風体である。
「はい、そうですが…ご依頼でしょうか?」
事務所にいた男はすぐに立ちあがり、接客用の椅子を勧める。
女性は勧められるがままに椅子にすわると口を開く。
「私の名前は、ソリアと申します。ところで、事務長さんは…」
「わたしですが?」
「…は?」
信用できないのも無理はない。その男はどうみても歳は20ほど。背は高いがひょろっとしている。
そして、にこにこと笑っているばかりで探偵のようにはとても見えない。
「えっと…あなたが、お金さえ払えばなんでもするって評判の?」
「そうです。ミルディン=テイルといいます。以後、お見知りおきを」
にこにこ笑いながら、握手をかわす。
「それで、依頼ですか?」
「え…ええ、実は…」
多少、面食らいながらも話を始める。
依頼の内容は、財宝探し。何代か前の当主が館のどこかに隠したらしい。
が、今まで発見した人はだれも居らず、毎年この時期になると一族などが集まって宝捜しをするらしい。
それで、ミルディンに宝捜しを手伝って欲しい、ということだった。
「なるほど…で、報酬は?」
「見つかったら、財宝の一割を差し上げようと思っています。多分、相当な金額になあると思われますから」
「では、残念ですがお引き受けは出来ません」
ソリアはさも、心外そうな顔をして問い返す。
「何故です?お金さえ払えばなんでもするのではなかったのですか?」
ミルディンは、にこにこした顔のまま、
「報酬が、安定していないからです。こう言っては失礼ですが…もし、財宝が今の世の中で役に立たないものであったら一割もらってももうけにはなりませんから」
ソリアは安堵したような顔で、
「なるほど。そういうことでしたか。それなら、もし財宝が役に立たないものであったらわたしから別に報酬差しあげます。これで、どうです?」
「わかりました。それなら、お引き受けいたしましょう」
「ありがとうございます!それでは、明日また来ますので!」
そう言うと立ち上がり、こちらにもう一度お辞儀をしてからドアを出て行く。それを見送った後、
「さて…久しぶりに面白そうな仕事ができたな…準備してくるか…」
ミルディンのその顔は、頼りなさなど微塵も残っていない、「探偵」としての顔となっていた…
「え〜っと、これと…あ、それもください」
とある、冒険者の店。目的地の館には歩いて2日ほどかかると言うのでいろいろと買い物をしに来たのだ。
「いや〜、それにしてもあんたみたいなのが探偵やってるなんて信じられないねぇ…全部で150だ」
と、世間話をまじえて店の旦那の一言。
「そう言わないでくださいよ。なにかあったらお引き受けいたしますよ」
にこにこ顔のまま言うミルディン。が、その笑顔が一瞬凍り付く。そして、身体のあちこちを探りはじめる…が、やはり見つからない。
「おやじさん…ちょっと、つけにしてくれない?」
店の旦那はにやにやしながら言う。
「さては…財布落としたか、すられたな?ま、お得意様だからな。今度来た時には払ってくれよ?」
「ああ、すいません。…どこで落としたのかな…?」
結局、帰り道を探したが財布は見つからなかった。
「そういえば…一回ぶつかってきた奴がいたな…」
事務所に帰ってから独り言をもらす。少し、考え事をしていたのでぶつかっても気にしなかったのだが…
「俺とした事が、すりなんかにやられるとはな…」
そう言ってにやりと笑う。別に、たいした物が入っていたわけでもない。なら、わざわざ探す気も起こらない。まあ、もう一度見かけたら話は別であるが…
「さて、明日は出発だ。そろそろ寝ておくか…」
翌日、早朝。護衛2人と一緒に来た依頼主と財宝のある館に出発した。
道中、どんな所なのかを簡単に聞いておく。
それによると、河と砂漠との境目の様なところにあり、河を渡っている吊り橋のみが他の場所との移動手段らしい。
「砂漠から、他のところには移動できないのですか?」
ミルディンが疑問を口にする。ソリアは残念そうに首を振りながら、
「砂漠は、肉食の獰猛な種族の巣になっているそうです。河の流れも速いですし…命が惜しければ行かない方がいいそうです」
「また、厄介なところに館を建てたもんですねぇ」
「なんでも、初代の当主様が外敵からの侵入を恐れてのことだそうですが…不便なんですよね、最近」
「そうでしょうねえ。財宝が見つかったら他のところにでも引っ越したらどうです?その時もお世話いたしますよ?」
「ええ、そうなったらぜひお願いしますわ」
そう言って、2人で笑う。
「さ、見えてきましたわ。あそこです」
そこには、先ほど聞かされていた通りの建物がそこにあった。正直、多少大袈裟なところもあるかと思っていたのだが、目の前にある河の流れの速さを見ると、そうではなかったのだな、と思い知らされる。
確かに、この流れの速さならどんなに泳ぎの得意なものでも流されるだろう。
吊り橋もかなりぼろぼろで危なっかしい事この上ない。
「あの…かなり、怖いんですけど……」
「大丈夫、すぐに慣れますわ」
(いや…俺、あと一回しか渡らないと思うんだが……)
おもわず、素のままの口調が口をついて出そうになるが何とかこらえる。
やっとのことで吊り橋を渡り終えると、かなり大きな2階建ての建物が目の前にそびえ立っている。
「……ん?」
ふと、横を見ると建物の影に妙な仮面とマントを付けた人がこちらを覗き込んでいる。直後、すいっと移動し、建物の死角に消える。
「おかしな人がいるんですねぇ…この暑いのに仮面やらマントなんかつけて…」
それに対して、ソリアはいぶかしそうに、
「何のことです?うちにはそんな人いませんよ?」
そういって、さっさと館の中に入っていく。
(なに…?じゃあ、さっき顔を見せていたのは…誰だ?)
そう思ったが、とりあえず依頼主について館の中に入っていく。
(また、ややこしい事が起きそうな気がするな…)
そんな予感がミルディンの頭から離れなかった……
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