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No. 00102
DATE: 1999/09/16 22:36:00
NAME: ウォレス&アンジェラ
SUBJECT: ウィンガールド家の騒動
その冬の寒い一日は幼いアンジェラにとって特別な一日だった。なぜなら、その日は幼いアンジェラにもっと小さい
家族をもたらしてくれた日だったのだから。アンジェラは大きな瞳を輝かせながら「ね、お父様、この子の名前は私に付けさせて
くださらない?ね、いいでしょう?」
「そうだな。アンジェラが名付け親なら、この子もウィンガールド家の名に恥じない立派な男子になるだろう。」
そう言って、父親はアンジェラの頭を優しくなでるのだった。
「う〜ん、そうね・・・・・。決めたわ、この子の名前はウォレスよ。良い名前でしょ?ね、お父様。」
その日、アンジェラ・シェルバー・ウィンガールドの弟としてウォレス・アルバ・ウィンガールドの人生が始まったのだった。
2人は兄弟の中で、いや家族の中で一番近しい存在だった。母親はウォレスが4つの時に亡くなっており、父親は領地経営に
忙しく、また兄達は年が離れ過ぎていた為に。
アンジェラがいわば母親の代わりをしていたのだった。ウォレスが幼い時は本を読んで聞かせ、騎士の訓練を受ける年になると
忙しい父に代わりアンジェラが剣を教えたのだった。
しかし、幼い姉弟の幸せな時は唐突に終わりを告げるのだった。アンジェラ14才、その容貌はオランの社交界で”銀の月”と称えられた
母にますます似てくるのだった。その噂を聞きつけたマードッグ男爵から縁談の話がこの幼い姉弟の幸福な日々を音も無く雷光のように
引き裂いた。
考えてみれば多分に宮廷陰謀劇の匂いが薄いヴェールを貫き通し、ただよってくるような話だった。
マードック男爵は新興の成り上がりであり、財力はあるが家格が無く、ウィンガールド家は100年前には宰相も出したほどの
名門だったが、ここ数十年の内に地方の家柄だけを誇る貧乏貴族に落ちぶれていたのだから、この縁談は両者の打算が生んだ、
アンジェラには望まれざる縁談だった。もっとも父親の方では成り上がりに娘を売って家を盛り立てる事に忸怩たる物があったのだが・・・・
長男である、アルフレッドに強硬に縁談を進められてしまった為、内心を表明する機会を逸し長男の強引さに引きずられる格好に
なってしまったのである。
「お父様は、アンジェラ姉さんを・・・・実の娘を売るつもりなんですか!!!」
「言うな・・・・・ウォレス、その事はもう何度も話したはずではなかったかな?」
父親の陰鬱な声に内心の苦悩を見る事が出来たが、まだ子供でしかないウォレスにはそこまでの洞察力は備わっていなかった。
「たとえ、縁談を無かった事に出来るとしてもアルフレッドが承知すまい・・・・・」
その父親の言葉を聞いた瞬間、ウォレスは父親の部屋を飛び出し兄の部屋に向かって飛び出していったのだった。
「アルフレッド兄さん、兄さんは姉さんを売って平気なの!!」
ウォレスの痛烈な弾劾はしかし、アルフレッドにさしたる痛痒を与えては無かった。平然とアルフレッドは言い放ったのだ。
「この縁談はウィンガールド家の為になる。私は妹たるアンジェラを売ってでも王宮に進出するつもりだ。」
あまりにも平然と言われてしまった為、ウォレスの怒りは消失しこの厳然たる事実を受け入れてしまったのだった。
しかし、縁談の話が進む一方で当事者であるアンジェラは密かに家出の計画を立て式の1週間前にその計画を実行したのだった。
アンジェラが家出をする夜、ウォレスはこの計画に気付き自分も連れていってくれるように頼むが断られてしまった。
「姉さん、僕も連れていって・・・・僕・・僕・・」後はもう言葉が出てこない。
「ウォレス・・・・貴方はまだ子供なのよ・・・・私は自分一人なら養っていく自信があるわ。でも・・・・」
言いよどみ、意を決した様に口を開く。「貴方は足手まといなのよ!!」そのまま後ろを振り返らずに立ち去ったのだった。
だが、アンジェラの顔に涙の筋が流れている事にウォレスが気付く事は無かった。暗闇の中だった為と泣く前に背を向けられた為に。
この事件から7年後、15歳になったのを機にウォレスも家を出、賢者の学院に身を寄せる事になる。
アルフレッドにはもちろん反対されたが、ウォレスは半ば家出同然にウィンガールド家を出たのだった。
数ヶ月後、アンジェラは傭兵になっていたが、奇妙な噂はその時に聞いた。ウィンガールド家の娘が死んで葬式までしたと言う噂を。
聞いた当時はそこまで家名にこだわるのかと怒りと悲しみが胸を締め付けたが、7年後ウォレスと再会し一緒に暮らし保護者になると、
微妙に心境が変化してきていた。
家出をしたにも関わらず、追手が掛からなかったのは、父親が手を回しアンジェラを死んだ事にしたのでは無いか・・・・
家名を守る為では無く娘を自由にする為に敢えて死んだ事にしたのでは無いかと。
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