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No. 00118
DATE: 1999/09/26 01:31:00
NAME: ミルディン
SUBJECT: 盗賊退治(外伝)
自由人の街道。そこは、大陸でもっとも大きい街道である。大きい街道ということは、人の行き交いも多い…当たり前だが。ゆえに、盗賊の発生する確率も自然と高くなる。
「…おい、あいつ見てみろよ」
「あぁ?なんだよ?ただの旅の奴だろ?別に、気にする事もねぇじゃねぇか」
いかにも、「自分は盗賊です」と言わんばかりのいでたちをした男がもう一人の男に答える。
「いや、俺には分かるね。あいつ、なにか金目のもの持ってるぜ。荷物を大事に抱えすぎだ」
「そうか?…ま、金目のものに鋭いお前がいうんだから間違いねぇだろうな」
言われて見てみれば、重そうに荷物を抱えている男は、確かに大事そうに荷物を持っている。
「でも、だからどうしたってんだ?親分はこういう奴からは金、巻き上げようとしねぇだろ?」
「だから、だよ。やつはたった一人だ。二人で奇襲すれば、あんなひ弱そうな奴、あっと言う間だぜ?それで、二人でやつの持ってる荷物を山分けしちまうのさ。…なぁに、ばれやしねぇよ」
「で…でもよぉ…もし、ばれたら……」
「なんだ。怖いのか?」
にやりと笑って男が答える。…いかにも、「てめぇはこんなことも出来ねぇのか?」というニュアンスを含ませた笑いで。
「んだとぉ…そこまで言うなら、やってやろうじゃねぇか!」
「…ふぅ。あと、オランまで6日ってとこか。しかし、5年間で貯めた金がここまで多いとは……」
ミルディンは背中に背負っている荷物を見ながら苦笑した。これのおかげで、歩く速度が相当遅くなっている。もし、途中で行商人達の集団に会わず、もしくは馬車に乗せてもらえなかったら、まだ半分も進んでいないのではないだろうか…いや、そこまではおおげさか。
「よ…っと」
荷物を置いて一休み。さっきから、一時間ぐらいごとに休みをとっている。(だから、もっと体力付けたほうがいいって言ったじゃないか。)
頭の中で、自分の助手の声が聞こえた…ような気がした。
(やかましい。俺は頭脳労働専門なんだ)
自分の心の中で言葉を返して、出発しようと立ち上がる。
「…ん?」
がさり。わきにあった林でなにかが動いた。次の瞬間、いかにも盗賊風の男2人が、こちらに向かって突き進んでくる。
足並みも、連携の仕方もてんでばらばら。しかし、戦士の心得のないミルディンは躱しきれず、何度か服をかする。
なんとか間合いを取ると、荷物を持ち直す。
「おい!話が違うじゃねぇか!何が『奇襲』すればあっという間だよ!」
「うるせぇな!少し手違いがあっただけじゃねぇか!気にするな!」
「お前ら…あれが奇襲だと思ってるのか?」
半ば、呆れぎみでミルディンが答える。これが、みごとに盗賊たちの神経を逆なでした。
「う…うるせぇ!おとなしく、その荷物を渡しやがれ!」
そう言いながらも、2人そろってミルディンに向かって襲い掛かる。しかし、ミルディンは慌てもせず、
「お前らの目当てはこれだろう?そら!」
そう言うと荷物の中から、よく光を反射する宝石を2・3個掴み取り、空に向かって放り投げる。宝石は太陽の光をよく反射し、盗賊たちの目を一瞬引き付ける。ミルディンが狙っていたのはこの瞬間だった。右手の中指に付けた指輪(あまり似合ってない)をかざして、魔法を唱えはじめる。
「眠りをもたらす安らかなる空気よ!」
<眠りの雲>が完成し、宝石に目を奪われていた盗賊は簡単に眠りに落ちる。それを確認すると、すぐに投げた宝石を拾い集め荷物に入れなおす。
「まさか、ここまでうまく行くとな…さて、こいつらをどうするか…とりあえず…」
そう独り言を言うと、盗賊たちに近づき起こさないようにして、金目のものを漁る。もし、ここに通行人がいたら、盗賊と判断されるのはミルディンの方だろう。
「ちっ、これだけか」
まるっきり、盗賊としか思えないセリフを吐く。
「まぁいい。これで、他人からものを取られる悔しさが分かっただろうからな」
そう言うと、ミルディンは荷物を持ってその場から去っていった…
盗賊の拠点。おそらくは、どこかの洞窟だろう。そこに、さきほどの二人は戻ってきていた。眠りこけていた所を仲間に発見されたのだ。
2人の前には、なかなか豪勢な椅子に座った人物。ここの盗賊団のボスであろう。そこで、二人は先ほどの出来事を話していた。かなり、焦って。
「魔術師か。おもしろそうだね。仲間に誘ってみるか…いいな、お前ら。そいつを見つけたら、生かしてここまで連れてこい。…お前らの失態は面白そうな奴を見つけたって事でチャラにしてやるよ」
「あ…ありがとうございます!!」
地面に額を擦り付けるようにして頭を下げる。二人の頭の中には、助かった…という言葉しか浮かばなかった。
「全く…どうなってるんだ!」
苛付いた調子でミルディンは独り言を言う。あのあと、頻繁に盗賊に襲われるようになっていた。今いるところは街道から少し離れた森のなか。こうでもしていないと、あっと言う間に盗賊たちが群がって来るのだ。仕方なく木の上で1日ほどすごし、まわりの様子を使い魔のハト、キルルを使ってまわりの様子を探らせているが、この森にも盗賊が多い。ミルディンの知らない事だが、この森には盗賊の拠点があるのだ。盗賊が多くて当たり前である。
「…くそっ。また、オランにいくのが遅れるじゃないか…」
いくら、焦ってもどうしようもない。仕方なくミルディンは、その木の上で横になった……
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