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No. 00095
DATE: 1999/09/11 04:09:15
NAME: アルト・ストラスト
SUBJECT: 少年への手紙
「あの少年のことを嗅ぎまわっていた男のことですが……」
エレミアの街の中でも大きな屋敷が立ち並ぶ一角。ここはそのうちの一軒、ストラスト家の屋敷の一室である。今、この部屋には二人の男がいる。一人はだたの男だ。服装にも顔立ちにも特に目立った特徴はない。しかし、普通の者であればその外見に騙されて気付かないだろうが、その男の纏う雰囲気は違った。彼はシーフの業を持つ者だ。ストラスト家の密偵として動き、今も彼の主にある報告をしていた。その報告を受けるもう一人の男が、ストラスト家、そしてストラスト商会の当主、アルト・ストラストである。
「一週間前から姿が見えませんでしたが、どうやらこの街を出てオランへ向かったようです」
「あの少年がオランにいることを知った、ということか?」
「突然、オラン行きを決めたようですから、恐らくは……」
「……」
アルトは考えた。少年との約束通り、彼はギルドに事件の揉み消しを依頼し、すべての処理は終わったはずであった。そう思った時に、あのファリス神官がエレミアの街で少年を探し始めたのだ。消すことも考えたが、事件を揉み消したのがギルドだということで、あの男に同調する者はいなかったため、監視を置くだけに留めた。少年はすでにオランへ旅立っているので、この街で少しばかりうるさくされたところで問題はない、むしろ、あの男の態度から、自ら冒険者相手に身を滅ぼすことも考えられた。
しかし、オランへ行き、少年の周りを騒がすとなれば話は別だろう。少年との約束もあり、代償も払ってもらっている。それに……あの少年が自由に動けないようでは彼の楽しみも減ってしまうのだ。
「困ったものだな……」
「俺が始末しますか?」
密偵の男の言葉に、アルトは苦笑いを浮かべる。
「それは駄目だ。おまえの仕事はそれだけではないだろう」
「では……オランへ送ったファルクに……」
アルトは少年の監視役として、オランへも密偵を送っている。少年の行動を逐一報告させるためだ。しかし、その男の仕事もそれだけではない。
「いや……良いことを思い付いた」
アルトはどこか楽しげに考えを披露する。
「今回のことは、こちらの手落ちでもあるが、あの少年のせいでもある。だから、少年にも少しは働いてもらおう」
「……あの少年に?」
密偵の男は、主の言わんとすることを察した。
「そうだ。だが、これでまた追われる身になっては元も子もない。むこうのギルドに事後処理を願うとしよう。事情を話せば、快く引き受けてくれるだろう」
アルトは机に向かうと、一通の手紙を書き始める。手紙の相手はオランのシーフギルドだ。もし少年があのファリス神官に捕らえられると、少年は全てを吐くかもしれない。そうすると、あのファリス神官がまわりに呼びかけ、アルトの組織に捜査の手を伸ばす危険がある。そうなれば、関連する組織もタダでは済まないだろう。むしろあのファリス神官は最初からそれを狙って少年を追っているという可能性もある(アルトは少しもその可能性を考えていないが、ギルドの助力を得るために、危険が自分だけのものではないとするために指摘している)。そういう理由から、あのファリス神官を始末したい。実行はこちらの手の者にさせるので、その許可と、成功の際は事後処理を願いたい。失敗した場合は……という内容をしたためた。
アルトのこの願い出は必ずギルドに聞きいれられるであろう。彼はただの商人ではない。ストラスト商会はエレミアの大きな人身売買組織の一つでもあるのだから……
「よし……あの少年を安心させてやろう」
アルトは再び筆を執った……
・・・・・(略)・・・・・
突然だが、君に謝らなければならない。君との約束を守ることができなかった。すでにそこへ到着していると思うが、以前から君のことを追っていた男が、オランへ向かってしまった。私の不手際だ。きっと君は目的を果たすための行動が出来ず、困っていることと思う。
そこで、君のために私は、君が事をなす際の不都合を全て排してあげようと思う。何も心配は要らないので、遠慮なくあの男を消してくれてかまわない。
・・・・・(略)・・・・・
「こんなものだな」
アルトは筆を置いて手紙の内容を読み返した。そして、ふと気付く。あの優しい少年では、もしかすると実行をためらうかもしれない。少年が大人しくあの神官が諦めるのを待つようでは面白くない。そう考え、彼は手紙の最後に次の一文を加えた。
君には私の好意を無にする事はできない。
少年――リック――の取り返さなければならないものは、アルトの手の中なのだ。
(PL注:リックは一般に少年と呼ばれる歳は過ぎているはずですね・・・(^^;)
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