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No. 00107
DATE: 1999/09/22 03:20:41
NAME: スナイプ
SUBJECT: 粛清
「こんな所に隠れていやがったのか・・・」
スナイプが廃屋に足を踏み入れると小太りの中年が小さく悲鳴を上げる。
彼の名はディルマン。スナイプとは親子ほども歳が離れているにも関わらず、腕は余り良いとは言えず、稼ぎも少なかった。
だがスナイプとは不思議と気が合い、何度か酒を酌み交わした事が有った。
「残念だぜ・・・アンタは腕は悪かったがギルドには忠実だった・・・俺は気に入って居たんだがな・・・」
足音も立てずに近づくスナイプに彼は懇願した。
「た、頼む・・・見逃してくれ!私が死んだら娘が・・・!」
ディルマンの娘の話はスナイプも聞いた事が有る。裏街道には全く似合わない程可愛らしく、将来どれ程の美人になるのか想像もつかないと自慢げに喋って居た。親馬鹿だなと笑った事を覚えている。
しかし「バンパイア・スキン」に掛かって居り、碌に外に出れなかったらしい。
「成る程・・・それで金が欲しかった訳か・・・確かにアンタの稼ぎじゃ神殿に頼む金はねぇわな・・・」
「もう、ずっと眠り続けている・・・後数日で死んでしまうんだ・・・だから・・・!」
この臆病な男がギルドを裏切るのには余程の覚悟が有ったのだろう。
「だがな・・・ギルドの金を盗んだのはやり過ぎだ・・・どうなるかは・・・知ってる筈だぜ・・・」
しかしスナイプは聞き入れず更に近寄る、その右手には冷たい刃が握られている。
ディルマンも後ろに下がろうとするが、すでに壁が背に有った。
「ギ、ギルドに取っては大した額では無いでは無いか!頼む今回だけは・・・」
「分かりきった事を聞くなよ・・・額の問題じゃねぇ・・・」
すぐそこまで近づきようやくスナイプの表情が見える。その顔からは何の感情も浮かんでは居なかった。
「一つでも例外を認めれば俺達はやっていけねぇんだよ!」
裏街道のドブ川を流れる死体を見てスナイプは呟く。
「どうせ逆らうんだったら・・・最後まで逃げ切れよ・・・馬鹿が・・・」
目撃者は誰も居ない・・・スナイプのその言葉も誰にも聞かれる事は無かった。
ふと、リュインが自分の事を「良い人」だと言ったのを思い出す。
(全く・・・とんだ「良い人」だな・・・)
彼は振り返らずその場を去った。
翌朝彼はギルドに足を運び、彼の上司である幹部の一人に声を掛けた。
「例の奴等・・・全員始末したぜ・・・」
上司の男は無感情に顔を上げる。
「そうか・・・報酬だ」
予め用意して有ったのか目の前にかなりの量の銀貨が置かれる。
「おいおい・・・こりゃ多過ぎじゃねぇか?」
銀貨の量は始末した連中の腕と比較すれば相場を遥かに越えていた。
「なに・・・友人を始末させたのだ・・・多少の色はつけてやる」
(成る程な・・・)
ディルマンを始末に行く途中、誰かが後を着けて居たのには気づいて居た。
腕だけならば目の前の男に比べても遜色無いと自分では思っている。
だが自分はまだオランに来て日が浅く、ギルドに対しても特に貢献している訳では無い。
早い話が信用されていないのだ。
(俺も試されてたって訳か・・・)
この金で謝罪の意でも示しているつもりなのだろうか?律義な事だと彼は思う。
(だが貰える物は貰っとくさ・・・)
金を受け取ると彼は黙ってギルドを後にした。
「やっぱり外って気持ち良い・・・」
愛らしい少女が空気をいっぱいに吸い込む。
「ありがとうお兄さん」
満面の笑みで少女は礼を言う。
「礼だったら親父に言いな・・・てめぇの病気を治す金の為にまだ遠くで働いてんだからよ」
「うん!でもお兄さん誰なの?」
ディルマンの友人だ、等とはとても言えなかった。
「・・・通りすがりの良い人だよ・・・」
納得したのかしないのか「ふーん」と首を傾げる。
「じゃあ俺は行くぜ・・・元気でな・・・」
手を振る少女に背を向けて彼は立ち去る。
「盗み見は趣味が悪いぜ」
立ち止まってスナイプが言うと陰からアーシャが出てきた。
「お前がガキと戯れるなんて珍しいからつい、な」
悪びれた様子も無くアーシャがにやっと笑う。
スナイプは舌打ちしてからまだ手を振ってる少女の方を見た。
「元気で、ね・・・」
アーシャが皮肉げに言って来る。
「何も分かっちゃいねぇんだよな・・・自分がこれからどうやって生きて行くのかも」
スナイプはそう言って視線を外す。
「罪滅ぼしのつもりかも知れねぇが・・・あんなのただの自己満足だぜ」
アーシャは肩を竦める。
ディルマンの言葉以上に愛らしい・・・身寄りも無くギルドの庇護も無い6歳の少女がこの裏街道で生き残れる筈が無い。
「んな、つもりはねぇよ。ただケジメをつけただけさ・・・」
そのままスナイプは喋らず。アーシャもそれ以上追求する事は無かった。
後日その少女は死体で発見された。予想より遥かに早く少女は人生を終えたのだ。
死体には暴行を受けた形跡も有った。あのまま病気で死んでいた方が幸せだったかも知れない。ふとそんな事を考える。
それを見てもスナイプは特に表情を変えなかった。彼は一束花を買うと少女の亡骸に添えた。
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