 |
No. 00130
DATE: 1999/10/01 00:21:20
NAME: ジャルド
SUBJECT: レイラ救出計画 序章、始まりの刻
登場人物紹介
ジャルド ガレー船「黒い炎のサラマンドル」の船長。暗黒神官。
レイラ ジャルドの副長。
ミルディン オランの探偵。
ヴェイラ ミルディンの助手。
レドウィック(レド) 魔術師。ジャルドとは友人。
フェリアス 賢者の学院の院生でレドとは知り合い。
シード 殺人癖のあるキレたシーフ。
フォーリー・マクレイン 左目に眼帯をした自称フェミニスト。
ケイ 駆け出しの吟遊詩人。レイラの妹。
アンジェラ 気の優しい傭兵。
ウォレス 駆け出しの魔術師。アンジェラの弟。
リュイン やさしくて陽気なシーフ。
リック ものすごく生真面目なシーフ。(ケガのため欠場)
アレク 元傭兵。かなり真っ直ぐな性格。
レイシャルム お節介焼きな吟遊詩人。
ディオン 人一倍お人好しな神官戦士。
セリア 好奇心旺盛な女魔術師。
カイ ちょっと暗めのハーフエルフ。
ラス かなり口の悪いハーフエルフ。
ロイランス(ロイ) マイペースな商人の息子。
シュウ 堅実な魔法剣士らしい。
マトックマン 豪放軽快な傭兵。
ランド 精霊使いの男の子。
ミルダス 豪放磊落な戦士?
ディック 銀の槍を持った戦士。
マイエルリンク オラン衛視隊海上保安第7分隊隊長。
ノルト 同隊員。
シャンバーク 雇われ絵師兼拷問役。
prologue
ずきん。右腕の鈍い痛みで目が覚めた。相変わらず暗闇に閉ざされ、聞こえるのは波の砕ける音と荒々しい風の音。時折、どかどかと上階を駆け回る足音が聞こえるばかりで、頭の中には不安ばかりが募っていく。
(私は……このまま殺されてしまうのかしら……?)
すと、と座り込んで壁にもたれかけ、はぁ、とため息を付く。後ろ手に縛られた腕からは、じんじんと痛みだけが伝わってくる。
しばらくすると、不意に扉が開く音がした。しかし、闇は晴れない。開いたドアから湿気と塩を含んでむっとする熱風が、室内をそっと撫でる。風に乗って、ざあざあと雨が降り注ぐ音も聞こえる。
……かつ、こつ、かつ…暗闇の中から足音だけが近づいてくる。
「だ、誰なの?」
「……」
「私を…どうするつもりなのっ?」
「……答える必要はないな」
すぐ目の前の闇から、低く、くぐもった声が返ってきた。そして、すうっと闇の中から腕が伸び、顎を掴む。そして、もう片方の手がすうっと右頬を撫でる。ざわざわっと悪寒が背筋を走り、総毛逆立つ嫌悪感に包まれる。すぐ目の前からは、荒々しい息づかいが聞こえ、ムッとする汗の匂いが鼻をつく。
「い、いやぁっ!やめてっ!」
足をじたばたさせ、体をよじってどうにか2つの手から逃れる。闇の中の気配は、私を追いかけようとはせず、かたり、と何かをその場に置く。
「服は洗っておいた。ここに置いておくぞ。オレが戻ったら縄をほどいてやるから、それまでじっとしてろ」
それだけ言うと、闇の中の気配は足音を残して部屋を出ていく。がち、がちりと重々しい鍵の音が聞こえ、再び室内は静寂に包まれる。
(ディックさん、みんな……助けて……私、怖い……)
Chapter.1
ついさっきまで灰色の石畳を濡らしていた雨も上がり、辺りは朝日を浴びて淡い紫に染まり始める。静まり返った早朝の倉庫地帯をマリーはミッキーとともに集合場所へと急いだ。
「なあマリー、…はあ、はあ。どうしたんだよ急に?」
「説明は後っ!いいから急いでっ!」
時々吹き付ける海からの突風が、まるで二人の行く手を阻むかのように潮飛沫を持ち上げて視界を閉ざし、二人の髪を濡らしていく。
「あ、あそこよっ!ほら!」
マリーが指さした方向には、すでに何人かの人影が見える。
「だ、だから、一体なんだって言うんだ……こんな朝早くに……」
二人は階段をかけ昇り、人影の待つ広場へと向かった。
「はあ……はあ……間に合った……」
「遅いよ、マリー。ほら、さっさとアジトへ案内して」
「そうじゃそうじゃ。早く海賊どもの首をこのマトックで頭をかち割ってやりたいんじゃ!」
すっかり雨で濡れそぼったアレクは、剣を片手にいらだった様子を隠せないでいる。そんなアレクを心配そうに見守るレイシャルムを後目に、ぶんぶんとその大きなマトックを振り回すマトックマン。
「ね〜ラス〜〜寒いから早く行こうよ〜」
「もう少し待てって。まだ来てない奴が居るんだろう?アレク」
「うん。あとディオンとセリアが来てない」
「あいつら…ほっとこうぜ。このままじゃ戦う前に風邪ひいちまう。ほら、カイこっちにきてな」
「はい……」
ラスは眠そうな表情で堤防に座り込んでいたカイを木陰へ呼び寄せ、そっと肩を抱く。そんな仕草を見てロイランスとシュウは顔を見合わせてくすくすと含み笑いをする。
「ねえ、早く行かないと本当にまずいんじゃないかしら……?あの子達も風邪を引いてしまうわ」
「っくし、誰だよ〜早くしてくれよ〜」
「もう!はやく!早くしないとケイが!」
ランドとリュインはそわそわと落ち着かない様子で、木陰でウトウトしてるウォレスとミルダスの周りを行ったり来たり……と、そのとき、街の方から手を振りながら駆けてくるディオンとセリアの姿があった。
「ごめんね〜、ちょっと遅れちゃった♪」
「揃ったようね。マリー、案内して」
「ちょ、ちょっと待てよマリー。どういうことなんだ?」
急かすアレクを申し訳なさそうに遮って、ミッキーはマリーに詰め寄る。
「私、この人達と一緒にケイちゃんって言う女の子を助けに行くことに決めたの。だから、ミッキーも手伝うのよ!」
「そ、そんな…いつも急だな、マリーは……」
ミッキーはがくっと肩を落とし、あきれ顔でマリーを見つめる。マリーは何も言わずに、アレクの袖を引っ張って階段を下り始める。
「やれやれ、これから忙しくなりそうだな……と」
そう1人ごちたレイシャルムも、アレクに続いて足早に駆け下りていく。
「ミッキーたちも、ほら!早く!」
リュインは、ミッキーとランドの肩をたたいて颯爽と階段を駆け下りていく。ミッキーとランドも、顔を見合わせて苦笑いし、いそいそと階段を駆け下りる。
「よしゃよしゃ。腕が鳴るのぉ〜〜」
迫り来る戦いの予感に、マトックマンの顔が紅潮していく。腕をぶんぶんと大きく振り回し、ばっと大きなマトックを構える。そして、まるでイノシシのような力強さを振りまいて石段を飛び降りていく。
「さあ、気合を入れなさい!いつまで寝ているつもり、起きなさい!」
「ふぁ……へへ、任せとけって! ケイとは古いつき合いだからな」
アンジェラはすっかり眠りこけているウォレスとミルダスを起こすと、手早く武器を確認する。ミルダスは気の抜けたような返事をして、まるで軽業師のようにひょいひょいと階段を下りていった。
「ったく、ケイも無茶をしてくれる…いくら温厚な俺でも怒るぞ!?ふふ、ぐだぐだ言ってないで行くか!そら、早くしろって!」
「え〜風邪引いたらどうするのさ〜〜ラスが責任取ってね〜」
「ふっ…ラスの顔を立てて行ってやるか。そっちの彼女のためにもね」
「お前ら、クソくだらねえこと言ってねえでさっさと来い!ほら、カイもはやく!」
のんびりと動き始めたロイとシュウに向かって、階段の下からラスが怒鳴る。
「ケイ……無事でどうか無事でいてくれっ……」
薄紫色から鉛色へと変化し始めた空を仰いで呟いたディックの祈りの声は、果たして届いたのであろうか……。
Chapter.2
「……いいか、作戦をもう一度確認する。まず、レド、フェリアスは足止め用の駒を少々作る。シードとマクレインはそれを使って牢屋の周りを一掃しろ。そして誰も近づけるな!ジャルドとレド、フェリアス、そして私はその隙を見て牢屋へ侵入し、片っ端から牢を開けて囚人を全員解放する!そしてレイラを回収して逃げまどう囚人どもに紛れながらオレ達も裏路地へ逃げる。後は船に戻ってさっさとおさらば、と言うところだ。わかったのか?」
ミルディンはさして広くもない部屋の中を、ぐるぐると動き回りながら念仏のように話し始めた。じりじりと獣脂の焦げる音と鼻を突くきつい匂いが室内に充満する。一通り説明が終わって、ばん、と机を叩くと、眠そうに虚ろな目をしていたマクレインはびくっと跳ね起きる。シードはじろっとミルディンを睨み付け、ふっと肩をすくめる。
「…へいへい、わっかりましたよ。でもよぉ、俺やマクレインはどうなるんで?死ねってんじゃないでしょね?」
シードは声を荒げてミルディンに食い下がる。ミルディンの方も苛立ちが身をくすぶるのを感じ、シードの目の警告を無視する。
「何のための作戦なのかを考えろ。陽動だろう?お前達は駒を誘導する役で、1分でも多くの時間を稼ぐことにある事を忘れるな。我々の作戦をより確実に遂行するためには、な!」
「それじゃ、誘導が終わったら好き勝手にやらせてもらうぜ」
「…かまわんさ。だが、失敗したときは命はないと思うことだ。お互い、足を引っ張り合わないようにせいぜい頑張って欲しいものだ」
「へっ」
「おい、もう始めるんだろ?さっさと終わらせようぜ。野郎ばっかりの部屋に何日も居られるかっての」
ミルディンとシードのやりとりを見ていて飽きたのか、おどけたマクレインは大きくのびをして、用意しておいた色眼鏡と煤で真っ黒になったローブを羽織る。一方、無表情なフェリアスはつまらなそうに部屋を出ていった。
(……ツイてないな。何でこんな頼りないヤツらが先陣なんだ?本当に、三角塔とお別れと言うことになりかねないな……仕方ない。出来るだけレドに付いていることにするか……)
「どれ、一つ疲れる仕事でもしてみるか……ジャルド、全部終わったらプリシス産の赤ワインの一つぐらいは出せよ」
「もちろんだとも、レッディ。酒の一つや二つで済むならな」
レドとジャルドはにやりと微笑み、大げさに紅の外套をばっと翻して足早に部屋を後にする。それに続くようにミルディンとシードも無言ですたすたと出ていってしまった。
「ふはは、生贄も手に入った……レイラ、もう少し、もう少しの辛抱だ。待っていろよ……」
ジャルドは油臭いカンテラを消して部屋を後にする。もうそこには暗闇と油の焦げる匂いだけが残り、吹き募る風の音だけが響いていた。
meanwhile...
「なぁなぁ、マイエルリンクの旦那♪あのイキのいい女海賊、モウジキ縛り首なんだって?」
相変わらず薄汚れた外套を身に纏い、カンに障るイヤな声を発しながら足早に近づいてくる。マイエルリンクは手元の書類にざっと目を通すと、顔の前で手を組みあげ、じろっと雇われ絵師のシャンバークを睨む。
「ずいぶんと夜遅くに来たかと思えば……そうだ。その件についてはお前の出番はもうないと思うが?」
「そんな〜ツレないこと言わないでくださいよ。ドウセ殺すんだから、もちっと遊ばせて貰いたいなぁ、と♪」
「却下だ」
満面の笑みに邪悪な色が過剰なまでにブレンドされたシャンバークの表情が曇る。そして相変わらず無表情なマイエルリンクの顔。ランタンの油がじりじりと音を立て、時折、ぱちぱちと煤の爆ぜる音だけが辺りに響き渡る。
「ちぇっ…じゃあ、見るだけなら構わねぇだろ?」
「……見るだけなら、な。ノルト、案内してやれ」
マイエルリンクは、シフト明けで帰ろうと、着替えをしていたノルトに声をかける。ノルトは手早く服を着て、ぱっとマイエルリンクに敬礼をする。そして、ぶすっとした様子でシャンバークを睨み付けると、壁に掛けてある鍵束を持って地下牢へと続く重く大きいドアを開ける。ぎぎぎぃぃぃ……がこん。
(こんなヤツを彼女に会わせたくない……だけど、隊長の居る手前、仕方ない……)
ノルトはゆっくりとした足取りで、薄暗くて黴臭い石段をゆっくりと下り始める。
Chapter.3
マリーは肩で息をし始め、雨と海水で濡れた体をぶるぶると震わせる。そして走ること半時、港にほど近い古ぼけた一軒家へと着いた。風雨にさらされ続けたその石造りの外壁は灰色にくすんでいて、ちょっと手を触れるとぼろぼろに崩れてしまいそうな印象すら受ける。
「こっ、ここがぁっ、や、アジトです…はぁ……」
「マリー、大丈夫?ムリしないで!」
先行していたはずのアレク達を途中で追い越したリュインは、力無く石畳の上に座り込んだマリーにそっと外套を被せ、肩をぽんぽんと叩く。みんな疎らになりながらもなんとか到着し、みんな疲れ切った様子で荒々しく息を切らせている。
「しっかし……姉ちゃん、足が速いな〜、気が付いたらほとんど見えなかったよ?まあ、あの波飛沫の中じゃ、ウンディーネでもない限り見えるモンじゃないけどね」
息を切らせながらランドがマリーの方へ近づき、疲れた表情でにっこりと微笑む。そしてマリーの視線を追って、目の前にあるぼろぼろの一軒家を見上げる。
「ここがアジト?」
「そうよ。はぁ、はあ……ミッキーが行ったときには誰も居なかったけどね」
「それなら中に入って何かないか探してみようぜ」
ラスとディック、マトックマンとウォレスは、入り口のドアのすぐ脇に立ち、中の様子をうかがう。しかし、物音一つせず、中は静まり返っている……ラスは慎重にドアの鍵を開け、そーっとドアを開ける。ディック、マトックマン、ウォレスも息を殺しながらそれに続くように、後ろからゆっくりとついていく。ディオンもそれに倣ってついていこうとするが、セリアに腕を引っ張られて立ち止まった。
「みんな行く必要はないわ。それより、周りも探してみましょ」
「…そうだな。よし、俺とセリアは周りを探しに行ってみるけど、誰か来るか?」
「周りにも何もなかったぜ?……そうだ、もう一つ……」
ミッキーは苦笑いして言いかけたが、ふと、顎に手を当てて考え込む。
「他には……船だ、船の場所なら知っている。それでもいいか?」
「そう?それじゃミッキー、裏を案内して」
「おっと、俺も行くぜ」
「僕も!」
そう言うなり、ミッキーは植え込みをかき分けて裏手へとゆっくり歩き出した。セリアはディオンの手を取って、もう鬱蒼とした植え込みの中に消えていったミッキーを追い始める。名乗りを上げたミルダスとリュインも後を追って足早に植え込みの中へと消えていった。
「……気を付けてくださいね」
カイは裏手へと消えていった4人の背中にそっと囁き、軽く手を振る。
「オレ達は、ここで、見張り…と」
シュウがぽつりと呟くと、まるでタイミングを合わせたかのように、ロイは軽くくしゃみをして鼻を擦る。
「さて……いつ敵が現れてもおかしくない。オレ達も戦える用意だけはしておかないとな」
レイシャルムは外套でアレクを覆い、もう片方の手で剣の柄を握る。シュウやロイはそれを聞いてごくり、と唾を飲み込む。辺りには心地よい(?)緊張感が背筋を駆けめぐりはじめる…。
 |