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No. 00091
DATE: 1999/09/10 00:26:45
NAME: ラーニー・アダルシア
SUBJECT: 牧場岩巨人退治序章(笑)
薄紅色に彩られた口唇を,そっと小指で整える。
他に何を付けているわけではないのだが,
黒く長い髪と,陶磁器のような白い肌が,それをきわだたせている,
そんな赤さだった。
紅葉,そう、クリムゾン・リーフと呼ばれるこの植物は,
その名の通り,真っ赤な色をした葉を持つ多年草で,
夏になると,その葉の色は,鮮やかな緑へと変化する。
そして、・・・真っ赤な花を咲かせるのだ。
つぼみは,葉が緑になるにつれて,段々と紅くなる。
そして,真っ赤になったつぼみを咲く前に,つみ取り加工する。
すると見事な薄紅色の染料,というか口紅が出来あがる。
普通,化粧品などは金に余裕のある貴族などしか,しない物だが,
ここ、マーファ神殿にも口紅は置かれている。
・・・自然であれ,と説くマーファらしからぬと
言う者もいるかもしれないが,
好きな人の前で綺麗でありたいという女心を否定するほど,
女神は心が狭くはない・・・。
それに、マーファは結婚を守護する神でもある。
この神殿に置かれている口紅は,花嫁のための物なのである。
マーファ神殿で結婚式を挙げる時,
そう、一生に一度しか紅をひかない女性もいるのだ。
そんな彼女たちのためにあるのだが・・・。
「さーて、お〜やすみっ!,うれしいわぁ。」
と紅を引く司祭,ラーニー・アダルシア。
当年,・・・っと、ナイショである(笑)。
父母を亡くした時から伸ばし続けた黒髪は,とうの昔に身長を超え,
今では,高く結い上げたうえで,足首に届かんばかりの長さだ。
昔はエールを一杯飲んでひっくり返っていた彼女も,
今では休みの度に男を探しに,いや、結婚相手を探しに,
酒場を一晩飲み歩くのだから,年月も知れるという物だ・・・。
「司祭様。たいへんですっ!。」
そう言って飛び込んできた神官を取り繕った笑顔で向かい入れながら,
内心では・・・なんだってのよ?、私はこれから休みなんだけど。
と、思いつつ,聞く姿勢に入る。
「実は,えっと・・・その,ほら,ローダ村で。
じゃなくて、草妖精の目が大変で・・・,とにかく来て下さい!。」
最後の方は泣きそうになっていたので,
未熟な若い女神官を攻めるつもりはなかったが。
「取りあえず,ついていくから。その手を引っ張るのはやめなさい!。」
「あなたの悪い癖よ?,もっとしっかり説明なさい。」
と二言ほどいいつつ,頭を整理する。
・・・今日のお休みは返上になりそうね・・・ふぅ。(溜息)
ローダ村。
ここから(オラン)約3日。80戸程の小さな農村ね。
・・・たしか、ハザード河沿いの牧畜の盛んなところ。
うちの神殿系列の神官がいるはずだわ。
で、その地区の担当は私の管轄,なのよねぇ〜(溜息)。
施療の間につくと1人の草妖精が包帯でぐるぐる巻になっている・・・。
ひどい巻き方だ,これでよくここまで生きて来れたものだと。
草妖精と言う生き物の生命力に感心してしまった。
息を整え,女神に祈りを捧げる。
急にばたばたと暴れ出したかと思うと,包帯をふりほどいた草妖精は,
見えない、見えないよお,と騒ぎ始める。
どうやら,傷を負ったときに目を傷つけたらしい。
うごかないで!、と声を掛け,祈りを捧げる。
「慈愛と豊穣の女神マーファよ。大いなる御心の慈悲により,
このものに,再び光を与え賜え!。」
そっと手を離すと草妖精特有の大きな茶色い瞳がくりくりと動き出す。
「すごいや、おいら、急に夜が毎日続くようになったかと思ってたんだ!」
マーファってすごいなぁ,信仰しようかなぁ,などと言っていたが。
その目と同じくらい揺れ動く草妖精の心に,いつまで感謝の念があるかは,
怪しいものだ,とラーニーは思った。
「マーファへの感謝の祈りは忘れぬようにして下さいね」
と微笑むことは,忘れなかったが。
どうやら事情を聞くと,村では大変なことになっているらしい。
この通りすがった草妖精が囮になってくれて助かったらしいが。
先週の大雨で,住んでいたところを失ったらしい化け物が,
放牧場付近に住み着いたとのことだった。
数の方は正確には解らないらしい,というのも岩に化ける怪物らしいのだ。
数は最低でも4体。
襲われた村人を庇って,村にいた神官は亡くなったといううことだ。
まあ、その放牧場は今使わないようにしているらしく,
そもうえ,当面,向こうには攻めてくる様子もなく,安全らしいが。
村のすぐ側にそんなのが棲息してるのでは住民はたまらない。
被害がかさまないので,兵隊もなかなか来ないらしく。
・・・と、いうことだが。
「解りました,神殿の方で何とか手を打ちましょう・・・。」
私の独断でそう応えつつ,コレだからマーファ神殿って貧乏なのよねぇ。(溜息)
さて、大司祭さまをどうやって説得しようかしら・・・。
そんなことを考えつつ、廊下を歩きながら。
夏期の神殿運用資金と,この前行った冒険者の店の面々を
思い浮かべていた。
安いお金で,凄腕で,ぱぱーっと、やっつけてくれる冒険者。
・・・は都合よすぎかしら、ね(苦笑)。
今日あたり,酒場に行く用事が出来ちゃった・・・。
口紅は無駄にならなかった,けれど。
思いつつ,きゅっと唇を引き締めたラーニーなのであった。
新王国歴511年9の月4の日 ラーニー・アダルシア司祭
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